【ヤマノイモ科、万葉集にも2首】
ヤマノイモ科ヤマノイモ属のツル性多年草で、全国各地の山野に生える。夏にひも状の花穂を伸ばし、淡緑色の小花をたくさん付ける。雌雄異株。雌花の花穂は下垂し、花を咲かせながら次々に緑色の実を結び始める。蒴果で、秋になると茶色く乾燥し3つに裂けて種子を飛ばす。別名「オニドコロ(鬼野老)」。
トコロの地下茎は横に這って、ひげ根を多く生やす。「野老」はそのひげ根を老人のひげに見立てたもので、エビが「海老」なのに対し野の老人として野老の漢字が当てられた。古く万葉集にも「ところづら」として2首登場する。「皇祖神(すめろぎ)の神の宮人ところづら いや常(とこ)しくにわれかへり見む」(巻7-1133、作者不詳)。
学名は「Dioscorea tokoro(ディオスコレア・トコロ)」。属名は古代ギリシャの医師・植物学者のペダニウス・ディオスコリデスの名前に由来し、種小名は和名のトコロがそのまま使われている。命名者はNHKの連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデルにもなっている牧野富太郎博士。
「○○ドコロ」と名付けられた植物は少なくない。同じヤマノイモ科にはヒメドコロやカエデドコロ、タチドコロ、キジカクシ科にも可憐な白花を付けるアマドコロ、ナス科にもハシリドコロなど。いずれも太い根茎がトコロの形に似ていることから命名された。
埼玉県南部に位置する所沢の地名の「所」は一説にこのヤマノイモ科のトコロに由来する。所沢市の市章はトコロの葉を図案化したものが使われている。トコロの干したひげ根は正月、長寿を祈る“蓬莱飾り”としてエビなどとともに飾られてきた。「海老野老(えびところ)台を同じく飾りけり」(名和三幹竹)