経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日本に残った最後の道しるべ(5)

2012年07月08日 | 経済
 連載も長くなった。今日は、消費増税のソフトランディングに必要な第二のポイント、駆け込み需要とその反動の軽減について述べ、次回でシリーズを閉じることにしたい。

 さて、財政当局の公式的な見解は、1997年の景気後退において、消費税は主因でないとするものだが、その基になっているのは、6/28の本コラムでも紹介した「消費税増税のマクロ経済に与える影響について」という報告書である。そこから垣間見えるのは、駆け込みと反動に関する警告のネグレクトだ。  

 経済の動きに対する解釈は多様だから、消費増税の景気への影響を軽いとするのも一つの見識ではある。しかし、そうした論者の一人である上智大の中里先生でさえ、駆け込みと反動の問題性は報告書で指摘しているのである。しかるに、今のところの財政当局の動きを見れば、それは無視されているとしか言いようがない。手前勝手な結論に酔い、備えを怠っているのではないか。

 駆け込みを軽減するための天王山となるのは住宅投資である。どうも、財政当局は、今日の日経にあるように、住宅ローン減税の延長程度でやり過ごすつもりらしい。これから政治との折衝過程で上積みも考えているのだろうが、経済的な必要性によるのはなく、政治的な必要性でもって経済運営をしようとする態度そのものが問題である。

………
 1997年の消費増税のとき、前年に150万戸程度だった新設住宅着工戸数は、168万戸まで伸びた。もちろん、駆け込みの存在は認識されていたが、1991年の底から5%台のペースで回復してきており、阪神大震災のあった1995年に大きく落ち込んでいたから、その反動で伸びたとも思える範囲だった。そこに油断があったように思う。

 フタを開けてみると、1997年は一気に16%・25万戸も減少し、1998年には更に13%も下がり、120万戸を割ってしまう。実に、3割近い落ち込みである。むろん、景気には大打撃だったし、その後、住宅投資は120万戸を行き来するだけになり、構造変化を来たしてしまう。実は、この時、無策だったわけではない。1997年度には、住宅取得促進税制などで1200億円規模の減税措置も講じてはいたのである。

 今回は、前回の消費増税の1.5倍の上げ幅であり、その上、1年半後の更なる2%アップまで決まっている。住宅のような一生に一度の大きな買い物は、当然、数年先まで視野に入れて行動してくる。加えて、超低金利になっているので、金利先高観による動機も強烈なものになるだろう。それを、もっぱら住宅ローン減税の「延長」で対応しようというのだから、まったく話にならない。日本の財政当局の経済運営の能力は、この程度なのである。

 まじめに対応策を考えるなら、住宅への消費増税の課税は、半年遅らせ、増税で一般消費が落ち込むときにズラすべきだろう。非課税措置が実務的に難しければ、課税分をそっくり返す住宅エコポイントの実施でも構わない。少なくとも、複雑で分かり難い減税措置を膨らますくらいでは、とても駆け込みを押さえ込むことはできないだろう。

 もっとも、課税時期の一部先延ばしのようなことをすれば、駆け込みが考えられるのは、住宅に限らず、自動車も、太陽光発電も、家具や家電も考えられるのだから、あちこちから要望が上がって、収拾がつかなくなるかもしれない。そして、「なぜ一気に3%も上げるのか」、「なぜ1年半しか間隔を置けないのか」といった、そもそも論を問われることになるだろう。戦略が悪いときには、戦術に無理が生じ、得てしてこういうことなるのである。
(つづく)

(今日の日経)
 堅調景気に欧州の影、シニア主役の個人消費。住宅ローン減税の延長検討。社説・成長の壁破る政策に。教育費積み立て優遇。円に戻らぬ所得黒字。黒子が支える電力改革。読書・日本近代史・杉山伸也、桂太郎。

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