経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

増税だけなら簡単だ

2012年07月17日 | 経済
 経済運営の難しさは、成長を維持しつつ、貯蓄投資の不均衡を直していくことにある。日本の場合、不均衡は財政赤字ということになる。財政赤字の削減は、政府が利用していた貯蓄を余らせることだから、経済を縮小均衡させないためには、代わりに、企業が設備投資を増やして貯蓄を使うといったことが必要になる。今日の経済教室の吉川洋先生の議論に欠けているのは、これである。

 正直、増税だけなら、痛みに耐えかねる国民の抵抗を捻じ伏せる政治力さえあればできることだ。そこに経済に関する知恵は必要ない。多くの場合、政府が緊縮財政を敢行する下では、企業は設備投資を増やしてくれないし、消費増税で価格が上がれば、国民は、どうしても消費を減らしてしてしまい、貯蓄だけを減らすという都合の良いことにはならない。

 したがって、増税というのは、その時々の成長の範囲内で収める必要がある。今回の消費増税の問題は、一気に3%も上げることであり、1%なら何の問題もないし、2%なら工夫次第である。しかし、3%となると、もう無理なのだ。しかも、復興事業の剥落、復興増税の実施、年金特例水準の是正など、他の施策と脈絡なく、同時に行おうとしている。

 吉川先生は「財政破綻のリスクは早く摘むのが正しい」とするが、それは、GDPの増加分をも上回るような負荷を経済にかけることを意味している。先日のニッセイ研のレポートなどを見て、怖くなったりはしないのかね。1997年の増税の例にしても、鈴木淑夫先生の「月例景気見通し1997年12月版」を読めば、大型金融破綻が起こる前の統計の数字で、ゼロ成長への墜落が確実な情勢になっていたことが分かるはずだ。ドイツの場合は、消費減を補うほどの外需に恵まれた結果である。

 また、「まず成長という言葉は、先送りの掛け声に過ぎない」とするが、足元では、日本経済は高成長を歩んでいるのだから、これを大事にすれば良い。税収も大きく伸びてくるのは間違いないから、財政破綻のリスクも緩和されるはずだ。こうした状況を見つつ、徐々に財政再建を進めるのが賢明だろう。それを、わざわざ2014年に「財政の崖」を仕掛けてどうするのかね。

 吉川先生の「消費税の所得再分配効果」だが、日本も米国も、金融所得への課税が軽くなっているために、中所得層より高所得層の方が実効税率が低くなっている。これは、消費税で正せるものではない。政策の割り当てを考えるべきであり、消費税は「あれにもこれにも効く」といったことは、説得力に乏しい。

 さらに、吉川先生は「年金支給開始年齢の一段の引き上げ」を求めているが、仮に、引き上げたとしても、受給者それぞれの都合に合わせて、給付水準を下げるのと引き換えに、早期の受給開始も認めざるを得ない。結局、支給開始年齢をいじらずに、マクロ経済スライドを予定より長く行って、給付水準を下げることと変わりがないことになる。支給開始年齢の引き上げは、国民を不安にさせるだけで、あまり意味のない方法なのだ。むしろ、成長を確保し、着実にスライドを作動させることが遥かに大事である。

 日本は、財政再建強硬派と、増税絶対反対派に二分されるように思う。「小さな政府」の本場の米国でも、サックス先生のようなリベラル派が存在するのに、日本では、徐々に増税を進め、公共政策を充実させようという、筆者のような論者は、本当に少数派である。どうしてなのかね。まじめで努力家の日本人には、なじみやすい路線のように思うのだが。

(今日の日経)
 米国防総省に自衛官。若者の危機・中高年と奪い合うイス。夏ホーナス3.25%減。本四高速へ出資打ち切り。国保の医療費突出、うつ病で退職。中国企業に米で不信感拡大。IMF・世界経済の減速一段と。経済教室・一体改革・吉川洋。

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1 コメント

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Unknown (読者)
2012-07-17 09:48:18
一読者です。いつも勉強になります。
先生の「成長の範囲内での増税」に賛成です。
しかし、ではなぜ当局はこれほどまでに一気増税に突き進むのでしょうか?
民意をまるで無視して、成長を阻害してまで増税したいのはなぜでしょうか?
そして、ではどうしたら「正論」が通るようになるのでしょうか?

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