経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・景気後退の認識と補正予算への道

2015年10月04日 | 経済(主なもの)
 消費増税以来、エコノミストは「次の四半期には回復」と言い続けて来たように思う。実際には、月次の経済指標が出るごとに、下方修正の繰り返しであった。しかし、今回は、7月指標が判明した段階で、ゼロからマイナスの見通しが出始め、もはや、8月指標ではコンセンサスとなっている。主因の消費低迷は2月からだったから、認識が改まるのに半年を要したことになる。ことほど左様に、認識とは現実以上に変わりがたいものである。

 この調子では、来夏には参院選もあり、大型の補正予算が組まれることになろう。補正予算は、消費増税前の2016年にも必要だし、足元の増税の悪影響の長引き具合からすれば、翌2017年にもやらざるを得まい。つまり、「締め過ぎてバラマキ」を3年連続でするのだ。これを繰り返して来たがために、肝心のところに予算が行かず、貧困が蔓延し、少子化も続いて、日本の劣化が進んだ。こちらには、いつ気がつくのだろう。

………
 毎月恒例ではあるが、緊縮ニッポンの不調ぶりを確認していこう。まず、8月の家計調査は、二人世帯の除く住居等の季節調整済指数が前月比+1.4であった。2か月連続のプラスだが、6月の落ち込みが大きかったため、5月の水準に戻っただけである。勤労者世帯の消費性向は「並」の水準で、猛暑で消費全体が増えたわけでもない。「並」へと回帰したことからすれば、この水準が9月も続くと考えるのが妥当だろう。

 消費を供給側の商業動態で見ると、8月の小売業は季節調整済指数が前月比0であった。2~6月にかけて落ち込んでいたが、7月に以前の水準を取り戻し、それを維持した形である。また、鉱工業生産指数の消費財出荷は、前月比+0.7で、前月に続き、緩やかに増加した。消費財については、在庫が低下し、増税前水準に戻ったことが目を引いた。普通なら、「これから景気が回復する」と言えるのであるが。

 以上を踏まえれば、未発表の8月の消費総合指数は5月並みに回復し、7-9月期の前期比は+0.3くらいと予想される。GDPへの寄与度とすれば+0.2ほどだ。消費の戻りで在庫が減れば、寄与が消えるとも考えていたが、中国の景気後退によって、投資財の在庫が膨張し、相殺されてしまった。これにより、在庫はGDPを下支えするだろうが、ツケは10-12月期に先送りされる。

 注目の7-9月期GDPだが、設備投資は、鉱工業生産の資本財出荷(除く輸送機械)では下降しており、公共投資と住宅投資は、建設財出荷で見ると横バイである。外需は、若干のマイナス寄与になりそうだから、今のところは、ゼロ成長からわずかにプラスくらいの見当である。むろん、2四半期連続のマイナス成長という「景気後退」を免れたとしても、在庫増で高めの成長だった1-3月期を含め、実態として、まったく成長できていないことに変わりはない。

(図)



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 8月の鉱工業生産のネガティブ・サプライズは、中国のバブル崩壊を受け、堅調だった投資財がコケたことである。生産日数の少ない8月でもあり、フレ過ぎの感じはあるにしても、不調続きだった消費財がようやく上向き、賃金や雇用も着実に改善してきたところなのに、ここで失速とは痛手だ。しかも、事の性質からして尾を引きそうであり、悪影響は少なくとも年内は続くと考えるべきだろう。

 この調子では、2015年度の成長率は1%を割り、消費増税から2年経ってもGDPを増やせなかったという結果になる。2016年の参院選に、3年前の2013年のアベノミクスの成功だけで臨むのは、さすがに厳しい。もっとも、野田民主党政権の計画どおり、財政当局の言いなりに、この10月に10%消費増税をしていたら、中国のバブル崩壊とも相まって、需要の内憂外患で地獄を見るところだった。

 一気増税二連発という日本経済を壊すような過激な政策を財政当局が主導した事実を、結果が出た今、忘れてはなるまい。恐ろしいのは、1989年の消費税導入時は増減税同額、1997年は減税先行増税、2014年は純増税と過激さが増していることである。1995年の阪神大震災では迅速に経済対策を打ったのに、2011年の東日本大震災では復興増税で渋りまくったところにも、これは表れている。

 日本の財政当局の特徴は強い政治力にあるが、それは、デフレ下での緊縮のような経済的に無理のある政策を、政治力で押し通すという繰り返しで鍛えられてきた側面がある。そういう人材が評価される組織では、過激さはいや増していく。こうして、強い「教義」に組織が支配されると、失敗に直面しても、在り方を反省するのでなく、外向けの「布教」に熱心になったりする。そんな傾向が現れているのではないか。

 いまや、消費増税のために法人減税を差し出すといった、財政再建すら度外視するようなことまでするようになった。社会保障を敵視する一方、消費増税のためとなればバラマキも平気で、分裂ぎみだ。そして、今年度も、「締め過ぎて戻す」ための大型の補正予算が組まれることになる。これは、来年も、再来年も繰り返されるだろう。「緊縮教徒」に入信すると、貧困の蔓延とバラマキが同居するという世上を見ても、矛盾を感じなくなるようだ。

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 誤解がないように言っておくが、筆者は消費増税には賛成である。ただし、成長を阻害しない範囲で緩やかに行うべきものだ。軽減税率も、決して良いとは思わず、財政当局の主張のように給付でするのが適切である。拙速にマイナンバーに絡めたがために、保険料の重い福祉国家では必須となっている「給付つき税額控除」が潰えるのは誠に惜しい。

 おそらく、最初から、みなしで全員一律4000円の前払いとしておけば、ここまで混迷せずに済んだろう。4000円から大きく増やしたければ、消費量の測定が必要になり、その時にはマイナンバーを使用せざるを得ないと、将来の課題に位置づければ良かったのである。緊縮思想が強すぎ、欲張るあまり、政治的にも失敗したように見える。

 軽減税率のメリットは、痛税感の緩和とされるが、今後、物価上昇率が2%近くになれば、これに紛れて分からなくなる。実際、欧米では、そうである。そもそも、軽減の本来の目的は、痛税感より、貧困層の救済だろう。それなら、軽減税率に必要な1.3兆円の財源で、一律1万円を配る方がマシだ。食料品の税率を据え置くどころか、5%に下げるのと同じ効果がある。それほど、高所得層に恩恵が漏出する軽減税率は、効率が悪いのである。

 もちろん、最善は、本コラムが提案するような社会保険料リンク型の給付つき税額控除である。保険料リンクとは、所得と結びついてることだから、更に集中的に低所得層に再分配ができる。1.6兆円の財源で、最大16.8~22.9万円もの負担軽減が可能だ。桁違いの効果があり、中小企業も大歓迎だろう。130万円の壁が撤去され、母子家庭の母がダブルワークに苦しむことまで解消される。

………
 繰り返して言おう。日本に足りないのは、財源ではない、理想である。補正予算を一時的なものにバラまき、翌年にはやめられると考えるのは幻想だ。需要不足の経済状況では、打ち続けなければならなくなる。それなら、意味あることに使うべきである。「ニッポンの理想」で示したように、1.6兆円でワーキングプアを一掃でき、少子化の逆転も可能だ。緊縮思想から脱すれば、それらの解決は容易ですらある。

 貧困層も、若者層も、日々の生活に追われて、理想を考える余裕などない。彼らに「言葉」を与えるのは、社会のリーダーの役割である。エコノミストの諸氏も、景気後退から補正予算という流れを、いつもの風景と思ってほしくない。惰性的政策から脱する転換点になるかもしれない。今日の日経によれば、野党は参院選に向けて再分配政策を並べるらしく、与党がTPPの農業対策のような従来型のバラマキなら、アベノミクスの敗北は必至だ。政権も、既にこれを意識した動きを見せている。

 財政当局の諸君だって、学生時代には理想を語っていたはずだ。「日本を良くしたい」が「財政再建」になり、「消費増税」に変質しと、次第に理想が狭隘になってはいまいか。積極財政に打って出るには、需要管理のための計測・予測という職人芸が必要だし、金利上昇に備えた資産課税の整備など安全装置も欠かせず、物価抑制のための消費増税というコンセンサスも作らねばならない。世の風が移る中、若き日の原点を想い起こしてもらいたい。



(今日の日経)
 通販を郵便局で受け取り。業種天気図・中国経済の減速響く。民主は底上げ型で勝負。読書・下層化する女性たち、弥生時代の歴史。

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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2015-10-04 17:56:25
日銀黒田が異次元緩和の出口戦略いいだしたら、国債の買い手がいなくなって金利急騰、日銀、銀行が抱えてる
国債が暴落して財務が悪化、政府が資金を注入するも、
消費税30パーセントに引き上げても足りず財政破綻するの確実だから、民主党も参院選で勝つ気ない
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