国会が開幕し、「予算の説明」がオープンになって、2022年度の年金特会の予算が明らかとなった。予想どおり、厚生年金は0.9兆円の緊縮である。前年度が拡張になっていた反動でもあり、決算の段階では数字が変わろうが、緊縮になることに違いはない。一般会計では、高齢化ために社会保障費が0.4兆円も膨らんでいると脅威視されているが、全体を眺めるなら、印象は違うのではないか。日本人は戦略が苦手という一例である。
………
厚生年金は、予算規模で49.3兆円もあるので、その動向の把握は、マクロ経済を管理する上で必須である。最も重要な収支差は、収入=保険料+一般会計受入+基礎年金受入、支出=保険給付+基礎年金繰入のフローで見ていく。2022年度予算は-1.2兆円の赤字で、前年度より0.9兆円縮んでいるので、これが緊縮幅ということになる。ちなみに、GPIFによる積立金の運用からの収入は、別途、0.7兆円が見込まれている。
2022年度は、年金支給額について、2018-20年度の賃金動向に沿い、-0.4%の引き下げになる。物価は上がっていると思われるかもしれないが、サービスが下がっており、2021年は-0.2%だ。そのため、マクロ経済スライドの-0.2%は発動されず、キャリーオーバーされる。また、3年に一度の支給開始年齢の引き上げが行われ、男性の給付は64歳からになる。これらのことから、支出は、まったく増えない。
他方、保険料収入については、名目の雇用者報酬が伸びる見通しであり、0.9兆円増すことになっている。2022年度の物価の見通しが+0.9%となる中で、現役世代とのバランスを取るために必要な措置とは言え、給付が引き下げられた上、保険料の負担は多くなるわけで、消費にはマイナスであり、消費・物価・賃金が低迷し、成長が停滞する一因となる。日本経済は政策どおりの結果を出している。
年金は、予算の段階では、収入を少なめに、支出を多めに見積っているため、収支が未だに赤字になっているが、決算の段階では、既に2019年度には黒字化している。2020年度はコロナ禍でいったん赤字になったものの、2021,22年度は保険料のベースとなる雇用者報酬が順調に増える見通しで、2022年度は黒字に戻ると予想される。この前年度からの収支差の変化は0.6兆円であるから、緊縮は、予算で見るより小さいものとなろう。
(図)
………
そうやって犠牲を出しつつ、年金は貯蓄を増強しているのだが、どれほど意味があるのか。マクロの貯蓄は、投資されて生産力にならないと、価値を保存できないからだ。需要が低迷する国内では、カネ余りで投資先に困っており、そもそも、生産力を受け継ぐべき次世代は少子化で痩せ細っている。実物の経済を支える次世代を減らし、カネばかりを溜め込むのは愚かである。年金の収支だけを気にして、日本人は全体を眺められないでいる。
本コラムでは、老後に受け取る年金の一部を、乳幼児の子育て期に前倒しで受給できるようにして、育児休業給付を非正規にも拡げるという提案をしている。前倒しなので、新たな負担は必要ない。その上、出生率が向上すれば、年金収支が改善し、育児休業給付を受けた上に年金も変わらず、財政負担まで減るという構図さえ描き得る。ヒトへの投資は金銭的なリターンが得られる。持続可能な社会にすれば、経済的利益は無限に続く。しかし、この国は、緊縮でカネを貯めつつ、滅びの道を歩んで行くのである。
(今日までの日経)
担任の先生は「非正規」。インフレ率、春2%視野 需要・賃金は伸び鈍く。納税額、20社超が国別開示。円の実力低下、50年前並み。濃厚接触180万人試算、社会に影響。尾身氏、人流抑制より人数制限を。10%円安なら実質GDP「0.8%押し上げ」日銀試算。
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厚生年金は、予算規模で49.3兆円もあるので、その動向の把握は、マクロ経済を管理する上で必須である。最も重要な収支差は、収入=保険料+一般会計受入+基礎年金受入、支出=保険給付+基礎年金繰入のフローで見ていく。2022年度予算は-1.2兆円の赤字で、前年度より0.9兆円縮んでいるので、これが緊縮幅ということになる。ちなみに、GPIFによる積立金の運用からの収入は、別途、0.7兆円が見込まれている。
2022年度は、年金支給額について、2018-20年度の賃金動向に沿い、-0.4%の引き下げになる。物価は上がっていると思われるかもしれないが、サービスが下がっており、2021年は-0.2%だ。そのため、マクロ経済スライドの-0.2%は発動されず、キャリーオーバーされる。また、3年に一度の支給開始年齢の引き上げが行われ、男性の給付は64歳からになる。これらのことから、支出は、まったく増えない。
他方、保険料収入については、名目の雇用者報酬が伸びる見通しであり、0.9兆円増すことになっている。2022年度の物価の見通しが+0.9%となる中で、現役世代とのバランスを取るために必要な措置とは言え、給付が引き下げられた上、保険料の負担は多くなるわけで、消費にはマイナスであり、消費・物価・賃金が低迷し、成長が停滞する一因となる。日本経済は政策どおりの結果を出している。
年金は、予算の段階では、収入を少なめに、支出を多めに見積っているため、収支が未だに赤字になっているが、決算の段階では、既に2019年度には黒字化している。2020年度はコロナ禍でいったん赤字になったものの、2021,22年度は保険料のベースとなる雇用者報酬が順調に増える見通しで、2022年度は黒字に戻ると予想される。この前年度からの収支差の変化は0.6兆円であるから、緊縮は、予算で見るより小さいものとなろう。
(図)
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そうやって犠牲を出しつつ、年金は貯蓄を増強しているのだが、どれほど意味があるのか。マクロの貯蓄は、投資されて生産力にならないと、価値を保存できないからだ。需要が低迷する国内では、カネ余りで投資先に困っており、そもそも、生産力を受け継ぐべき次世代は少子化で痩せ細っている。実物の経済を支える次世代を減らし、カネばかりを溜め込むのは愚かである。年金の収支だけを気にして、日本人は全体を眺められないでいる。
本コラムでは、老後に受け取る年金の一部を、乳幼児の子育て期に前倒しで受給できるようにして、育児休業給付を非正規にも拡げるという提案をしている。前倒しなので、新たな負担は必要ない。その上、出生率が向上すれば、年金収支が改善し、育児休業給付を受けた上に年金も変わらず、財政負担まで減るという構図さえ描き得る。ヒトへの投資は金銭的なリターンが得られる。持続可能な社会にすれば、経済的利益は無限に続く。しかし、この国は、緊縮でカネを貯めつつ、滅びの道を歩んで行くのである。
(今日までの日経)
担任の先生は「非正規」。インフレ率、春2%視野 需要・賃金は伸び鈍く。納税額、20社超が国別開示。円の実力低下、50年前並み。濃厚接触180万人試算、社会に影響。尾身氏、人流抑制より人数制限を。10%円安なら実質GDP「0.8%押し上げ」日銀試算。
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