経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

緊縮速報・財政再建は2019年に到達、消費増税は無名の師

2018年12月23日 | 経済(主なもの)
 7-9月期の日銀・資金循環統計によれば、一般政府の資金過不足の名目GDP比は-1.9%へ浮上し、日本の財政赤字は大きく改善した。過去3年のトレンドを延長すれば、2019年10-12月期には、基礎的財政収支の赤字がゼロとなる水準に達する。すなわち、財政再建に消費増税は無用であり、ショックで成長を毀損して再建を挫折させる恐れを踏まえれば、大義なき開戦たる「無名の師」に踏み切るのと等しい。データに基づかぬ財政の暗愚さは、国民に苦難をもたすことになろう。

………
 財政当局は、状況を深刻に見せて、一気の増税を正当化しようとするので、出来合いの公表資料だけで判断することは、避けねばならない。このため、本コラムでは、日銀・資金循環統計を基に、最新状況を把握するようにしている。その部門別の資金過不足は、概ね財政赤字に相当する。移動平均で計算される7-9月期の名目GDP比は、中央政府が-3.0%、地方政府が+0.8%であり、「財政赤字」は合わせて-2.2%と、EU基準の-3%を軽くクリアする。

 「財政赤字」の改善トレンドは、2014年消費増税の影響が一巡した2015年後半以降の各期の平均をとると、一期当たり+0.17%、年率+0.68%となる。日本経済の潜在成長率は年率1.0%くらいとされるから、これだけの緊縮をかければ、なかなかデフレ脱却とならないのは、当然とも言える。しかも、これに社会保険による緊縮、一期当たり+0.02%、年率+0.10%も加わる。アベノミクスは、消費増税後も相当の緊縮財政を敷いて来たのが実態だ。

 トレンドを延長すると、2020年4-6月期には-1.0%に到達する。資金過不足はGDP比1%程の利払費を含むので、これが除かれる基礎的財政収支は、この水準で、実質的に赤字ゼロとなり、財政再建の目標に達する。さらに、日本では、厚生年金等の社会保険の収支がラチ外に置かれており、現在の+0.4%の水準がキープされると仮定するなら、国際標準的な達成時期は、半年早い2019年10-12月期となる。消費増税の頃には、財政再建は済んでいるのだ。

(図)



………
 そうなると、一体、何のための消費増税なのか。問題は、増税すれば、更に財政再建が進むものでもないということだ。増税のショックで成長を毀損してしまえば、元も子もなく財政再建が挫折してしまう。そうかと言って、成長の腰を折らないために、増税対策のバラマキをして相殺するのでは、増税をしたのに収支が改善しないという訳の分からぬ結果になる。まさに「無名の師」となるのだ。

 2019年度に増税を相殺するだけの対策をして、需要へのショックを除けたとしても、翌年度に対策が剥落すれば、そこでデフレ圧力が生じる。この害を除くため、また対策を打てば、バラマキが長く続く。これでは、消費増税はムダ使いのためと化す。それくらいなら、初めから、消費増税と同規模の少子化対策でも実施すべきだろう。マクロ経済的に見れば、景気が過熱する事態にでもならない限り、財政収支を改善する純増税はできないのである。

 「消費増税さえすれば、財政再建ができるだろう」とナイーブに考えるのは、緊縮職人の狭い了見でしかない。彼らは、隣接する社会保険の収支が黒字であることも気にしないし、経済全体に与える長引く影響など、まったく視野の外である。2019年度予算について、日経は放漫のように報じるが、最重要の情報は、税収が1.4兆円程小さく見積もられているにもかかわらず、国債が1.0兆円減額され、やはり緊縮財政が貫かれていることである。

………
 データに基づけば、もはや財政収支は深刻な状況ではない。純増税に挑む「大増税主義」は有害無益でしかなく、社会保障の拡大と同時同額での増税にとどめ、自然増収での緩やかな収支改善を図る「小増税主義」へ戦略を転換しなければならない。無理に純増税に挑むから、バラマキ批判を呼び、増税忌避を招き、社会連帯を壊すのである。残る課題は、巨大債務の安定化のために、金利上昇前に利子課税を強化しておくことだが、こちらは御留守の暗愚さだ。

 戦前の日本は、満洲に拘る「大日本主義」で国家存亡の危機を招いてしまった。同時代に、石橋湛山が「小日本主義」を掲げ、植民地は儲からないと説いたにもかかわらずである。現実主義から外れれば、国を危うくする。「空気」で舵取りをしてはいけない。「退くも地獄、進むも地獄」という日本人的セリフは、そこに至るまで、現実を確かめずにいたことを意味する。現実を思い知る事態に遭遇してからでは遅いのだ。


(今日までの日経)
 若手経済学者 海外に活路。米、車貿易の改善要求へ。寿命伸びぬ米 薬物・自殺の影。景気優先 かすむ財政規律 膨張101兆円。中国、減税規模を拡大。自然減44万人 過去最大・2018年人口動態。消費増税分 痛み緩和に 5.7兆円。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 12/20の日経 | トップ | 12/28の日経 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

経済(主なもの)」カテゴリの最新記事