経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日本の未来の描き方

2011年10月01日 | 経済
 人々は、あらゆるものを擬人化して考えがちだ。トレーニングで苦しい思いをすれば、筋肉はより強くなる。経済も、そんなものだろうと。しかし、経済が人体に似ているなんて、誰が確かめたのか。植物のように、踏みつけたり、引っ張ったりしたら、枯れるだけのようなものだったら、どうするね。

 今週の日経ビジネスは「確実にくる未来100」。読者の興味を引くし、記者もアイデアを出しやすい企画で、山川龍雄編集長の面目躍如たる内容だ。特集の未来予測は、人口、財政、技術・環境の三本柱だ。人口と技術・環境の二つは、おもしろく出来ているのだが、財政だけは、いただけない。

 未来予測で、人口論は定番だ。今年の出生数が平均寿命の80年先まで影響するから、超長期予測ができる。ビジネスでは、普段、筆者が話のタネにしている「これからの成長産業は葬儀屋」などという「未来」がいくつも取り上げられている。専門家には周知のことばかりだが、一般の人には楽しめるプレゼンだし、取り上げている先行事例も光る。

 技術も、動向をつかんでおけば、5年後の新製品まで確実に予測できる。それだけ懐妊期間が必要ということだ。社会インフラも、実現までに10年などというのは珍しくない。地球温暖化による環境変化も、様々な超長期が出されている。これらも、長期予測では、定番メニューである。 

 それで財政だが、山川編集長は、主人公が苦難に耐えて、逆転勝利するというドラマの見すぎではないのか。最近、日経は、自己の主張に合う形でしか、エコノミストや学者を使っていないように思える。日経には、鋭い経済論争の場になってほしい。せっかく、バークレーズの森田長太郎さんの言を引いていながら、核心を理解していない。ダイヤモンドO.L.の「ソブリン危機の本質」をじっくり読んで見たまえ。

 今回の特集では、消費税を引き上げて、法人税を軽くするという、日経の願望があからさまに出ている。この実験は、ハシモト・デフレの時に試みて、失敗したものである。需要を壊すと、低税率でも設備投資はしないという、ごく常識的な結果だった。戦略を捨てろとまでは言わないまでも、過去の失敗から改善を試みるくらいの謙虚さは必要だろう。

 森田さんのエッセンスは、財政リスクを測るのに、国債残高のGDP比や家計貯蓄との比較は意味がなく、企業の貯蓄過剰が問題だとしている。リスクは差し迫ったものではないという認識も重要だろう。そして、景気回復後のインフレに備えておくことが必要であり、高齢者が安心しておかねを使えるようにすることを考えるべきだとしている。

 ここから引き出される政策的対応は、焦って消費税を上げる必要はなく、内需を保って設備投資を引き出し、企業の貯蓄過剰を減らし、それに合わせて財政赤字を減らしていくものであろう。また、デフレでも消費税というのではなく、物価が上昇したら消費税という構えか必要なことも自明だろう。法人減税は、貯蓄過剰を更に進めるだけで無意味だし、成長による税の増収を失わせ、インフレの冷却装置を外すようなものでもある。

 筆者は、経済は植物のようなもので、安定した環境を整えることで、おのずと育つものだと考えている。消費税で踏みつけたり、成長戦略で引っ張り上げたりしても、ダメになるだけだ。筋肉だって、トレーニングの後、栄養と休養を与えなければ、強くなるどころか、故障するだけである。いまどき、スポーツ界でも、しごきや根性は、はやらない。

 ビジネスでは、今回も、「消費増税すると、安心して消費が増える」という幻想が語られている。経済学に疑いの眼を向けている筆者でさえ、消費は価格と所得に従うという理論は信じているのに、こうした反経済学の言説に、大した根拠もなくすがるのは、理解に苦しむところだ。

 本当に安心させようと思うなら、いかに消費増税をしたところで、支え手が細る少子化を放置していては、無理である。制度維持のために負担増を進めれば、現役世代の反乱が起きてしまう。消費増税は高齢者への給付を実質的に減らす効果もあるが、現役世代の負担が重くならないわけではない。

 具体的には、どうすべきかは、基本内容の「雪白の翼」を読んでいただきたい。日本の道は、少子化対策で需要を作り、それで設備投資を呼んで成長を果たし、これを通じて財政再建を果たすことだ。それが、世界的な課題でもある社会制度のイノベーションであり、各国に示せるモデルともなるのである。

(今日の日経)
 世界株安、企業を圧迫。増税・補正修正に前向き、月内に国会。ユーロ圏物価3%上昇、利下げ後退。避難準備区域を解除。優遇期限迫り、住宅着工14%増。失業率、休職断念で改善。FT・流動性のわなの暗い影。ミャンマー大統領がダム建設中止。3電力が風力拡大へ実験。

※補正提出が10月末とは何たる遅さ、昨年の補正と変わらないではないか。これでは、成立は11月末、執行は年明けだろう。これだけ遅いと、11年度税収上ブレ分2兆円を反映できるのではないか。隠すだろうけど。
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