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朗報・・

「先生ですか?高校3年のKです」
「おお、Kくん。どうした?」
「大学受かりました」
「どこの?」
「M商大です」
「本当か?よかったね」
「はい、ありがとうございます。お母さんがお礼を言いたいといってるので代わります」
「うん、分かった」
「もしもし、Kの母です。おかげさまで大学に受かりまして本当にありがとうございました」
「おめでとうございます」
「これも先生のおかげです」
「そんなことないです。K君が頑張ったからですよ」
「いえ、卒業が危なかった息子がまさか大学に受かるなんて夢のようです。本当に先生のおかげです。有難うございました・・」

などと言われても面映いばかりだが、実際この合格報告の電話は、少々考えさせられるものだった。と言うのは・・、
 K君が塾に通い始めたのは昨年の12月になってから。「赤点ばかりで卒業が危ないから何とか卒業できるよう、勉強を見てくれ」と母親に言われて引き受けたのだが、最初にやってきた日に愕然とした。まったく何も分かっていない・・。K君の通う高校は市内では少し成績がいい子が通うと目されている高校。今まで何人もの生徒が私の塾に通っていて、そのレベルは十分わかっているつもりだった。近年はかなりレベルが落ちてきているので、その学校で卒業が危ないというのはかなり学力不足の子だろう、ひょっとしたらチャラチャラ遊んでばかりいるチャラ男みたいな子かなと、思っていたが、塾にやってきたK君はごく普通の感じのいい高校生だった。少し話をしても受け答えがしっかりしていて、どうしてこの子が勉強できないんだろうと不思議に思ったが、いざ勉強を教え始めたら、そんな気持ちは吹っ飛んでしまった。中学の数学さえもよく分かっていない。基礎力がまったくできてなく、よく高3になれたものだと逆に感心するほどだった・・。
 それでも一応理系だと言う。さすがに四則計算ぐらいはできるが、方程式もうまく解けない。ましてやsinθ、cosθなんてチンプンカンプン、驚き呆れるばかりで、定期テストの追認試験までの短い期間にどうやったら合格点を取れるようになるのか、さすがの私も頭を抱えてしまった。
 それでも、「我慢強く、教えていくしかないな」と覚悟を決めてからは、K君の素直な性格と相俟って少しずつ理解させることができるようになった。その結果何とか追認テストはクリアーできたが、その後すぐに私立大学の入試問題(赤本)を持ってきたのにはかなり驚いた。
「(私立)大学受けるんだよね、やっぱり」
「はい、一応受けます」
「でも、正直言って一回目の入試は全部落ちるよ、間違いなく」
「分かってます」
「でも、二次試験(大学によっては後期試験と呼ぶ)まで粘ってこつこつやっていけば、受かる大学はいくつかあるよ。とにかく諦めないことが大事だ」
「はい、頑張ります」

 予想通り(と言うか当たり前のことだが)4つ受けた私立大学は全滅した。それでもKくんは私の言葉を信じ、二次試験目指して黙々と勉強を続けた。だが、数学と理科は入試レベルの問題などとてもできないから、理系は断念して文系の大学の二次試験を受けることにした。
 そして最初の電話のごとく、見事合格した・・。おめでとう。
 だが、やっぱり私としては釈然としない。もちろん塾長として、K君が受かってくれたことは諸手を挙げて喜びたいが、それでも高校の卒業さえアップアップの生徒が何故大学に入れるのだろう?入学試験を受けて合格したのだから、誰にも後ろ指さされるものではないが、学力がかなり不足していることは誰が見ても明らかだ。それなのに大学生になれてしまう。願書さえ出して試験さえ受ければ誰でも受かってしまう大学は近年いくらでもある。だが、そんなことをしていたら、大学が自分で自分の首を絞めているようなものだ。本当にこれでいいのだろうか?
 高校3年間やりたいことをやって毎日面白楽しく過ごしていても、最後には簡単に大学生になれてしまう・・、それはそれで幸せなのかもしれないが、やっぱり変だと私は思ってしまう。努力しなくても渡っていける世間に鬼はいなくていいかもしれないが、行き着く先に待っているものは決してバラ色の未来ではないだろう、そんな気がして仕方がない。
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