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著作権

 先日自宅の居間に、真新しい赤本が置いてあった。息子はまだ高2で、基礎力を充実させるべき時期なのに、何を焦って赤本などを買うのか、と少々不満に思った。そこで、その夜、塾へ来たときに理由を問いただしたところ、『著作権の問題で、赤本が出版されなくなるおそれがあるから、買えるなら買っといたほうがいいと、学校の先生に言われたから』と答えた。ああ、著作権か、と思わず私はため息をついてしまった。というのは、問題集を製作している出版社の営業担当者が、来塾する度に『国語の問題集が著作権の関係で作りにくくて』とぼやいているからだ。
 言われてみると、ここ数年来、国語の問題集で教科書の本文を引用していない問題が多くなっている。そういう問題には、「この作品におきましては、著作者の掲載許可が得られませんでした。申し訳ございませんが、ご了承のうえ教科書を併用していただけますようお願いいたします」という丁寧な但し書きが付いている。そして、「教科書何ページから何ページまでを読んで、次の問いに答えなさい」などと設問が並べられている。これが学校で解かせる問題集やプリントなら、生徒が教科書を持って来ているから、まだ対応できるだろう。しかし、塾となるとなかなかそうはいかない。学校のカバンから教科書を取り出して塾のカバンに移し換え、塾の授業を受けてまた家に持ち帰って、学校のカバンに戻す。そういった作業を毎回忘れずにやってくれる生徒が、果たしてどれだけいるのだろうか。私にはとても自信がない。
 現場のこうした意向を熟知している出版社は、著作者と何回も交渉を重ねているようだが、なかなか話がまとまらないらしい。勿論、会社によっては全文を掲載する許可を取ったところもあるようだが、私の取引会社は難航しているらしい。もしこのまま、本文掲載が少ない問題集となってしまったら、他社のものを使用しなくてはならず、洗練された問題が多く質の高い今までの問題集と別れなければならなくなるのは辛い。
 私は、法律とは全く無縁な人生を送ってきた男であり、著作権について真正面から論じる知識も能力も持ち合わせていないので、口を閉ざすべきかもしれないが、敢えて言わせてほしい。確かに、自らの作品を問題集に掲載され、作者自身さえも正解が答えられないような設問を付けられたのでは、自らの文章に己の命を注ぎ込んだ作者としては、我慢できないのも当然だ。しかし、問題集に本文が載せられ、少しでも多くの文章を読む機会が子供達に与えられるなら、間違いなくその分だけ彼らの国語力は上がるはずだ。たとえ、設問がいくら愚問であったとしても、本文を繰り返し読む作業によって、彼らの読解力が少しでも深まり、物の見方に好ましい影響を与えるに違いない。
 塾といえば、教育界の末端組織であり、そこでの便宜など一顧だに値しないかもしれないが、逆に言えば、子供達が直に問題文と触れる教育の最前線でもあるわけなので、何とかよい結果が得られるのを願うのは、塾の勝手な論理だとばかりは言えないと思う。
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