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犯罪被害者の新たな支援策が報道されています(毎日新聞)。また,刑事裁判への被害者参加について,東京新聞に社説が載りました。いろいろな動きがあるようです。

<犯罪被害者等給付金>政府、大幅引き上げへ 自賠責並みに(毎日新聞)

 政府は15日、犯罪被害者の新たな支援策について、犯罪被害者等給付金の大幅引き上げを図る方針を固めた。内閣府の検討会が近く公表する中間取りまとめに盛り込む。犯罪に絡み被害者が死亡した場合の遺族給付金は現行で最高約1573万円、負傷した場合の障害給付金は最高約1849万円だが、それぞれ自賠責保険金(死亡事故3000万円、重度後遺障害4000万円)並みに近付けることを提案する。
 国松孝次・元警察庁長官を座長に、学識経験者、被害者らで「経済的支援に関する検討会」を構成。同会はこれまで16回の会合を開き、犯罪被害者等給付金の範囲を拡大させる方向で一致。一般財源を充てることを念頭に大幅に引き上げ、支給裁定は今まで通り公安委員会が行うとしている。
 また、監禁殺人など特異な事件で期限内にやむなく受給申請ができなかった場合、特例として申請できるような制度の見直しも提唱。海外で事件に巻き込まれた被害者など、給付金の対象から外れるケースでは民間基金による救済を図るべきだとしている。また、今国会に上程されている刑事裁判への被害者参加制度が実現した際、被害者に公費での弁護人を付ける制度も検討すべきだとした。
 経済的支援以外の検討会では、被害者が被害状況を記載し、相談や説明の際に活用する「犯罪被害申告票(仮称)」の作成や、民間団体への財政支援などが盛り込まれる見通しだ。【坂本高志】


刑事裁判改革 被害者参加は出直しを(東京新聞社説)

 犯罪被害者が刑事裁判に直接参加できるようにする法案への疑問が強まっている。刑事司法の基本構造を変えるには慎重でなければならず、議論を尽くす必要がある。廃案にして出直すべきだ。

 法務省が国会に出している法案では、被害者は裁判の正式な構成員となり、被告人、証人への質問や、論告、求刑をする権利を得る。

 被告人に対する損害賠償請求を刑事裁判手続きに付随して審理する、いわゆる付帯私訴の制度も導入される。現在は、民事裁判を起こし、被害の事実や相手の責任を被害者自身が立証しなければならないが、検察官の立証をそのまま利用できるのだから負担は大幅に軽くなる。

 いずれも被害者にとって朗報といえそうだが、法案に対する異論が少なくない。刑事司法の構造を根本から変えることになるのに議論が不十分だったからだ。

 新制度では、被告側は法廷で検察官のほかに被害者も相手にしなければならない。被害者の前では被告人が十分な主張をできず、防御が困難になる。むき出しの被害者感情が判決に影響するおそれもある、などさまざまな批判、疑問が出ている。

 付帯私訴が実現すると、被告・弁護側は性質の微妙に異なる刑事と民事双方の責任をにらんだ訴訟活動を並行してしなければならない。刑事裁判の大半を国選弁護人が担う現状で、それに対応できるだろうか。

 弁護士の理解、協力が不可欠の改革だが、日本弁護士連合会は「法務省案には問題が多い」と三回も意見書を出し反対している。

 「量刑決定の責任が被害者に転嫁される」「捜査側からの情報開示など、被害を受けた直後からの支援がほしいのに法案にはそれがない」などと反対する被害者もいる。

 被害者支援強化の動きは二〇〇〇年代に入って加速したが、裁判への参加制度創設も急ピッチだった。〇五年に閣議決定した犯罪被害者等基本計画に盛り込まれると、昨年十月には法制審議会の部会で論議が始まり、その答申を受けて早くも今年三月には法案が国会に提出された。

 部会には特定の被害者団体の代表が委員として参加、団体の作った要綱がたたき台とされた。結果的に被害者の声を集約しているとは言い切れないグループの案にお墨付きが与えられた。

 被害者救済に反対の人はいない。だが法廷を報復の場にしてはならない。被告人には「無罪推定」の法理に従い白紙で裁かれる権利がある。現在の法案は廃案にし、慎重に議論を重ねて練り直すべきだ。



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