患者に凄い言葉を言える医者がいたもんだ!「がんになって良かったですね」だって・・、「エーーー」と思った。香川県立中央病院泌尿器科主任部長の朝日俊彦さんだ。1946年生まれだから今年還暦かな。1983年から「がん告知」をはじめたようだ。上記はラジオ深夜便「こころの時代」での発言だ。(2006年9月10日、11日、雑誌に概要採録)インタビュアーに「どこからそういう言葉が出てくるのか」と聞かれて、朝日さんは次のように答えている。少し長いが、ポイントなので引用する。「どんな病気になるかというのはくじ引きみたいなもので、日本人ならば確率が高いのはがん、心臓病、脳卒中の三つです。心臓病の場合は心筋梗塞などで割りとぽっくりいくことが多いのですが、ぽっくりいったらいいかというと、本人はいいかもしれませんが、残されたほうは大変です。遺産相続などの問題があるし、遺族の方も非常に愛している人が突然死んだとなると、心の痛手がかなり強いわけですよ。「自分が死んだらもう終わり」という考え方もあるでしょうが、人間と言うのは支えあって生きているわけですから、病気になってこの世から旅立たなければいけないことになったら、良いお別れの場を整えて、本人も気持ちよく送られ、周りの者もしっかりお見送りするほうがいいと思うんですが、ぽっくり死ぬと、そのお別れができません。また、脳出血や脳梗塞で倒れて寝たきりのような状態が続きますと、あえて申し上げれば、看病する側が「飽きて」しまうんですね。介護の年数が長くなると、どうしても愛情が憎しみに変わってしまいます。その点、がんという病気はふだんはわりと元気で、いよいよ悪くなってから亡くなるまで二、三か月です。これは看病する側も送られる側も、ちょうどいい長さなんですね。看病する側にしてみたら、二、三か月なら「がんばろう」という気持ちになりますし、本人も二、三ヶ月の間に身の回りの整理をして、気持ちよくみんなとお別れするんだ、と考えることができます。・・・僕は泌尿器科の医者ですから男の患者さんが多いんですけれども、そろそろあの世に旅立つ時期が近づいてきたら、患者さんに「奥さんの手を握って『一緒になれて良かった。幸せだった。ありがとう』と一言言ってください」と言うんですよ。そうすると、ほとんどの患者さんは奥さんに「お母ちゃんありがとう」と言われます。先日亡くなられた方はかなり年配の方でしたけれども、「お母ちゃんありがとう」と言った後、奥さんの顔をまじまじと見ながら「母ちゃん、べっぴんや」とおっしゃったんですよ。すると、奥さんの頬がポッと赤くなりましてね。」「言われた奥さんも、きっと満足されているんじゃないかと思います。僕は奥さんに、前もって入れ知恵をしておくんです。「だんなさんはこういうふうに言いますから、お返しの言葉を言ってください」とお願いして、「私はお父ちゃんのことを心から愛していますよ」と言ってもらいます。お世辞でもお芝居でも、臨終まぎわの人が奥さんからその一言をもらいますと、それはもう満ち足りた気持ちで亡くなることができますし、さらに「あなた、先に行ってよい場所を取っておいてください。私もあとから行きますから」という言葉があれば完璧ですよ。こんなふうに、いかにして「終わり良ければ全て良し」というところにもっていくかという視点が、僕は非常に大事だと思っています。」
こういうことが言える医者だから、頃合いを見計らって治らない患者に「がんになって良かったですね」といえるのだな、と思った。
(写真は、朝日俊彦さん)
こういうことが言える医者だから、頃合いを見計らって治らない患者に「がんになって良かったですね」といえるのだな、と思った。
(写真は、朝日俊彦さん)