秋の夜長、田舎の広い家で一人過ごす日が2週間続いた。毎日の生活がルーチン化すると、アルコールの助けを借りて多少の彩をつけたくなる。
先週初め近くのディスカウントショップで298円のワインを見つけて、試しに買って飲んでみた。まずければ捨てれば良い位の積りだった。ところが意外にもこれが飲める。
スペイン産のバロン・ロメロという聞いたこともないテーブル・ワインで、10.5%と軽めのアルコール度。生産年や産地は分からず、混ぜ物に違いない。ちょっと怪しい。渋みが少なく、糖分が多い。翌日頭痛がすることもなかった。
10年前頃だったが、1000円を切るチリワインを飲んで、防腐剤のせいで何度か頭が痛くなって懲りたことがある。だが時代は変わったようだ。
今日の日本経済新聞の囲み記事「経営の視点」によると、カインズとサントリーが共同開発した448円のチリワインが、今夏18万本を売る大ヒットになったと報じている。
現地での計画生産と流通の効率化で低価格を実現したという。計画生産で棚卸(売れ残り)を減らし、積載率を高めた船積みでチリから一度も荷を解かずカインズまで届けるという。多分温度管理もされているだろう。私が飲んでいる298円ワインより素性が良いかもしれない。
上記の記事でも指摘しているように、このやり方はユニクロ等が上流の生産から下流の販売までトータルで最適化して、消費者が欲しいものを低価格で提供した構図と同じだ。客寄せ特売とは違う、継続性のあるやり方だ。
これは日本だけでなく世界中で起こっている現象であり、一時的ではない「新たなスタンダード」だ。その代表が世界最大の小売チェーンのウォールマートで、世界同時不況下でも業績を伸ばしている。多くの企業は既にこれが常態として、私が言うところの「過剰適応」をしている。
日本の消費者がこの新標準からどれだけ恩恵を受けるだろうか。上記のワインや衣料品は海外にサプライチェーンが広がっているが、最近普及が進むプライベート・ブランド(PB)の多くは国内で完結するサプライチェーンでも3-5割の低価格が実現されている。
上記のカインズはPBの売り上げ比率は30%だという。ウォールマートのPB比率は20%、英国ではもっと多くて一般に40%程度あるといわれている。この傾向は更に強まるように私は感じる。ブランド大好きの日本消費者も拘らなくなった。
だが更なる低価格を実現する為の重要な施策は、規制緩和である。日本の消費者は収入が伸び悩んでいるとはいえ、世界的にみれば裕福だ。なのに豊かさを実感できないのは、生産から販売までのサプライチェーンの色々な段階で規制がかかり、物価を押し上げているからだ。
日本経済新聞の論説委員長は別の囲み記事で、民主党政権のマニフェストから規制改革の文字が消え、規制改革論者だった小沢幹事長や鳩山首相も言及しなくなったと指摘している。既得権益を持つ支持団体への配慮が見え隠れする。
筋肉質の強い国にすることなく、競争を避け配分ばかり厚くするやり方は徐々に国を衰えさせる。ばら撒く経路は違うがバラマキをやっていることに違いはない。やり方は新鮮で民主的なのはいいが、問題先送りでは前政権の姿勢と変わらない。安いワインを飲みながら憂い考えてしまう。■
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