明日ガンセンターから検査入院の詳細連絡が来た。紹介できる本が少ないので、今読みかけの本を急いで読んで書評に追加した。この後どういう日程になるか良く分からない。もっと沢山紹介したかったのだが。書評だけではなく少しでもやり残しを減らしておきたい気分だ。
10月後半にガンの疑いを宣告され一時期読書意欲が萎んだが、ガンセンターで11月末に検査入院する予定が決まって、腹が据わって本を読もうという気力が戻ってきた。例年に比べ読書の秋に相応しい読書量ではなかったが、今回は興味ある本を読めたと満足している。
今回先ず次の3冊の読書をお勧めしたい。オバマ大統領が再選を控え支持率が低下して苦戦が伝えられている今、ブッシュ政権がどういう性格の政権運営をしたか思い返すのも悪くない。以下に紹介する3冊の著者は世界的なジャーナリスト(日本にこのレベルのジャーナリストがいない)であり、いずれも読む価値があるが出来れば纏めて読まれることをお勧めする。
最初に「忠誠の代償」(Rサスキンド)を読み、オニール財務長官の目を通してブッシュとその側近が最初からイラク戦争ありきの理念が先行する性格を知ると、次に「ブッシュの戦争計画」(Bウッドワード)で開戦までの政権内部の詳細な意思決定プロセスの理解が進む。次に、「帝国アメリカ」(Jニューハウス)が戦争以外にどんな選択肢があったか代案を示してくれる。
次に「官邸敗北」は鳩山政権の迷走の様子が、無能な鳩山首相と記者クラブ報道が作り出す政局を生々しく描かれている。突っ込み不足でもう少し大局的な見方が欲しいが、大新聞やテレビ報道を見るだけでは得られない異なった視点で日本の政治問題を切り込んでいる。一読を勧めたい。
(2.5-)官邸敗北 長谷川幸洋 2010 講談社 政治主導を掲げて発足した鳩山首相の無能振りと、財務官僚と亀井・小沢氏にマスメディアが加わって政局に振り回され迷走する様子を生々しく描いたもの。我国政治の本音と残念な実態が垣間見えてくる。著者は東京新聞の論説委員であり、記者クラブ報道のあり方にも一石を投じている。
(2.0+)今だから言える日本政治の「タブー」 田原総一朗 2010 扶桑社 皮肉っぽく言えば日曜朝の人気番組「サンデープロジェクト」の自賛的回顧録。著者の挑発に乗って政治家の本音が引き出され墓穴を掘った例が出てくる。大物政治家がアタフタする姿が描かれているが、それで政治がどう良くなったのかの視点がない。番組打切りの顛末が不透明で、著者の徹底追求する記者魂が突然損なわれた感じを受けるのは惜しい。
(2.0)NHKと政治 川崎泰資 1997 朝日新聞 戦後から会長選出と政治の関りと報道が如何に影響されたかの内部告発本。今日のNHKは民放よりマシ、特に衛星放送の番組内容は評価している。本書で会長が政治に影響されて歪めた報道や運営と今日のNHKにはギャップを感じる。共通問題として政治部記者のあり方が垣間見えるが、それはまだ温存されているのだろうか。
(3.0-)忠誠の代償 Rサスキンド 2004 日本経済新聞社 ブッシュ政権の最初の財務長官ポール・オニールの在職時代の苦闘振りを描いた佳作。オニール長官が事実に基づき論理的に政策を導き出す実利主義者、ブッシュ側近を最初から結論ありきの理念至上主義者として対比して描いている。実はBウッドワードよりブッシュ政権の性格をよく描いていると感じる。
(2.0)帝国アメリカ Jニューハウス 2004 河出書房 ブッシュ外交が世界秩序を破壊すると問題指摘する書。無知で無能な大統領とネオコン一派が、根拠の疑わしいイラク戦争を始め、価値観の近いイランと関係悪化させ、クリントン時代の努力を無にした対北朝鮮関係を分析。文章がやや散文的で論理的に繋がらないので、私には長く読みづらく感じた。
(2.5)ブッシュの戦争計画 Rウッドワード 2005 日本経済新聞 9.11から72日後にブッシュ大統領がラムズフェルド国防長官にイラク戦争計画作成を命じてから、2003年3月17日に実質上の開戦に至るまで、イラク北部のCIAスパイから大統領まで全関係者の意思決定プロセスを詳細に追跡したもの。戦争の是非よりもHOWばかり議論された様子が生き生きと描かれている。
(1.5-)独裁者の言い分 Rオリツィオ 2003 柏書房 最初にアミン大統領とボカッサ皇帝の件を読み始めて直ぐ、既知の情報に枝葉をつけたスポーツ誌的暴露本と思ったがその通りだった。元ポーランド大統領ヤルゼルスキは他の独裁者と違い知性を感じる。ロシア人観は興味がある。
(1.5)1932日間の軍隊 上斗米正雄 2005 東京図書 徴兵検査から入営、新兵教育、関東軍からシナ派遣軍、敗戦から復員までを淡々と描いた自分史といったところ。派手な戦闘場面はなく行軍と赤痢やデング熱といった病気を生き抜いた一兵士の物語。
(2.5)人口流動の地方再生学 松谷明彦編 2009 日本経済新聞 地方衰退の原因が50-70年の欧米の生産方式を直輸入した重化学工業に傾斜した都市集中であり、集落の持続可能性を穀物生産や兼業農家を包括して農業扶養人口を高めようと従来の中央集権的発想とは異なる提案をしている。新鮮で鋭い指摘が多いが、農業の知識は不十分でもう一段の詰めが必要と感じる。
(2.0+)統計学でリスクと向き合う 宮川公男 2003 東洋経済新報 統計学を偏差値、株価(日経平均)、品質管理、在庫管理など具体的な事例に当てはめて分かり易く解説したもの。特に著者がガン治療に直面し、統計学の知識を用いて医者の勧める手術を断わった決断が、結果的に正解だった件はドラマティックで、堅い題名の本から期待できない面白い内容だ。
最後に私事だが「統計学でリスクと向き合う」では、丁度私がガンの疑い濃厚と宣告を受けた時に読んだ本だった。著者は医者が多くの臨床例から治癒した確率の高い治療をしていると理解、友人から生化学指標が示すデータ(確率)を手に入れ統計学的に分析して、ぎりぎりのところで医者の勧めた手術を断わって生き延びたという。我が身に照らし合わせて、生死の判断を医者任せにしない著者の勇気と知識への信頼は感嘆したが、私には出来そうも無い。■