実は原作を一度ほっぽり出している。吝嗇きわまりない、プライドをかなぐり捨てた新選組隊士という設定がちょっとつらくなったから。ウチの娘は、なんらかの“ふりをする”登場人物が出てくると、見ているのが耐えられないのか必死で耳を押さえて目をふさいだりしているが、まあ、それと似た対応か。親子です。
しかし、予想されたこととはいえ、主人公の吉村貫一郎が真のラストサムライぶりを見せるラストの大芝居のあたり、涙が止まらなくなる。あざといと言えばこれほどあざとい展開もない。「鉄道員(ぽっぽや)」や「ラブレター」系の浅田次郎らしさ全開だ。クールな脇役が熱血主人公をかばい立てするあたりは、「熱中時代」のイクミ(太川陽介)が泣かせてくれた(「一生懸命のどこが悪いんだよ!」)のとおんなじ定石かな。
冷静になれば、主人公のとった行動は無益の極地。少なくとも、息子には新時代の日本を背負う男になれと命じてもよかったはずなのに……しかし南部弁の味わいと、滝田洋二郎の達者な演出のおかげで観ている間はそんなことも気づかせない。この監督、「木村家の人びと」や「コミック雑誌なんかいらない!」に顕著なように、どこか醒めた感触があってファンなのだ。まさかこんな大作請負人になるとは思わなかったけれど。
東宝が佐田啓二の娘の中井貴恵をスカウトしたのは、むしろ弟の貴一が目当てという噂がデビュー当時流れていた。「なんであんな木偶の坊を?」と不思議に思ったのも今は昔、ジュニア俳優対決で、あの佐藤浩市を向こうに回し、中井はみごとな“主役の芝居”を見せる。成長したんだなあ。
どうやらNHKの「新選組!」は、この映画のキャスティングへの返歌になっている。微妙なダブりがあったり、解釈として興味深いのだ。沖田総司役だった堺雅人を山南敬助に起用したりね。こんなことも含めて、新選組とはドラマにとっておいしいネタなのがわかる。オールスターキャストにぴったり。