事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「インシテミル」 米澤穂信著 文藝春秋

2008-11-02 | ミステリ

Incitemill 「ガーディアン」につづき、ルールにこだわる、といえばこの作品もかなりのものだ。
小市民シリーズや文芸部シリーズで、“やる気のない探偵”をつくりあげて笑わせた米澤穂信が、今回も『クルマがほしくて割のいいバイトをさがしている』だけの学生を、結果的に名探偵になってしまう男、にうまく仕立てている。問題は設定の方で、オープニングで米澤は高らかにこう宣言する。

警告
この先では、不穏当かつ非倫理的な出来事が発生し得ます。
それでも良いという方のみ、この先にお進みください。

……非倫理的であって非論理的じゃないですよ。物語はこんなバイト募集によって始まる。

年令性別不問。一週間の短期バイト。ある人文科学的実験の被験者。一日あたりの拘束時間は二十四時間。人権に配慮した上で、二十四時間の観察を行う。期間は七日間。実験の純粋性を保つため、外部からは隔離する。拘束時間には全て時給を払う。時給:1120百円
実務連絡汎機構

時給に注目してほしい。1120百円ということは……時給11万2千円なのである。仕事の内容は確かに非倫理的。この時給は以下の条件によってはね上がるのだ。

・人を殺した場合
・人に殺された場合
・人を殺した者を指摘した場合
・人を殺した者を指摘した者を補佐した場合

つまり加害者か被害者、そして探偵かワトソン役になれというわけ。さて、一週間でどれだけのことが行われるかというと……
11万2千円という基礎額や、なぜ金がかかった企画のくせに食事が和食と中華しか出ないかなど、米澤は徹底してつくりこんでいる。題名の意味すら、一種の罠なのだ。読者はみんな考えこむはず。淫してみる?インしてみる?どれも部分的に正解だけど、英語題名がThe Incite Mill(辞書をひいてみて)である理由が最後の最後に理解できるしくみ。

なぜか事件の真相に(たいして知りたくもないくせに)気づいてしまう、単にお金がほしいだけの学生。しかしそのバイト野郎が最後にみせる侠気……読ませます。やるなー米澤。

「さよなら妖精」特集はこちら

コメント
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