事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「シリウスの道」 藤原伊織著 文春文庫

2008-11-12 | ミステリ

16761403 電通について、どんな印象をお持ちだろう。

・あいつらが通ったあとにはぺんぺん草も生えない貪欲な経済アニマルたちの巣窟?

・自民党を中心とした政党までも商売のネタにし、国家デザインまでやっている陰謀の中心?

・広告屋のくせに(歴史的に卑下されてきたことは確か)やたらにプライドの高い鼻持ちならない連中?

・やたらに有名人の子弟を入社させて商売にする究極の縁故会社?

……虚業であることのコンプレックスの裏返しで、取扱高の多さを鼻にかけるその姿勢が嫌われ、『業界人』であることの悪徳はみんな電通人が代表して語られる傾向がある。電通がここまで巨大になった背景に、かの有名な鬼十則(仕事は自ら創るべき。難しい仕事を狙え。 取り組んだら放すな、殺されても放すな。 周囲を引きずり回せ。頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ。摩擦を怖れるな……)戦略十訓(もっと使わせろ 捨てさせろ 無駄使いさせろ 季節を忘れさせろ 贈り物をさせろ 組み合わせで買わせろ きっかけを投じろ 流行遅れにさせろ 気安く買わせろ 混乱をつくり出せ)があるだろう。そりゃ、嫌われるって(^o^)。

 「テロリストのパラソル」で史上初めて江戸川乱歩賞と直木賞を同時受賞した藤原伊織は、電通人ではあるけれど、放蕩ぶりはガリバー電通のなかでも群を抜いている。CMの制作費をギャンブルに使い込み、家を売ってもまだ足りず(しかもギャンブルはやめず)、借金返済のために書いたのが「テロリスト~」だったのだ。狂いっぷりもハンパではない。

 そんな藤原だが「シリウスの道」を読むと、彼が広告という仕事をいかに愛していたかが感じとれる。登場人物たちに虚業の空しさを語らせながら、しかし虚業であるがゆえにハードなプレゼンテーション合戦に血道をあげるプライドの物語でもある。有力政治家の息子である後輩に、『仕事』とはどんなものなのかを身をもって教え、そしてその主人公の教えに応える後輩の意地……ミステリ、青春小説としてもみごとな出来だが、なによりもビジネスノベルとして出色の出来。地方公務員はこれに比べたらぬるい商売かもとため息。午前5時まで一気読み。「テロリスト~」の読者へのうれしいサービスも仕込んである。

 平成19年5月17日、食道ガンで亡くなった藤原伊織の、「シリウスの道」はまちがいなく最高傑作だ。

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