映画レビュー、固め打ちシリーズ。
映画「アーティスト」を見ました。
このコピーにあるように
「ひたむきな愛」がテーマではなく、
テクノロジーについて行けなかった俳優が
「アーティスト」という自己防御で正当化したが、
やはり時代に置いて行かれたという筋が、もっとも正鵠を得ていると言えるだろう。
映画はとある理由とシカケでハッピーエンドになっているが、
実際はトーキーになってついて行けずに脱落した映画スターはたくさんいると思う。
これって、何かに似ている、と映画を見ているときから思っていたが、
現代における、インターネット、そして音楽配信、あるいは電子出版というテクノロジーと
表現者の関係にクリソツだと思うのだ。
テクノロジー、あるいはメディアと表現者は表裏一体であって、
良かれ悪しかれテクノロジー/メディアは絶えず進化し、
表現者はその利点を活かして表現をさらに深めていく。
それができない表現者は淘汰される、たとえ旧来のテクノロジーを愛し、
自分がアーティストだといっても、乗り越えられるモノではない。
とはいえ、3D映画全盛の時代にあえてサイレントで白黒の映画を作るというのは
非常に野心的で面白いし、これは断じて言えるが、サイレントで白黒であっても
3D映画より面白い映画は作れる、という反語的な意味を持っている映画でもある。
無声映画を見て思うのは、音楽の豊穣さだ。
台詞ない映画は、音楽がなければ本当に無音になってしまう。
故に、ほとんどのシーンには音楽が流れており、映画が始まってから終わるまで、
まるで長い組曲のように絶え間なく美しい音楽が流れ続けていて、
それを楽しむだけでも、もう一回映画館で見てもいいかなと思うぐらいだ。
抗いがたいテクノロジー/メディアの進化の中にいて、
ちょっと甘い追憶を味わいたい、
レトロスペクティブな映画と言える。
が、いまサイレントで勝負するという斬新さはやはりコンセプチュアルだと言えるだろう。
残念ながら筋はちょっと平板だが、
この映画の意義やコンセプトを別にすると、
なんといっても最高の見どころは、主人公の男優が、井上順にそっくりというところだとう。
もう、あの頼りなく明るい笑顔のヌケなど、クリソツです。
ぜひ映画館で見ることを
オススメします。