食のエッセイといえば、嵐山光三郎と小泉武夫さんを推す。
嵐山氏は文人であり、文章に独特の拡張と味わいがあって素晴らしいのだが、小泉氏の場合は東京農大の教授であって、希代の喰いしんぼうながら学術的なフィールドワークの趣とと化学的な裏付けがあって、とても楽しい。自ら「味覚人飛行物体」と称するだけあって、変わった食べ物には無条件で食いついていく習性があるため、信じられないような食べ物を食べ、ときには信じられないほどマズイものを体験している。が、読んでいると、この人はまずいものを本当は食べたいのではないかと思える節もあるのだ。
この本はまさに不味いものだけを列挙したものだが、珍しい食べ物がまずかった、という視点と、日常的な食べ物が供する側の怠慢によってまずくなっている、という指摘に二つがあり、前者は興味深いが、後者は一緒に憤りを隠せないものだ。
さきに後者。
旅館の蒸した塩鮭。あれは効率だ。一個一個焼けないからだ。まずいよね。
他にも、不味い病院食は当然として、不味い蕎麦、不味い駅弁、不味い刺身、不味い鰻、不味いライスカレー、不味いビール(地ビールのほとんどは不味い)
そして食の冒険者、小泉武夫氏の面目躍如なのが、前者のいわゆるゲテモノ系。蛇は食う、虫は食う、だが圧巻は、シュール・ストレミングである。
これは世界一臭い食べ物であって、その正体は魚の缶詰、強烈な臭気のあまり「地獄の缶詰」と恐れられている。臭気の強さを測定するアラバスターという計器によりえば納豆が352、鮒ずし486、くさや(焼きたて)1267に対し、シュール・ストレミングは8070である! これは鰊(にしん)の缶詰だが、加熱殺菌せずに缶に詰め、発酵微生物が激しく発効するので二酸化炭素で缶がパンパンに膨らむ。これをあけると汁が飛び散るので、家の中ではあけてはいけない。あける人は捨ててカッパなどを着ること。そして風下に人がいないことを確認すること、ということだった。しかして味は、ま、塩辛に炭酸水を混ぜた味らしいが、小泉味覚人飛行物体は「やや不味い部類」程度だそうだ。ウンチにような臭いはあるそうだが……。脱帽である。
それにしても山科けいすけの表紙イラストが抜群だ。
食のエッセイといえば、嵐山光三郎と小泉武夫さんを推す。
嵐山氏は文人であり、文章に独特の拡張と味わいがあって素晴らしいのだが、小泉氏の場合は東京農大の教授であって、希代の喰いしんぼうながら学術的なフィールドワークの趣とと化学的な裏付けがあって、とても楽しい。自ら「味覚人飛行物体」と称するだけあって、変わった食べ物には無条件で食いついていく習性があるため、信じられないような食べ物を食べ、ときには信じられないほどマズイものを体験している。が、読んでいると、この人はまずいものを本当は食べたいのではないかと思える節もあるのだ。
この本はまさに不味いものだけを列挙したものだが、珍しい食べ物がまずかった、という視点と、日常的な食べ物が供する側の怠慢によってまずくなっている、という指摘に二つがあり、前者は興味深いが、後者は一緒に憤りを隠せないものだ。
さきに後者。
旅館の蒸した塩鮭。あれは効率だ。一個一個焼けないからだ。まずいよね。
他にも、不味い病院食は当然として、不味い蕎麦、不味い駅弁、不味い刺身、不味い鰻、不味いライスカレー、不味いビール(地ビールのほとんどは不味い)
山科けいすけの表紙イラストが抜群だ。
そして食の冒険者、小泉武夫氏の面目躍如なのが、前者のいわゆるゲテモノ系。蛇は食う、虫は食う、だが圧巻は、シュール・ストレミングである。
これは世界一臭い食べ物であって、その正体は魚の缶詰、強烈な臭気のあまり「地獄の缶詰」と恐れられている。臭気の強さを測定するアラバスターという計器によりえば納豆が352、鮒ずし486、くさや(焼きたて)1267に対し、シュール・ストレミングは8070である! これは鰊(にしん)の缶詰だが、加熱殺菌せずに缶に詰め、発酵微生物が激しく発効するので二酸化炭素で缶がパンパンに膨らむ。これをあけると汁が飛び散るので、家の中ではあけてはいけない。あける人は捨ててカッパなどを着ること。そして風下に人がいないことを確認すること、ということだった。しかして味は、ま、塩辛に炭酸水を混ぜた味らしいが、小泉味覚人飛行物体は「やや不味い部類」程度だそうだ。ウンチにような臭いはあるそうだが……。脱帽である。
![](http://ecx.images-amazon.com/images/I/5112D7MFKJL._SL160_.jpg) | 人間はこんなものを食べてきた 小泉武夫の食文化ワンダーランド (日経ビジネス人文庫)小泉 武夫日本経済新聞社このアイテムの詳細を見る |
![](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51kB1IYwXJL._SL160_.jpg) | 小泉武夫の料理道楽食い道楽 (日経ビジネス人文庫 グリーン こ 3-6)小泉 武夫日本経済新聞出版社このアイテムの詳細を見る |