タイトル---『礼節のすすめ』の紹介、愛甲--8. 第725号 23.01.20(木)
前回は第719号、23.01.17でした。それに続きます。
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或る休みの日、局長が自宅で仕事をした後、夫人に「何か作ってよ」とお願いしたところ、裁縫をしていた夫人は手を止めることが出来ず立ち上がらなかったらしい。お腹が空き過ぎて業を煮やした局長は自分でうどんを作ったそうです。
「こりゃうまかった、うまかった」。食べてから、夫人に聞こえるように自慢げに言う夫の言葉に食べてみたいと思った夫人が、台所に行ってみるとおいしかったといううどんの鍋は空っぽ。
「あら、空っぽじゃないの、私のはね」
「あら、貴方も食べるんだったの。少ししか作らなかったもんだから」
「私の分も作ってくれればよかったのに」
「そうだったね、この次はそうしなければね」
局長は夫人にそのように応じたとのこと。
その時の経緯を、局長は職場の朝の団欒の時みんなに話しました。
「本当はなぁ、あいつが立ち上がらないものだから、おいしかったけど残ったのは全部捨てたんですよ。こいつに食わしてなるもんか、しかしか晩もさせもせんからな」
だから捨てたというのです。それを面白可笑しくみんなに披露するのです。話し方が面白いものだから、社員たちは大笑い。そのように社員の心を和ませて何時の間にかスーッといなくなるのです。後日、局長は人使いのコツを私に話してくれました。
「怒るといかんよ、喜ばせないと。そして、褒めないといけないよ」
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間もなく72歳になる私の人生で、愛甲局長との出合ほど素晴らしいものはありませんでした。その後、ああいう人物とは出合ませんでした。頭が良くて、度胸があって、人が良過ぎて、仕事熱心で、ユーモアがあって、人使いが上手くて、とにかく面白い人間でした。
敢えて欠点を挙げれば、自分の家のことは何もしなかったということでした。家のことは奥様任せ、何がどこにあるのか、全くわからない人でした。だから奥様は自分の家の周囲を回って見たこともない、とブツブツ言っていたものです。
愛甲局長みたいな指導者が増えれば、世の中もっと良くなるのにと思うことしきりです。