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北海道美術ネット別館

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「中山峠 森の美術館」に、閉館直前に行ってきた

2017年11月02日 21時40分00秒 | つれづれ日録
 既報のとおり、2017年11月5日に、後志管内喜茂別町にある「中山峠 森の美術館」が閉館します。峠道が雪に覆われる前に、急いで行ってきました。




 なお、中山峠には、札幌市内から道南バスの「札幌洞爺湖線」で行くことができますが、筆者の住んでいるところからは停留所まで行くのが難儀なので、自家用車で行きました。

 「道の駅」の建物の、向かって左側の道路を上ったところに正面玄関があります。
 「道の駅」を入ってすぐの階段を上り、渡り廊下を通って、館内に入ることもできます。


 感想を箇条書きで書いてみます。

1)個々の作品は見どころアリですが、これほどキュレーティングを放棄した展示もめずらしいです

1-2)たとえば、作品に付した作者名の表記などがばらばら。手書きで作者名だけ書いているものもあれば、作品名・作者名のキャプションを他展覧会から流用したものもあります。作者・作品名ともに不明なものも5点ほどありました。

1-3) 平向功一さんの日本画の大作の前に、ぜんぜん違う女性の名前と作品名が記された紙が貼ってありました。


2)館の外にある立体作品はなかなか。特に渡辺行夫さんの大作はすごいので、別項で紹介します。

2-2) ただ、案内板に記載があったし、2008年に筆者が見ているはずの阿部典英さんの作品が見あたりません。


3) 館内は寒い。ところどころ暗い。

3-2)BGMはヘヴィメタル(ハードロック)。音量は絞ってたけどさ…。
 どうなのよ、美術館で流す音楽としては。


 1)にすこし追記します。

 展示作品は大半がタブロー(絵画)。

 正面玄関近くは学生の絵がほとんど。
 A室は道都大(現在は星槎道都大)。安田祐三さんの学生による写実的な人物画。
 B室とC室は札幌大谷大。
 笹森衣里さんとか菊地さくらさんの絵もあります。
 となりは北翔大。

 E室が、どういうカテゴリーなのか謎で、斎藤周(原文ママ)、池田さやか、石井誠(北広島在住とありました)、堀内掬夫の4氏。
 齋藤周さんは「まよなか」という、明るい色と女性像を組み合わせた絵。
 堀内さんは道展の事務局長も務めたベテランで、幾何学的抽象画を描き続けています。

 石井さんは道都大中島ゼミで学んで、現在は京都の大学に勤めています。
 展示されている「コロナ」は道都大在学中に、紙版画とシルクスクリーンの技法で制作した版画と思われます。

 残る部屋の展示作の多くは、第8回あたりの「北海道現代具象展」の展示作のようです。
 同展は、道内を代表する具象画家たちが集まって毎年開いていたものなので、当然出品作の水準は高いです。
 伊藤光悦、村上陽一、羽山雅愉、波田浩司、西田陽二、矢元政行、平向功一、川口浩、吉川聡子、安田祐三…といった顔ぶれの大作が並んでいるので、見応えは十分。とくに吉川さんと西田さん、平向さんは3点以上展示されています。

 このほか、道展日本画の若手、前田健浩、道展の佐藤潤子、全道展の村本千洲子の各氏の大作もあります。

 以上、100号クラスの大作がほとんどですが、なぜか河野満美子さん(道展会員)と佐藤菜摘さんだけは大作1点と小品2点という組み合わせになっています。


 立体は2点だけ。
 1点は、おそらく全作家のなかでもっとも知名度の高い、舟越桂さん「山を立てる」で、屋外の彫刻と同様、宝くじの資金を活用して購入したもののようです。閉館後はどうするのだろう。

 もう1点は、廃品を使ったユーモラスなアートで知られるM.ババッチさん(札幌)の作品でした。


 1階の一番奥の部屋は、千歳に住んでいる、日本を代表する自然写真家のひとり嶋田忠さんの「シマフクロウ・カムイの世界」。
 これは展示替えが面倒で、以前からこのままになっていると推察されます。

 2階の一番奥の部屋は、小野司さんという方の大作が6点もあります。
 どうしてこの人だけこんなに特陳になっているのか、よくわかりません。
 モノトーンの激しいタッチで人物や木々などを描いています。
 この部屋の手前には、2枚の絵のあいだに「小野司」と記された札が貼ってあるのですが、奥の6点と見比べる限りでは、左側の絵も右側の絵も小野さんの画風と明らかに異なるようです。

 先ほど「第8回あたり」と書きましたが、これは、第8回北海道現代具象展が札幌時計台ギャラリーで開かれた際、会場入り口に掲示されていた、美術評論家の金子敏也氏による「美術市場から見た具象絵画の危機」というテキストのパネルが、中山峠森の美術館の壁にも貼ってあったための推測です。
 この文章は、最初に読んだときかなり驚き、北海道の美術界に波紋を呼ぶのではないかと思いましたが、実際には、少なくても筆者の周囲ではほとんど話題になっていませんでした。
 金子敏也さんという方は、同ギャラリーが発行していたフリーペーパー「21ACT」に時々寄稿していたようですが、どんな方なのかは存じ上げません。

(蛇足ですが、同ギャラリーは2016年いっぱいで閉館し、北海道現代具象展も同年の第10回で幕を下ろしています)


 というわけで、見たところ、中山峠 森の美術館に、美術についていくらかの知識を有する関係者がいないことは確実であり、現行の運営体制を続けるのであれば、喜茂別町が閉鎖するのはやむを得ないことといえましょう。

 ただ、筆者は思います。
「美術館に収蔵されるようなマスターピースというほどではないかもしれないが、現代に描かれている絵画としては鑑賞のしがいがあるし、キュレーティング(見せ方)しだいでは観客も喜びそうな作品」
というのは、世の中にけっこうたくさんあるわけです。
 しかし、そういう作品をいつも展示している美術館・ギャラリーというのは、少なくとも道内にはほとんど皆無といっても過言ではありません。
 やりようによっては、この森の美術館が、そういうタイプの施設になる可能性を秘めていたわけですが、実際には、なんの統一的な視点もなしに絵を陳列していただけでした。

 残念です。




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