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島尾新『画聖 雪舟の素顔 天橋立図に隠された謎』(朝日新書)

2022年06月13日 11時27分05秒 | つれづれ読書録
 おもしろかったです。
 十数年前、東京で雪舟展を見ましたが、その前に読んでおきたかったです。

 雪舟といえば、言わずと知れた室町時代の画僧で、日本水墨画の最高峰とされる人です。
 ただ国宝「秋冬山水図」などが名高いものの、その伝記的生涯についてはかならずしも明らかにされていなかったと思います。

 この本は、画風や構図など、美術書的な記述は思い切って省略し、関連史料を駆使して雪舟の生涯を浮き彫りにしています。
 美術史以外の、日本史の研究成果を援用しているのが特徴です。
 昔言われていた「孤高の画僧」「漂泊の水墨画家」というのは、根拠のないイメージであり、大名の大内氏のスタッフともいうべき存在で、禅僧のネットワークをいかして各地を旅して、そこで得た見聞を大内氏に伝えていたようです。
 代表作「天橋立図」も、美のために制作されたのではなく、地理的な調査が目的であったという推測がなされ、その根拠がくわしく述べられているのは、じつにスリリングです。

 また、雪舟本人が、自己プロデュースに長けており、人付き合いも巧みだったこと、中国貿易の実務を指揮し、実際に明に渡って現地社会をもうまく渡っていく能力があったことも述べられます。
 こういうことは、作品を見ているだけでは分からないでしょう。

 雪舟のエピソードで一般にも知られている、子どもの頃に、足を使って自分の涙で本物そっくりのネズミを描いたという、真偽不明の伝説をマクラに、天橋立図の謎を述べてから、生涯の記述に移り、最後の章で天橋立図に戻るという全体の組み立ても見事。
 記述も平易で親しみやすく、日本美術に興味のある人に、広くおすすめしたい一冊です。


2022年4月30日発行
朝日新書(朝日新聞出版)、850円(税込み935円)、263ページ


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