
絵画や版画に比べると、彫刻の個展を定期的に開く人は、札幌では非常に少ない。
これは、作家の数がそもそも少ないという事情もあるが、保管や運送に手間取ることも一因だろう。
登別の北村哲朗さんは、毎年札幌で彫刻の個展を開いている、非常にめずらしい人である。しかも、木彫の大作が何点も会場に並び、たいへんエネルギッシュな作家だ。
いずれも抽象だが、さまざまなものを聯想させる、自然な形状をしている。
今回は16点を出品。
小学時代を過ごした伊達市大滝村の木材を使っている。
冒頭画像、手前の床の上に置かれているのは「迷宮」。
もとは神社の境内にあった古木で、倒れるおそれがあるために伐採され、木工作家の屋中秋谷さんと山分けした材料で作ったとのこと。
木材はヤチダモ。「1本の木で、芯が残っているので、ひび割れができています」
奥の壁に掛かっているのは「界面」。
中央の茶色に見える部分は鉄板だ。

右は「揺」(カツラ)。
左は「涯」(ヤチダモ)。
その上の壁に掛けられているのが「燦」(カツラ、榛)。
「燦」は縄文の太陽をイメージしたもの。
1年ほど、買ってから放置しておいた材木に、オイルをかけて火をつけ、着色したため、黒っぽく見える。
「涯」は、かつて滞在したスペインのがけに着想を得たもので、中央は滝の水が落ちるほとばしりにも見える。「その石灰岩を通った水をわれわれはのんでいる」と北村さん。
「揺」のほうは、伸びゆく生命を想起させるフォルム。
筆者は、水槽の中の藻に付着した水泡を思い出した。
このへんの木彫は、表面の仕上げなどはあまり行っていないので、近づくと、チェーンソーの跡が生々しい。
仕上がりではなくて、大まかなかたちを見るべき作品なのだと思う。

北村さんの彫刻は、個々の作品は魅力的なのだが、「境界の構図」などの主題と作品との関連をもっと明快にすれば、個展としてより興味深いものになるのではないかと思った。
「多義的な解釈をいろいろな人がしてくれた」ということが「彫刻は境界を超える存在になりうる」ということにつながるのかどうか…。ちょっと微妙な気がしないでもない。
しかし、一般的には「わからない」と拒否反応をされがちな抽象彫刻を、多くの人がわりあい気軽に見に来て感想を率直に言い合うというのは、北村さんの人徳というか、作品のもつ魅力のせいなのだと思う。
2015年9月29日(火)~10月4日(日)午前10時~午後7時(最終日~午後5時)
ギャラリーエッセ(札幌市北区北9西3)
■首展 (2015年1月)
■北村哲朗彫刻展 (2010、画像なし)
参考
□北海道を彩るアーティスト http://saruuni.blog96.fc2.com/blog-entry-348.html