(長文です。前文につづき
1.「落書き」ではない
2.グループ名が違うのでは
3.なぜこの時期に
4.両刃の刃
5.歴史の語られ方
6.むすび)
この話題、筆者のTwitterの画面などではそれなりに盛り上がっている。
ネットで見た範囲内では、毎日新聞が読みやすかったので、引用しておく。
http://mainichi.jp/enta/art/news/20110519k0000e040036000c.html
yahoo!のニュースサイトにも載っており、そこには多くのコメントが寄せられている。
ただし、ほとんどが、彼らの行為に否定的なものばかりである。
筆者は実物を見ていないので、言えることは多くない。
ただ、いくつかのことを指摘しておきたい。
1.「落書き」ではない
まず、見出しでは「落書き」となっているが、上の記事を読めばわかるように、「落書き」という言葉からイメージされるような行為とは、かなり異なる。
見出しだけ読んだ人は、岡本太郎の絵そのものに何かをかきくわえた、けしからんいたずらと思うだろう。
しかし、彼らは、壁画とエスカレーターの間にあるすき間にぴったりとはまるような絵を描いてきて、そこにつなげたわけだ。
しかも、背景の色などを岡本作品と同じにするなど、かなり芸が細かい。
(このへんの事情については、サブカルチャー/美術評論家の樋口ヒロユキさんのブログ「少女の掟」に詳しく載っていたが、残念ながら当該エントリはすでに削除されている。このブログは最近読み始めましたが、面白いです)
2.グループ名が違うのでは
どのサイトを見ても
「Chim←Pom」
となっているのだが、矢印の向きが違うのではないか。
「Chim↑Pom」
ではないかと思う。
いずれにしても、「なんとかならんのかい」とツッコミをいれたくなるような、下品な名前だけど。
現代アート業界では、彼らはお騒がせ集団として知られている。
以前、広島の上空で、飛行機雲で「ピカッ」という文字を書いて、被爆者から抗議を受けたことがあった。
そのいきさつは、「なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか」(河出書房新社)にまとめられている(らしい。筆者未読)。
3.なぜこの時期に
それは、いま個展(グループでも個展っていうのか)「REAL TIMES」を開いてるからだと思う。格好の宣伝になるわけだし。
場所は東京の無人島プロダクションというところ。
http://www.mujin-to.com/index_j.htm
なお、上のサイトで、展覧会用に制作したプロモーションビデオが見られる。
この中で、「明日の神話」の前でメンバーがごそごそやってる短い場面がある。
この映像は事前にYou Tubeで公開され、そのため、数日前から「あれはChim↑Pomの仕業だったのか」といううわさが流れていた。
4.両刃の刃
樋口ヒロユキさんはブログからこの話題を削除した理由について
と述べている(http://twitter.com/hiroyuki9999/status/70850902558380032)。
彼らが「中堅」か「無名の若手」かは、文脈によって異なるだろう。
たしかに樋口さんの言う文脈では「中堅」にちがいない。
しかし、世間的にはほとんど知られていない無名の若手グループであることも確かだ。
彼らが絡んだ相手が、世間的に最も有名であろうアーティストであったのは、なんとも象徴的だと思う。
岡本太郎はテレビCMにも出ていたし、もっと以前、二科展を退会したときは新聞記事になったほどだ(2011年のいま、団体公募展をやめることがニュースになるなんて、考えられます?)。
美術館に足を運ぶ人は昔に比べれば多くなった。
でもはっきり言って、現代アートなんてまだまだ世間一般的にはマイナージャンルなのだ。
今回の事件は、世間の目を現代アートに向けさせたという意味はあったのではないか。
ただ、それがプラスのイメージではないようなのが、問題だが。
5.歴史の語られ方
今回の件は、たぶん世間一般には忘れられていくだろうが、現代美術の歴史の片隅には一つの項目として載るんだろうと思う。
しかも、世間のとらえ方よりもプラスのイメージで語りつがれていくのではないだろうか。
というのは、歴史とは、アカデミスムやインテリゲンチャが主な語り主であるからだ。
彼らは、旧弊な思想を嫌い、前衛芸術や表現の自由を擁護することが多い。
印象派もシュルレアリスムも、ハイ・レッド・センターも赤瀬川原平氏の千円札事件も、当時は「世間を騒がせてとんでもないな」と思われていたんだろう。
でも今は、ちゃんと芸術の歴史になっており、むしろ
「なんであんなことがスキャンダル扱いされたのだろう」
という受け止め方が主流になっているのではないか。
もっとも、作品の質という点で、印象派やシュルレアリスムに肩を並べられるかはまた別問題だ。
6.むすび
というわけで、筆者の受け止め方としては、下のリンク先の記事にある、岡本太郎記念館(東京・南青山)の館長、平野暁臣さんの次の発言がいちばん近い。
岡本太郎「明日の神話」への落書き 「いたずらと切り捨てられない」 (産経新聞) - goo ニュース
1.「落書き」ではない
2.グループ名が違うのでは
3.なぜこの時期に
4.両刃の刃
5.歴史の語られ方
6.むすび)
この話題、筆者のTwitterの画面などではそれなりに盛り上がっている。
ネットで見た範囲内では、毎日新聞が読みやすかったので、引用しておく。
今月初め、東京・渋谷駅構内に飾られている芸術家の故岡本太郎さんの壁画「明日の神話」に福島第1原発事故の絵が付け加えられる騒ぎがあり、東京の若手美術家グループ「Chim←Pom(チンポム)」が18日、自分たちが掲示したことを明らかにした。
同日、都内のギャラリーで、絵を張り付ける様子を写した映像と原画を公開した。リーダーの卯城竜太さん(33)は「『明日の神話』は日本の被ばくを扱ったクロニクル(年代記)で、原発事故を付け足した。美術家として何かしないといけないと考えた」としている。
絵は爆発した原子炉建屋を縦約80センチ、横約2メートルの板に描き、今月1日、壁画の右下に接続する形で、壁面に張り付けていた。警視庁渋谷署に匿名で通報があり、同日撤去された。
http://mainichi.jp/enta/art/news/20110519k0000e040036000c.html
yahoo!のニュースサイトにも載っており、そこには多くのコメントが寄せられている。
ただし、ほとんどが、彼らの行為に否定的なものばかりである。
筆者は実物を見ていないので、言えることは多くない。
ただ、いくつかのことを指摘しておきたい。
1.「落書き」ではない
まず、見出しでは「落書き」となっているが、上の記事を読めばわかるように、「落書き」という言葉からイメージされるような行為とは、かなり異なる。
見出しだけ読んだ人は、岡本太郎の絵そのものに何かをかきくわえた、けしからんいたずらと思うだろう。
しかし、彼らは、壁画とエスカレーターの間にあるすき間にぴったりとはまるような絵を描いてきて、そこにつなげたわけだ。
しかも、背景の色などを岡本作品と同じにするなど、かなり芸が細かい。
(このへんの事情については、サブカルチャー/美術評論家の樋口ヒロユキさんのブログ「少女の掟」に詳しく載っていたが、残念ながら当該エントリはすでに削除されている。このブログは最近読み始めましたが、面白いです)
2.グループ名が違うのでは
どのサイトを見ても
「Chim←Pom」
となっているのだが、矢印の向きが違うのではないか。
「Chim↑Pom」
ではないかと思う。
いずれにしても、「なんとかならんのかい」とツッコミをいれたくなるような、下品な名前だけど。
現代アート業界では、彼らはお騒がせ集団として知られている。
以前、広島の上空で、飛行機雲で「ピカッ」という文字を書いて、被爆者から抗議を受けたことがあった。
そのいきさつは、「なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか」(河出書房新社)にまとめられている(らしい。筆者未読)。
3.なぜこの時期に
それは、いま個展(グループでも個展っていうのか)「REAL TIMES」を開いてるからだと思う。格好の宣伝になるわけだし。
場所は東京の無人島プロダクションというところ。
http://www.mujin-to.com/index_j.htm
なお、上のサイトで、展覧会用に制作したプロモーションビデオが見られる。
この中で、「明日の神話」の前でメンバーがごそごそやってる短い場面がある。
この映像は事前にYou Tubeで公開され、そのため、数日前から「あれはChim↑Pomの仕業だったのか」といううわさが流れていた。
4.両刃の刃
樋口ヒロユキさんはブログからこの話題を削除した理由について
例の渋谷の件、Chim↑Pomの行為だったとわかったので、ブログから削除しようと思います。若い美大出たての子とかだったら肩を持ちたいが、彼らはもう中堅だし、それなりの責任もある。広島の一件で彼らは何を学んだのだろう。正直、なんだかなーという感じ。
と述べている(http://twitter.com/hiroyuki9999/status/70850902558380032)。
彼らが「中堅」か「無名の若手」かは、文脈によって異なるだろう。
たしかに樋口さんの言う文脈では「中堅」にちがいない。
しかし、世間的にはほとんど知られていない無名の若手グループであることも確かだ。
彼らが絡んだ相手が、世間的に最も有名であろうアーティストであったのは、なんとも象徴的だと思う。
岡本太郎はテレビCMにも出ていたし、もっと以前、二科展を退会したときは新聞記事になったほどだ(2011年のいま、団体公募展をやめることがニュースになるなんて、考えられます?)。
美術館に足を運ぶ人は昔に比べれば多くなった。
でもはっきり言って、現代アートなんてまだまだ世間一般的にはマイナージャンルなのだ。
今回の事件は、世間の目を現代アートに向けさせたという意味はあったのではないか。
ただ、それがプラスのイメージではないようなのが、問題だが。
5.歴史の語られ方
今回の件は、たぶん世間一般には忘れられていくだろうが、現代美術の歴史の片隅には一つの項目として載るんだろうと思う。
しかも、世間のとらえ方よりもプラスのイメージで語りつがれていくのではないだろうか。
というのは、歴史とは、アカデミスムやインテリゲンチャが主な語り主であるからだ。
彼らは、旧弊な思想を嫌い、前衛芸術や表現の自由を擁護することが多い。
印象派もシュルレアリスムも、ハイ・レッド・センターも赤瀬川原平氏の千円札事件も、当時は「世間を騒がせてとんでもないな」と思われていたんだろう。
でも今は、ちゃんと芸術の歴史になっており、むしろ
「なんであんなことがスキャンダル扱いされたのだろう」
という受け止め方が主流になっているのではないか。
もっとも、作品の質という点で、印象派やシュルレアリスムに肩を並べられるかはまた別問題だ。
6.むすび
というわけで、筆者の受け止め方としては、下のリンク先の記事にある、岡本太郎記念館(東京・南青山)の館長、平野暁臣さんの次の発言がいちばん近い。
「みなさんはいたずらとおっしゃるけれど、スプレーを作品に吹き付けたり傷つけたりしたわけではない。『明日の神話』は後世に残すべき作品だと敬意を払ったやり方をしている。ゲリラ的な瞬間芸として、明らかにアートの文脈で行われた行為です。ただ、作品としては斬新さも感じないし、ほめるつもりもありませんが」
岡本太郎「明日の神話」への落書き 「いたずらと切り捨てられない」 (産経新聞) - goo ニュース
バランス良くまとめていただいて、良く分かりました。
最初に新聞記事を読んだ時は、「バカじゃないの、こいつら」とおもいましたが、
落ち着いてみれば一つの表現ではありますね。
ただそれでも私は「簡単に人の作品に寄りかかってしまったな」とは思いますが。
しかし、岡本太郎記念館館長の「…ただ、作品としては斬新さも感じないし、ほめるつもりもありませんが」というのは、
ちゃんと受け止める気があれば、かなりキツイ言葉なのかもしれません。
アートの話って、社会面に出るのはいいんだけれど、なかなか一般の人にわかるように書くのは難しいですよね。
今回のエントリもたいしておもしろいものではないです。
まあ、「5.」の部分が、多少オリジナリティがあるかな?