
会期終了が迫ってきた「夢見るフランス絵画展」。
ずばり「見た方がいいのか」「たいしたことないのか」ということが気になっている向きもあるでしょうが、筆者の考えは「見た方がいい」です。
1.有名画家が勢ぞろい
もちろん、セザンヌ、ルノワール、モネ、ルオー、モディリアーニ、ヴラマンク、藤田、シャガールといった画家たちの優品がそろっていることは、言うまでもありません。
約70点はすべて、19世紀後半から20世紀にかけてパリで活躍した画家で、あまり知られていない画家はひとりもいません(ただしピカソやブラック、マティスはありません)。
また、百貨店の絵画展ですと、ポスターやエスキース、エディション数の多いリトグラフなども交じっていますが、今回はすべてタブロー(油彩)です。
それ以外に、大きな理由として二つばかり挙げたいと思います。
2.個人コレクション
一つは、会場に明示されてはいませんが、会場に展示されている作品が個人コレクションであると思われることです。
日本の美術館で泰西名画が特別に陳列される場合、海外の美術館の改装か何かを機に、そこの所蔵品をまとめて借り受けるか、あるいは財団や個人のコレクションを借りてくることが多いです。
時々、国内の各美術館が持っている作品をかき集めて開かれる展覧会もあります。しかし、これは大変な手間がかかります。まして、海外の所蔵品を、いくつもの美術館から借りてくることは、良い展覧会ができそうですが、その半面、ものすごい費用と労力が必要です。
「●●美術館展」であれば、もし今回見逃したとしても、いつの日か海外旅行に行き、そこで鑑賞するチャンスがあるかもしれません。
しかし、個人のコレクションの場合、今後見る機会が巡ってくる可能性は、ほぼゼロといってよいでしょう。
なぜなら、どこに行けば見られるかが、皆目わからないからです。
大きな美術館の所蔵品であれば、本などに作品図版が引用されることもあるでしょうが、今回のコレクションは、そういうことも望み薄でしょう。
3.フランス絵画の集客力
二つめは、日本人の好みの変化です。
かつて、美術の本場といえばパリであり、日本人が好む絵画といえば「印象派」でした。
いまでも50代以上には、そういうイメージを抱いている人が少なくありません。
しかし、そのイメージは過去のものとなりました。
現代美術の世界で20世紀末から21世紀初頭にかけて活躍したフランス人はボルタンスキーやソフィ・カルなどわずかで、米国やドイツ、英国などと比べると影が薄いことは否めません。
また、この数年東京で多くの観客を集める美術展は、伊藤若冲など日本美術の展覧会であり、今回の「夢みる…」のような展覧会は昔ほどの話題にならないのが現状です。
札幌でも、この春、札幌芸術の森美術館で開かれた歌川国芳展が盛況だったことを想起すれば、美術の好みの傾向が変わってきていることを、おわかりいただけるのではないでしょうか。
来年以降どんな展覧会が道内で予定されているのか、筆者は知らないので、これはあくまで予想ですが、この先フランス美術の大がかりな展覧会が札幌などで開かれる可能性は、だんだん低くなっていくのではないかと思います。
とりわけ、今回のような、20世紀半ば以降の現代美術に直接関係のない顔ぶれであれば、なおさらです。
ユトリロやヴラマンクの比較的大きな作品が10点ほども並ぶ機会は、国内ではもうあまりないのではないかと、筆者は推測します。
21世紀も15年がすぎ、パリの栄光の時代はますます遠くなっていきます。
そのパリに大きな影響を受けた日本の洋画壇というものも、しだいに変質しつつあります。
過去をしのぶためにも、今回の「夢みるフランス絵画展」は、意義のある展覧会だと筆者は考えています。
2015年6月27日(土)~8月23日(日)午前9:30~午後5:00
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)
すでに兵庫県立美術館、Bunkamura ザ・ミュージアムは会期終了。9月20日~11月23日に宇都宮美術館に巡回。
私も知り合いに「全然たいしたことなかったですよね」と言われてちょっと困ってしまいました。
確かに驚くほどの名作、という感じは少ないかもしれません。
でも、個人コレクションとしては割と一貫した趣味で集められたな、という気がします。
見るべきかどうか、と言われれば見るべきと言っておきましょう。
SHさんの「知り合い」がどんな方なので、あくまで一般論として書くのですが、日本人は旅に行っても「よく知られている風景や名物」を確認して、それで満足して帰ってくることが多いですよね。今回は、画家はわりあい知られた人ばかりですが、作品自体はふだんあまり図版などで見ないものばかりなので、どう評価していいか分からない人がいたのかもしれません。
割と私も図版で見た作品に出会うと喜ぶタイプです。
とはいえ、よく知った作家の知らない作品を見る喜びというのも、かなりありますけどね。
おっしゃるとおりです。
それを感じないとしたら、相当寂しいと思います。