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■CROSS WAVE 2019 (9月23~28日、東京・銀座) 2019年秋の旅(31)

2019年10月25日 21時40分01秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
(承前)

 このグループ展の前身は2002年に始まった「WAVE NOW」展である。
 首都圏で活動する北海道出身の美術家と、道内在住の美術家がおおむね半数ずつ参加し、東京と札幌で交互に毎年開かれていた。
 なかなかの豪華メンバーであったが、札幌側のオリジナルメンバー4人のうち3人が亡くなり(杉山留美子、丹野信吾、米谷雄平の各氏。阿部典英さんは健在で活躍中)、東京・銀座の画廊も店じまいして、2016年を最後に幕を閉じた。
 残ったメンバーが、あらためて昨年始めたのがこの「CROSS WAVE」である。
 札幌側の会場はコンチネンタルギャラリーで変わらず、今回が東京側での初開催となる。

 なお、唯一の「WAVE」発足時からのメンバーで、「首都圏側」だった伊藤彰規さんが昨年、少年時代を過ごした北見に転居したため、5人のうち4人が道内在住ということになり、グループの性格付けが出発時とはやや異なってきているといえなくもないが、作品のどこかに北海道の風土や風景の面影を残した抽象ーという点では共通しているといえるのかもしれない。
 他のメンバーは札幌の富原加奈子さん、林亨さん、後志が拠点の板東宏哉さん、道内出身で埼玉の加藤健二さん。

 冒頭画像で中央は、富原さんの「風の景」。

 モノトーンの抽象絵画が自立しているような風情。
 たしかに、斜めのストロークが風のようだ。


 林さんの「心を浮かべて」シリーズ。
 今回は「心を浮かべて(ひのもり)」「心を浮かべて(みずのもり)」「心を浮かべて(ひかりのもり)」と、副題がついている。

 深みのある群青の画面に、赤などの円模様が浮き上がって見える。
 前進色と後退色がつくりだす奇妙な奥行き感。


 伊藤さんの「la lumière d'Okhotsk II」(è は e の上ににアクサングラーブつき)

 木枠に貼らないカンバスに、青と黒のストロークが伸びやかだ。

 伊藤さんは、ことし2月11日の北海道新聞道東版のインタビューで次のように答えている。

私の作品で重要な色である青は、北見の空に広がるブルーから来ています。少年時代から空が毎日、青くきれいだったことを鮮明に覚えていて、いつしかこのブルーを描くようになりました。フランスには文化庁の派遣留学生として1年間過ごしましたが、夏のパリの濃い青空が北見と同じだと感じて衝撃を受けました。少年時代の記憶が呼び戻されましたね。以来、青を使うことが増えました。


 最近は、一時ほど耳にしなくなったが、北見の青空を「オホーツクブルー」と称することがある。 

 ただ、パリと北見の空の光に共通性を感じるのは、やはり画家の独特の感性ではないかと思う。

 伊藤さんは他に、同題の「VI」「I」「V」と「北のclimat」を出品。


 坂東さんは「OKINAWA 1」「OKINAWA 2」。
 スチレンボードに珪藻土やアクリル絵の具などをまいた162×92センチの作品。

 絵筆でじっくり描くのではなく素材を短時間のうちに支持体の上にまく手法なので、制作中はとくに何も考えていないと坂東さんは言うが、筆者などはやはり沖縄の青い海や、その海に県民の反対を押し切って基地建設のために投入される赤い土などを思い出す。
 絵画はプロパガンダではないが(別にあってもいいが)、それが抽象作品であってもどこかで時代や社会を反映しているのだろうと思う。


 加藤さんは「限界風景」と題した連作を4点出品している。

 作者によると、住んでいる埼玉県入間市の風景と、故郷のオホーツク管内津別町の記憶がもとになっている。

 入間の公園や自然のなかをジョギングしていると、田畑がいつのまにか荒れ地になっていることに気づく。東京の通勤圏ですら、限界集落のようになっている地区がある。
 故郷の津別も、限界集落ができて、生家の場所なども、かつての面影がないという。
 そういうことがきっかけで始めたのがこのシリーズ。
 「限界風景」の「限界」は「限界集落」からきているのだ。

 当初は、生まれた昭和28年(1953)の地図を題材に、神社や道路をトレースするように描いていたが
「最近ようやく線などが自由になってきました」
と話す。


 CROSS WAVE の5人はいわゆる抽象作家だが、意外にも、作品の根元に、北国の風土が広がっているようだ。
 精神風土、といいかえてもいいのかもしれない。


2019年9月23日(月)~28日(土)午前11時~午後7時(最終日~5時)
ギャラリー暁(中央区銀座6-13-6 商工聯合会ビル2階)


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