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北海道美術ネット別館

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五十嵐威暢さんと原研哉さんの対談と『はじまりは、いつも楽しい』

2018年11月24日 14時58分11秒 | つれづれ読書録
 札幌芸術の森美術館で開かれている「札幌美術展 五十嵐威暢の世界」展の関連行事、「対談 五十嵐威暢×原研哉」に、11月17日行ってきた
 あすで終わるこの展覧会は、ぜひ見てほしい。五十嵐さんのデザイン作品や彫刻もさることながら、会場の出口近くにあった、五十嵐さんの略年譜がすばらしい。当時の写真や作品写真をふんだんにちりばめ、その年の大きな出来事にも触れながら、膨大な情報量を見やすくまとめている。
 この略年譜をデザインしたのが、原研哉さん。「デザインのデザイン」など著書も多い、日本の代表的なデザイナーで、ちょっと大げさな言い方をすれば、この年譜を見るだけでも、行く価値があると思うし、今後各美術館で似たような年表をつくる人もいるだろうから、大いに参考になるのではないだろうか。



 対談の当日は、会場に用意されていたいすに坐っている人よりも、それを取り囲むように立って聞いている人(筆者も含む)のほうがはるかに多いという状態だった。
 ただ、行けなかった人は、悔やまなくてもよい。
 なぜなら、さいきん柏艪舎はく ろ しゃから『はじまりは、いつも楽しい デザイナー・建築家 五十嵐威暢のつくる日々』という本が出て、対談で出た話題のほとんどは、この書物で触れられているからだ。

 これは、五十嵐威暢さんがインタビューにこたえて、これまでのあゆみを語った一冊。
 平易で読みやすいし、自慢話で埋まっておらず失敗も率直に語っているし、とくに若い人にはぜひ手にとってもらいたい。展覧会に行けないという人も、これは読んでほしいと思う。
 税別1200円と、わりと手頃だし。

 この本に出てこないことで、五十嵐さんが会場で話したうち、印象に残ったことを挙げておく(あくまで文責は筆者にあります)。

・笑顔の練習もしましたね。深刻な顔をして「いいアイデアですよ」と言っても、仕方ないでしょう。

・(彫刻家に転身したことについて)デザイナーは、版下をつくったら、その先は印刷屋さんにゆだねる。superviser はするけれど自分ではつくらない。だから、やり残したことがある感がいっぱいだったんです。

・デザインは「思いやり」。使う人のことなどを考えるから。ファインアートは「思い」。自分がつくりたいと思ったら、それでいい。

・44年ぶりに戻ってきた北海道ですが、ロサンゼルスにも23年住んだし、デラシネみたいなもので、どこが故郷なのか分からない。滝川には住めないと思うし、東京にも年の4分の1いるし、テラコッタをつくるときは信楽、木の作品は新十津川ですし。これまで、仕事場の移転を除いて引っ越しを42回しました。風来坊なんです。イサム・ノグチが、日本で石、ニューヨークで金属の仕事をしたみたいに、世界をまわりながら仕事をして、刺戟を受けることができたらいい。

・目指しているのは「子ども」。シンプルでいいものをつくれないか、人を感動させることはできないか。そんなことを考えています。

・プロじゃなくてアマチュアとして仕事をしたい。アマチュアは、学ぶことと実践することが両立していますから、こんな楽しいことはありません。




 五十嵐さんは
「俺が、俺が」
というタイプでは、どうみてもなさそうだし、バブル期の広告代理店などにいたような押しの強い人には見えないが、やるときはやる人らしく、たとえば最初の米留学では、自分から資料を集めて(ネットがないので、この段階がものすごく大変)英文で手紙を書いて問い合わせているし、ふつうは修了まで2年かかるUCLAの大学院を1年半で終えている。
 お父様を早く亡くされたり病弱で小学校を1年よけいに通ったりといった不幸はあったものの、才能はあるし、多趣味なお母様をお持ちで、親類にも文学者がいるなど「(ブルデューのいう)文化資本」の差というものを見せつけられるという一面は確かにある。でも、姿勢を見習うことなら、わたしたち凡人にも、ちょっとはできそうだ。


□柏艪舎 http://www.hakurosya.com/

http://www.takenobuigarashi.jp/


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