

「エントランスアート」は、STV北2条ビルのロビーを会場に開かれている展覧会(ほとんどが道内作家の個展)のシリーズ。
3週間1クールで、つぎの1週間は休みというパターン。もちろん入場は無料。会期中無休なのがうれしい。
「ビルの入り口に潤いを」というお題目をとなえることは易しいが、10年以上も長続きしているのは、関係者の努力によるところが大きいのだろう。ギャラリー企画による個展が少ない北海道で、絵画、現代美術、立体、工芸と幅広いジャンルの作家を紹介してきたことの存在意義は非常に大きいと思う。
ただし、もともと展示専用の空間ではなく、また、作家が在廊するスペースもない。
壁面の広さもそれほどでもないことから、作家によっては、「メーンの個展」扱いではなく、「旧作を中心に展示」という場合も、これまでに何度かあった。もちろん、一般のギャラリーとは客層が異なるから、それを一概に否定するつもりは全くない。
しかし、札幌の山本祐歳さんは今回、そういう行き方とは正反対であった。
通常の個展よりもむしろ、力が入っている感がある。
この会場では異例といえそうなくらいだ。少なくとも、床の上に並べられた物体の個数では、この会場の歴史上最多であるのは間違いないだろう(それ自体は、あまり意味はないかもしれないが)。
おもしろいのは、ふだんの個展の山本さんは、ほかの作り手とくらべても、「是が非でも新作を出さなくては」というタイプではなかったこと。新作は数点で、過半数は旧作という構成で個展を開くことに、抵抗感を抱いているふうではなかった。
それが、今回はインスタレーションなので、それぞれの「部品」はおそらく再利用しているものも多いだろうとはいえ、これまでの個展の集大成のような雰囲気すら感じられるのだ。
入り口から入ってすぐ、白い部材の並びが、突き当たりのガラスのウインドー内に視線を導く。
ウインドーの中は、真ん中から左に黒い柱が、右側に白い柱が、それぞれ21個ずつ配置され、いずれもてっぺんにビー玉を載せている。

階段を4段ほど上り、西2丁目通に面した大きなガラス窓のある踊り場も、空間全体でひとつの中心になっている。
中でも大きな作品が「告げに降り立つ」、ということでいいのだろうか。

天使と、最近の山本さんが多様している四角い枠の形状とが、融合している。


山本さんの作品の最大の特質は、このような微細な作り込みがあちこちにあるため、大きな木彫が、さらにスケール感をもって見られることだろうと思う。
私たちは、サムホールの絵は近づいて見るが、100号の絵は離れて見る。でも、サムホールの100倍の時間をかけて見ることはほとんどない。
山本さんのインスタレーションは、大と小がダイナミックに組み合わされているので、大きなものもじっくり見てしまうようになっている。
この白い台に載せた作品群には、じつはもうひとつ意義がある。
いつもこの会場に来ている方は気づかれただろうが、ここには、柳原義達のブロンズ彫刻が置かれていたのだ。黒いカラスの作品である。
10年を越すこの会場の歴史でも、カラスを“駆逐”したのは、はじめてではないか。
実は、この大きな窓の北側の壁(階段の手前)に、かつて亀山良雄の大作が架かっていたのだが、SAG三人展(2008年)の際に外されて、以来そのままである。
カラスは、果たして戻ってくるだろうか。

階段下の空間。
山本さんの原点ともいえる、動物を擬人化した木彫が4体並んでいる。
リカオン、カラカル、ジャイアント・パンダ、カモノハシである。
いまは「擬人化」というよりも「建物や風景と組み合わされた」と形容したほうがいいかもしれない。
この下の床にも白い柱など37本が整然と並ぶ。
さらに、この奥にあるエレベーターホールにも、インスタレーションが設置されている。

踊り場から2階に続く階段の隅にも、四角い枠とビー玉の組み合わせが計15個置かれている。

2階にも木彫が設置されている。
というわけで、ここで紹介したのは一部である。
これらの作品群について、かんたんにコンセプトうんぬんを言いうるものではないことは、明らかだろうと思う。
2014年3月31日~4月20日(日)午前9時~午後6時(土日~午後4時、最終日~午後3時)
エントランスアート(中央区北2西2 STV北2条ビル)
□METAMORIC ANIMAL http://www10.plala.or.jp/metamor/
■Metamoric Animal XVIII (2013年)
【告知】山本祐歳展 青の素中へ -Metamoric Animal XVI- (2012)
※それ以前の発表歴については、上のリンク先を参照してください