「お気に入り」完結作品・・・なのですが、「お気に入り」と言ってもよいのかどうか。
というのも、非常に残酷で、人間の負の面を浮き彫りにしたような作品なもので(^^;
ずいぶん前に発売されましたが、完結したのかどうか今一つ不明だったため、遅れました。
『ダンス・マカブル ~西洋暗黒小史~』2巻 (大西巷一 先生)
「人の欲望が紡ぎだす、血塗られた闇の歴史」 (オビ文より)
『聖なる怪物ジル・ド・レ』 『暗殺の天使と首切りの紳士』 『魔女狩り将軍』
の3編からなるオムニバス。 いずれも、人の負の面をえぐり出すような残酷な物語。
殺人描写、拷問描写などなど、むごい描写にあふれていますので、
そのあたりが苦手な方は、読むのを避けられた方がよろしいかもしれません。
しかし、これもまた人の一面。 そんな歴史を描いた、真理を映し出す物語・・・
ジル・ド・レは、ジャンヌ・ダルクと共にフランスのために戦った人物。
いや、彼はジャンヌを崇拝していたと言っても過言ではない傾倒っぷりだったとか。
ちなみに1巻では、ジャンヌ・ダルクの物語が収録されていましたね。
そして、このジル・ド・レさん。 芸術を愛し、高い教養をもつ人物ですが、
とにかく莫大な資産を有する貴族であり、その放蕩ぶりは国王をしのぐ派手なもの。
かつてはフランスのために戦った英雄も、〈乙女〉ジャンヌを失ってからは
タガがゆるんだように好き勝手やっているありさまという状態です。
しかも、彼は男色家。
とくに美少年を好んだと言われていますが、当時としては男色はそう気にするものでもない。
問題は、彼がこの美少年たちを殺すために愛でていたという点でしょう。
そんな残酷なシーンが山ほどでてくるわけです。
しかし彼は、そんな悪魔の所業をくり返しながらも、一応「後悔」する姿勢はみせるのです。
協会に赴き、懺悔を行い、これ以上はもうやらない・・・と告白する。
けれども、彼は自分の中の“怪物”を止められない。
これが人間のやることか!? そう叫びたくなるほどの異常な宴。 殺戮、殺戮、殺戮。
その残酷は、さらなる過酷さを増し、やがて彼の破滅へとつながってゆく・・・
そんな物語が描かれます。
史実の上でのジル・ド・レについて言えば、まさに殺戮者といえる人物像ではありますし、
そこに弁護の余地など何もありはしませんが、それでも彼がなぜそのようなことを
おこなったのかと考えると、様々なことが妄想できたりもします。
それをここで語っても何にもなりませんが、本作品で描かれる彼の最期の演説シーンは、
なんというか人間の奥底にひそむ大きな闇を、解放した人間の恍惚が感じられてしまい、
何とも言えない気持ちになってしまったりもしましたよ・・・ 悪魔の誘惑ですわ、コレ。
また、他2編の作品についても、残酷シーンが描かれる内容となっています。
しかし、フランス革命期の有名な処刑人・サムソンが登場する話などは、
むしろそうした残酷さに対する人間の絶望と同時に、
希望をも感じられる物語になっていたように思われました。
3編目の「魔女狩り」については、もうどうしようもない人類の暗黒史ですし、
そうした内容で描かれるのですが、こちらも最後が少し今までと違うかな・・・
と感じられた物語。 とても残酷で目を背けたくなる話ではありますが。
つまり2巻収録の3編は、1巻収録の話よりも、マイルドとは言わないですけど
少しマトモ寄りになっているのかな~、という印象を受けました。
1巻では、マトモなことがマトモじゃない世界になってしまう話が多くて、
自分の中の価値観が揺らいでしまう、“足場のグラつき”を感じたりしましたけど、
この巻では比較的(あくまで比較的)、マトモな価値観が揺らぐことはありませんでした。
そうした意味では物足りなかったかも?(ォィ
・・・なんて思ってしまいそうになりますが、内容としては残酷極まりない
人間の本性をあばくスリルに満ちたものとなっています。
私としては、そうしたものを興味深く読めたのかもしれません・・・・・・