五里霧中

★ マンガなどの感想 ★

◆ この“キャラ”を見よ! 『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』4巻より、アレックス・フォン

2011年01月12日 | ◆マンガ 感想

「このキャラを見よ!」第4回です。(これまでの記事はこちらから)

 

少し前の作品になりますが、今回は

『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』

(原作:太田垣康男 先生 作画:C.H.LINE 先生)の4巻より、

アレックス・フォンについて語りたいと思います。 駄文猛省。

今までと異なり暗めの話となりますので、ご容赦のほどを・・・

 

 

Fm_dd04 現在6巻まで刊行中の作品。

 

もとはゲーム作品で、ヴァンツァーという

人型兵器が存在する2100年前後の世界

を舞台にした近未来SFとなっています。

 

戦争や政治的策謀をめぐる物語が

繰り広げられており、このマンガ版でも

そうした話がオムニバス形式で描かれます。

とくに、「戦争の中の個人」に対する描写が

秀逸に感じられる作品です。

 

 

 

今回とりあげるアレックスも、そんな個人の1人。

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アレックス・フォンは士官学校卒業後、輸送ヘリのパイロットとなった人物。

親友の結婚式パーティーに呼ばれたものの、独りきりで輪に入れず。

このあたりから、彼は立場も気も弱く、あまりフランクではない性格であると察せられます。

 

『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』4巻は、

このアレックスを主役とした物語「英雄の十字架」が描かれます。

(本作品はオムニバス形式なので、エピソードごとに主人公が異なっています)

 

 

 

■親友ジョニーとその妻エマ

アレックスが呼ばれたのは、親友ジョニーの結婚式でした。

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ジョニーはアレックスと同期の士官学校卒業生ですが、

親の遺産を受け継いだ資産家でもあり、そのがっしりとした体つきや精悍な顔つきからは

アレックスとは違ったタイプの人間であることがうかがえます。

また、妻となったエマも美しさあふれる女性で、ジョニーにふさわしい花嫁。

 

そんな2人を祝福するアレックス。

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彼が贈ったのは、2人それぞれの誕生石でつくられた十字架でした。

戦災孤児だったアレックスは、子供の頃にバザーのために

ガラス玉で作っていたと照れながら語っています。

なんとも心温まる情景。 まだ戦争が始まっていないころ、平和な時代の1ページです。

この平和が続いていれば、彼らもまた、このまま変わらずにいられたのかもしれません。

 

 

 

■“狂気の時代”が始まって・・・

好むと好まざるとに関わらず、時代の渦というものは人間たちを巻き込んでゆく。

 

Fm_dd04024やがて戦争が始まり、アレックスとジョニーは

戦場へと赴くことになります。

 

2人の所属は輸送部隊なので、

直接戦闘をおこなう部隊に比べれば

危険性は少ない・・・はずでした。

 

 

しかし死神のカマというものは、戦場において誰にも等しくねらいを定めるもの。

ヴァンツァーを輸送するヘリといえども、敵が避けてくれるわけではありません。

むしろ、状況が状況であれば輸送中をねらわれる危険性が高いと言えます。

アレックスたちの輸送ヘリも、そうして敵の急襲を受けることに・・・

その結果、彼らのヘリはアクシデントに見舞われるのですが、

勇気と行動の人であるジョニーは自ら機外へ乗り出し、そのアクシデントを解決します。

すげェよ、ジョニー。

 

 

ところが、この時ジョニーは、機外にロープでぶら下がっているだけの状態。

そんな状況で、アレックスの中に長年潜んでいた悪魔が動き始めるのでした。

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ジョニーの命綱となっているロープを切断しようとするアレックス。

ジョニーが言うように「戦争の恐怖で頭のネジがとんだ・・・」のでしょうか?

 

 

ジョニーに語りかけるアレックス。

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「・・・分かるかい?ジョニー・・・

きみの幸運を見せつけられるたびに・・・

僕が・・・どんなにみじめな気持ちを味わってきたか・・・」

 

端正なマスク、がっしりした体格、快活な性格、親から受け継いだ資産、美しい花嫁。

そのすべてが、アレックスにとっては羨望の対象であり、妬みの感情を刻みつけられるもの。

アレックスの言葉からは、そんな想いを常に心の奥底に沈めながら生きてきた人間の、

静かな叫びが聴こえてきます。

 

 

そして、ついに・・・

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“親友”たちの絆は、断ち切られることに。

それはジョニーを地獄へ送る“レクイエム”であると同時に、

アレックスの野望を切り拓くための“プレリュード”・・・でした。

 

 

 

■その後のアレックス

「一線」を越えてしまったアレックスは、そのまま突き進みます。

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もはやオドオドしていたころの面影はなく、自信にあふれた表情のアレックス・フォン。

涙ながらに“親友”を失った悲しみを語り、ジョニーの葬式へ何食わぬ顔で参列した彼は、

軍隊でも、敵への容赦なき活躍によって順調に地歩を固めていきます。

 

さらに彼は、己の野望の1つ、未亡人となったジョニーの妻エマに近づき・・・

それからどうなるのかは、本編でお確かめください。

いずれにせよ、自分が欲しい物を手に入れるべく、アレックスは時代を駆け抜けることに。

 

 

しかし、その悪運もここまでなのか、ある戦場でアレックスの乗ったヘリは撃墜され、

彼はジャングルへと放り出されてしまいます。

 

ジャングルでの戦火の中、アレックスはエマからかけられた言葉を思い起こします。

「罪に対しては、神から罰を与えられる」

そういった意味合いの言葉は、アレックスにとって“急所”といえるもの。

ジョニーを突き落とし、エマや味方をたばかり、敵を殺し、殺し、殺し・・・

そんなアレックスの罪を知るのは彼自身と、彼が信じる神のみ。

はたして神は、そんなアレックスに罰を与えるのか?

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しかし彼は、こううそぶきます。

「人を殺したくらいで・・・・・・ふざけるな・・・!!」

「神が罰を与えたいなら・・・俺だけじゃなく・・・

平等に・・・・・・戦争を止めない人類全てに与えろよ・・・!!」 

 

 

その後、ジャングルをさまようアレックスは、

この世のモノならぬ“亡霊”に遭遇することになるのですが・・・・・・

それは彼が心の奥に抱える罪の意識が見せたものなのか?

はたまた、本物の“亡霊”なのか? その果てに彼が見たものは・・・?

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戦場という“狂気”の舞台上で踊る男の物語は圧巻です。

 

自分が子供の頃の願いを叶えなかった神。

戦争を止めない人間に罰を与えない神。

そんな神をうらめしく思っていたはずのアレックスが、

やがて「主の御心」に沿うことを選ぶようになる倒錯は、

戦争というテーマを描く上で、これほどふさわしいものはないと言えるほどのもの。

「英雄の十字架」は、そうした名エピソードとなっています。

 

 

 

■なぜアレックスなのか?

あらすじを長々と語るようにしてアレックスという“キャラ”を見てきましたが、

なぜこの“キャラ”について私は書きたかったのか?というと、

じつは自分でもよくわかっていません。

 

私はこの話を読んだとき、やるせなさすぎて、非常に気分が悪くなりました。

けれど同時に「戦争という不条理を描く」という点においては秀逸すぎる、とも感じていました。

「戦時の英雄は、平時の人殺しでしかない」といった言葉、私はあまり好きではないものの、

そういったことを描いた作品として傑出したものがあると感じたのです。

つまり、「戦争」というテーマ性について私は感心していたわけですね。

 

 

しかし、ある知人の見方は少し違っていました。

「日常では不遇だった人間の強い想いが、戦争という非日常において開花した物語」

これが、知人から見たこの物語の評価でした。

その知人は、アレックスの行動を是としないまでも、ある程度共感してしまいかねない

と語ったのです。

 

知人の評価は、「戦争」というテーマ以上にアレックスという「個人」に向けられたたものです。

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アレックスは孤児院出身の人間。

その幼少期は、かなり不遇であったことが察せられます。

ジョニーやエマに贈った十字架は、それぞれの誕生石をしつらったものでしたが、

自分のソレはガラス玉。 子供の頃に最初に作ったものだから、と彼は述べています。 

それでも彼は士官学校に入学し、“親友”ジョニーもノートを写させてもらうほどの

優等生になりました。 おそらくは、血もにじむほどの相当な努力をしたはず。

 

 

また、孤児院にいたころの彼には、3つの願いがありました。

「教会の屋根を直すお金が欲しい」 「英雄になりたい」 「家族が欲しい」

神様は、そんなアレックスの願いをかなえちゃくれなかったわけです。

でも考えてみると、ジョニーに対する行動や、その後の軍隊での活躍などは、

すべてこの願いがもとになっているとも言えるのではないでしょうか。

そうなると、彼はただ、彼自身の野望に忠実だった、ということになります。

 

3つの願いすべてを体現しているような人間だったジョニー。

アレックスのジョニーに対する嫉妬混じりの憎悪のような感情は、

普段であればアレックスの胸の奥に押し込められていたはずのものでした。

平和が続いてさえいれば、それはイビツではあっても、そのまま封じられていたことでしょう。

しかし戦争という状況が、その想いを解放する舞台を用意してしまった。

アレックスが抱えていた抑圧感は、一気に解き放たれることになります。

 

 

知人は、そんなアレックスに自分を重ね

「自分も、こうしたカタチで“チャンス”が転がり込んできたら、どうなってしまうかわからない」

「善悪を抜きにして考えると、自らの野望に忠実であるという点で、世界に虐げられていた

男が下剋上を果たす物語というものには、自分はあこがれてしまうところがある」

と述べていたのですが、それがとても印象深かった。

 

ゆえに私は、このアレックスの物語に見られる「戦争の不条理」というテーマだけでなく、

「世界に抑圧された男の野望の物語」としての側面を、強く語りたかったのかもしれません。

 

ただ、だからといって私は、アレックスのとった行動を肯定することはできません。

自分が同じような状況下で、そうなってしまうかどうなのかはわかりませんが、

できればそんなことにならぬよう心がけたいし、またそんな状況に陥ることのないようにと、

ただただ願うしかない。

私の中の悪魔が目覚めぬように、そして狂気の時代が訪れぬように・・・・・・と。

 

 

このエピソードは“戦争の闇の部分”を色濃く描いたものになっていますが、

その他のエピソードでは、戦場での希望を思わせてくれるような物語や、

やはり戦争の悲しさを描く物語もあり、とにかく読ませてくれる作品となっています。

 

また、今回はアレックスに焦点を当てたものの、本作品の名“キャラ”といえばこの人。

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自らを「外道な戦場カメラマン」と語る男・犬塚研一。

彼もまた、かなり興味深い人物で、さまざまなエピソードに顔を出しています。

このほかにも、本作品には強烈な個性をもった“キャラ”がぞろぞろいるので、

アレックス以外の人物についても、いつか語れたらよいな、と考えております。

 

本作品は、言葉は悪いのですが、戦争をエンタテインメントとして描きながら、

同時に「戦争はカッコイイものなんかじゃない」ということも見事に表現している作品です。

これはゲーム版の初期シリーズにも共通したテーマであったように、私は感じています。

ゆえに『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』は傑作なのです。

現在6巻まで刊行中ですが、今後の展開からも目が離せません!

 

 


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