五里霧中

★ マンガなどの感想 ★

★ 『灰と幻想のグリムガル』12巻・感想 竜の島ですごす夏休み

2018年06月22日 | ★その他

『灰と幻想のグリムガル level.12 それはある島と竜を巡る伝説の始まり』
 
(著:十文字青 先生/イラスト:白井鋭利 先生)

 

 作品紹介ページ(試し読みあり)
 
 オルタナへの帰還を目指し、海へ出るハルヒロたち。
 その海辺に乗り上げていた一隻の船には、海賊(?)たちがいて・・・

 と始まる12巻。
 海賊(?)の少女・モモヒナとの出逢いを経て、エメラルド諸島へ向かうハルヒロ一行。
 そこには竜が住んでいるとされ、到着した途端、街が竜に襲われる場面を目撃することに。

 ここから始まる事件の真相を追う物語。
 交渉、聞き込み、夏休み、決闘、竜襲撃と、様々な出来事が飽きさせない面白さ。
 そうした冒険の果てに、伝説が始まります(ぇ

 もう13巻が出ている所もあるようですが、まだ12巻の感想を書いていなかったので・・・
 
 
 
 

以下、ネタばれあります。 (未読の方はご注意ください)

 
 
 
 
 

【ネタバレ感想】
●オルタナへの道は険しく

 まだまだ続く帰還への旅路。

 正体不明の生物に襲われるのは、いつものこと。
 それに慣れることもなく、悪戦苦闘しながら進む道のり。

 途中、ドワーフ製の宝箱を発見するも罠に引っかかったりと、やっぱり前途多難。
 上手くいきそうでいかない、ハルヒロたちらしい道中でありましたけど、
 やがて海へ出た一行は、そこでひとつの出逢いを果たすことに・・・

 いつも、谷だの丘だの森だので息苦しい戦いを強いられてきた一行が、
 海という開けた場所へ出たことで、ちょっとした開放感を覚えたりも。
 このあたり、なかなか爽快な印象を与えてくれましたね。

 

 

●メリイの変化とハルヒロと

 自分に戸惑うメリイと、つなぎとめようとするハルヒロと。

・変化への戸惑い
 知らないはずのことを知っていたり、使えないはずの魔法を使えたり、
 相変わらずメリイの様子がおかしいわけですが、彼女自身もその変化に困惑。

 そして、そんなメリイに対する周囲の反応も、腫れ物に触るというか、
 メリイの言葉を聞いて黙りこくってしまうもので、気まずい雰囲気になっています。

 ハルヒロはフォローしようとしますが、同時に、こういう時に遠慮なく
 言いづらいことを言える「あの馬鹿」がいれば、と考えていたのは面白い所。
 パーティにおけるランタの有用性というか、ありがたさを感じられますね。

 まあ、言ったら言ったで、「余計なことを」とか思ってしまうのでしょうけど。
 ハルヒロは間違いなくウザがるはず(^^;

 
・メリイとハルヒロ
 メリイは、みんなが気を遣ってくれていることをわかっていて、
 そのことをありがたいと思ってはいるものの、自分が変わったことに怯え、
 自分がおかしいかったら、おかしいと指摘してほしいと語りつつ、混乱している様子。

 そして、メリイが取り乱しそうになると、ハルヒロが彼女を抱き寄せていたのには、
 うっひゃあと驚かされましたね。

 そんな行動に出ながらも、ハルヒロらしく色々ネガティブに考えていたのが可笑しかった。
 とはいえ、メリイを守りたいという一念が軸にあって、何とか彼女を安心させようと
 ハルヒロらしからぬ頑張りを見せていたのは、好感触でありました。

 メリイもメリイで「ずっと、こうして欲しかったの」って、まあ大胆。
 それ以上、ハルヒロは踏み込めませんでしたけど、それでも大きな前進でしょう。

 
・メリイをつなぎとめる存在
 ただ、このハルヒロの行動は重要な気がします。
 自分の変化に戸惑い、混乱しているメリイは、いわば自分を見失いそうになっている状態。
 そんな彼女をつなぎとめられるのは、もしかするとハルヒロだけなのかもしれません。

 ジェシーから受け継いだ記憶の荒波の中で、消えてゆきそうになるメリイの心を
 呼び止めることができる存在に、ハルヒロがなれるかどうかは、今後の鍵になりそうです。

 

 

●K&K商会との邂逅

 海辺で出逢う謎の少女と・・・

 海へ出た一行が見つけたのは、座礁しているらしき船。
 その近くの岩浜には、人間とオークとコボルド等が一緒にいる集団が。

 そして、まさかの鉄砲による銃撃を受けますが、「鉄砲」のことを
 ハルヒロたちは前の世界の記憶で知っていて、セトラがわかっていなかったことは、
 やはり“世界”の違いを感じさせる描写でしたね。

 それはともかく、集団のリーダーである少女・モモヒナ。
 彼女は、十文字先生の別作品『大英雄が無職で何が悪い』の登場人物らしいですね。
 私は読めていないのですが、グリムガルと同一世界の物語のようで、興味津々です。
 (web版は更新止まっているみたいですけど途中まで読めます

 ということで、モモヒナと出逢い、色々あって彼女らと行動を共にすることになり、
 海賊商会K&Kの一員として、その本拠地・エメラルド諸島へ向かうものの、
 そこでトラブルに巻き込まれてしまうあたり、ハルヒロたちらしい展開でありました。

 また、ユメ以上にぶっ飛んだモモヒナの明るく軽いノリや、K&K商会の個性的な面々は、
 トッキーズっぽい雰囲気を醸し出して、いつもと違った空気をつくり出していましたね。

 

 
●竜のいる島

 竜という存在。

 島へ着くと、3頭の竜が港を襲っている現場に遭遇。
 竜は大昔から住んでいて、守り神とすら言われているのに、なぜこんなことを?
 という所から、ハルヒロたちも、その調査に乗り出すことになる展開が面白かった。

 竜といえば、ファンタジー世界では最高峰の強さであることが多い存在。
 そんな竜を相手取って何が出来るのか? というのは、なかなかに気になる所でした。

  

 
●冒険と一行と

 冒険の中での動向。

・クザク
 この巻で大きな見所があったのは、クザクでしょうか。
 竜による襲撃事件の真相を探る際、頭部がキツネに似ている種族ルナルカに捕らわれ、
 クザクが決闘に代表として出ることになっていたのは、見せ場でしたね。

 ちょっと頼りない所もあるクザクですが、ここでの戦いは見事なものでしたし、
 対戦相手ムァダンも引けを取らない戦士であり、名勝負となっていました。

 また、ハルヒロへの無垢な信頼を感じられる描写があったり、
 ハルヒロのミスにも率先して切り替えの姿勢を見せたりと、
 ハルヒロとの関りで、色々と見せてくれるものがありましたね。

 それと、シホルに犬扱いされるシーンには笑!
 背中や頭まで撫でられるとか、何なのこれ・・・

 

・セトラ
 とくに気になったのは、セトラでしょうか。
 ハルヒロの気持ちが誰に向いているかを察した彼女の行動は、
 以前のように、ハルヒロに馴れ馴れしくすることが、なくなっていますね。

 ハルヒロとメリイが2人きりなることも厭わず、むしろ推奨しているような?
 さらに、積極的にならないハルヒロに、じれったさを覚えてもいる様子。

 かと思えば、気味の悪い生き物から救ってくれたハルヒロに思わず「すきだ」
 なんて言ってしまうくせに、後から「さっきのは忘れろ」と忠告する矛盾。

 これらから、ハルヒロへの想いを抱えつつ、彼の意向を尊重するセトラの愛を
 感じてしまうのですが、いかがでしょう。 これはツライことだと思いますよ。

 

・シホル
 シホルに関しては、ハルヒロからの信頼感が増している印象。
 とある場面で、これでいいのかな? と考えた際、シホルを見てしまうハルヒロは、
 「迷ったときはついシホルに救いを求めてしまう」なんて思うほど。

 このあたり、もはやパーティの参謀格になっているシホルの風格を感じます。
 クザクを犬扱いして愛でるのに!

 あと、謎の生き物が背中に入って「ぎゃあああ!」と叫ぶ彼女は愛嬌あってよかった(ぇ
 がたがた震えて、精神が遠くへ飛んで行ってしまった彼女は、格別でありましたよ(ォィ

 

・ユメ
 今回、あまり目立たなかったかな? と思えるユメさん。
 ですが、最もインパクトある行動をとったとも言えるでしょうね。

 魔法使いにして、カンフーマスターであるモモヒナに、興味津々だった彼女が、
 ああいった行動をとったことは、パーティにとって大きな影響がありそうです。
 でも、ユメさんなら大丈夫と思える安心感もありますね。

 

 

●夏休み

 中休み的な物語。

 前巻のあとがきに「明るく楽しい」内容になると書かれていた12巻。
 色々大変なことはあったものの、概ね間違ってはいなかった気がします。

 海でくつろぐシーンでは、女性陣が戯れる平和な光景を見て「夏休みみたいだな」
 なんて言葉も出て、貴重な時間を過ごしていることを感じさせてくれました。

 さらに皆で遊んだり、大笑いしたり、ハルヒロも珍しくはしゃいだりと、
 これまでの過酷な道のりを思うと、休養をとれたような気にもなって、
 癒される感覚がありましたね。

 

 

●そして伝説へ・・・

 竜の巣へ。

 事件の解決のため、情報を集め、行動したハルヒロたち。
 ついには、竜の巣へと立ち入ることになるのですが・・・

 巣まで行く道中の過酷さが、これでもかと描かれる場面は、いつも通りの苦労の連続。
 だったのですが、この過程の厳しさがあればあるほど、この後、一気に街までの行程を
 ショートカットしてしまう爽快感が、際立つようになっていたのには脱帽でありました。

 ハルヒロにとっては、死を覚悟しなければならない状況だったでしょうけど、
 このショートカットの爽快感は、なかなか得難いものだったと感じます。

 そして、事件を解決へ導いたハルヒロたち。
 ゴブリンスレイヤーに変わる通り名を付けられていたのは愉快でしたし、何より痛快。
 まさに、「明るく楽しい」内容にふさわしい物語となっていました。

 しかし、最後に起きた突然の出来事には、驚かざるを得ませんでしたね。
 これがこれから、どのような影響をハルヒロたちに与えるのか、注目ですけども、
 前向きな方向性ではありますので、約束の日を待ちたい気分でいっぱいです。

 また、ハルヒロがスランプ気味であることも気になります。
 これは悪い前触れなのか、はたまた新たなステージへ進む前兆なのか。

 それと「受信石」が壊れたらしいことも。
 本当に壊れたのか、はたまたソウマたちに何かあったのか。
 今後のハルヒロたちの動向共々、諸々が気になりつつ、今後も楽しみです!

  


★ 『灰と幻想のグリムガル』11巻・感想 父と子と、死と生と

2017年08月16日 | ★その他


『灰と幻想のグリムガル level.11 あの時それぞれの道で夢を見た』
 
(著:十文字青 先生/イラスト:白井鋭利 先生)
 

 作品紹介ページ(試し読みあり)

 グォレラの襲撃を迎え撃つも、苦境に陥るハルヒロたち。
 そこで起きた衝撃の出来事に悲しみを覚える間もなく、戦い続けますが・・・

 と始まる第11巻。
 倒しても倒しても次々現れるグォレラの群れに、ハルヒロたちは消耗してゆき、
 もはや絶体絶命化といった状況にまで追い込まれ、息苦しい展開が続きます。

 一方、逃走中のランタは、彼らしいしぶとさで今を生き抜いていたものの、
 ついにタカサギに追いつかれてしまい、こちらも大ピンチ・・・
 といった感じに、それぞれの苦境が描かれていました。

 
 そして、ハルヒロたちに訪れる試練の時。
 ジェシーの行動がもたらす未来に希望はあるのか?
 パーティ各人の心情に、変化はないのか?

 ランタとタカサギとの関係も気になりつつ、重大な局面を迎える今巻。
 メリイの戸惑いと、ハルヒロの覚悟に注目せざるを得ませんね。

 

 

以下、ネタばれあります。 (未読の方はご注意ください)

 

  

 

【ネタバレ感想】

●窒息しそうなほどの連戦

 苛烈を極めるグォレラとの戦い。

 メリイの身に起きた出来事を顧みる暇もないまま、戦い続けるハルヒロたち。
 倒しても倒しても次々に現れる敵が、皆の気力体力を削るギリギリの戦いとなります。

 リーダーだから余計なことを考えている場合じゃないと思うハルヒロからは、
 責任感の強さと同時に、目の前の悲劇から意識をそらそうとする切なさを感じましたね。
 ある種の現実逃避のような、そうした心情。

 この戦いで成長を見せたクザクも、だいぶ疲弊していて、他の皆も同様。
 それでも戦い続けなければいけないのが、厳しく、辛く、息苦しい所でした。

 もしかして全滅まであり得るか?
 と緊迫ムードが漂うものの、ジェシーたちの介入から形勢逆転して、
 あっけない幕切れに至っていたのは、失ったものに釣り合わない不条理感があります。

 

 
●ランタの戦い

 タカサギから逃げるランタ。

 フォルガンから抜け出し、逃走を続けるランタでしたが、食事の問題に直面しつつ、
 カエルを捕えて食べるなんて場面が描かれていたのは、なかなか面白い所。

 その後、タカサギに追いつかれ、間の抜けた見つかり方をするランタには笑いましたが、
 やはり実力差はハッキリしていて、苦しい戦いを強いられながらも、なぜフォルガンを
 抜けたのか尋ねられるランタの返答は、興味深いものでありました。

 ランタにとってフォルガンは居心地の良い場所だった。
 けれど、そのまま染まり切って、フォルガンを好きになってしまったら、自分ではなくなる
 といったようなことを述べていて、このあたりにランタの強い自我を感じましたね。

 そして、ランタをフォルガンから抜けさせる動機の根底に、モグゾーとの約束があることは
 彼にとって、モグゾーの存在がいかに特別であるかを思わせます。

 ランタは他のメンバーから嫌われていることを自覚していて(マナトは少し違いましたが)、
 その中で、モグゾーだけは「不思議なやつだった」と評価して、親しみを覚えていた様子。
 そんなモグゾーとの思い出が、フォルガン抜けを決意させる原動力だったのは感慨深い。

 また、ハルヒロに関しても、嫌われているのは当然としても、あれこれ背負わせ過ぎたかも
 と反省していたのは、ランタの成長を感じさせ、今後の彼の関わり方を期待させますね。
 あと、ゾディアックんの“成長”も楽しかった。

 

 
●ハルヒロの苦悩

 メリイへの想い。

 メリイの名前を呼んでしまい、現実へ引き戻されるように懊悩するハルヒロ。
 ジェシーの作戦の結果、彼女を失ったことが頭によぎりつつも、元々は自分が失敗したため
 招いた結果だと考えて己を責めてしまうあたり、何とも言えない苦さがあります。

 それから、「君の手を強く握りたかった」や「力いっぱい抱きしめたかった」など、
 メリイへの想いを心の中で語っていたのが、印象深かった。

 ただでさえ、仲間の死に対して精神的に限界近くにあったハルヒロが、
 大事な人を失ったという事実の重さを痛感します。

 しかし、ここでジェシーから1つの提案があり、前巻の予想通りの展開に話が進むことに。
 これについては賛否両論ありそうですけど、難しい所ですね。

 

 
●死と生の問題

 蘇生という奇跡・・・

 事務的というか、感情のこもってない言葉で、死を扱うジェシー。
 自分の死にすらも興味なさげなあたりに、何かしら異常性を感じてしまいます。

 これに関しては、以前の彼はこんな風ではなかったように思えるのですよね。
 10巻冒頭で死に瀕した彼は、生きることを願ったからこそ、ここにいるわけで・・・

 となると、彼に施された“蘇生”が、そうした変化をもたらした可能性は高そう。
 それは、なかなか死ねない体になったことの反動なのか、はたまた、多くの記憶を
 共有することによる自我の希薄さから来るものなのか、大いに気になります。

 なぜなら、同じことがメリイにも施されるわけで、ジェシーの異様さに気付いている
 ハルヒロたちが、そのデメリットを気にして二の足を踏むのも納得というもの。

 何より、メリイ自身が「よかった」と思えなかったとしたら?
 というのは、大きな課題になりそうですね。

 そして、ジェシーの行なった儀式のグロテスクさが、今後の不安としてつきまといます。
 もし、ハルヒロが命を落としたとしたら、今度はメリイが同じ行動に出るのでは・・・
 なんて考えて、身震いしちゃいましたよ。

 
 

●父と子と

 父親との関係。

・ランタの場合
 元世界でのランタは、父親との関係が希薄だったようで、そのことで荒れてもいて、
 おかげで母親との関係も険悪になっていたことが描かれていました。

 ありがちな不運なのかもしれませんが、それでもランタにとっては大事なこと。
 ゆえに、“父親”の存在を無意識にでも求めてしまう部分はあるのかもしれませんね。

 タカサギとのやりとりも、師匠という以上に父親と接する息子のような
 雰囲気を感じましたし、何よりもランタを追いかけてきたタカサギの“親心”に、
 ランタが感じ入る場面には、まさに父子の関係を見た気がします。

 
・メリイの場合
 元の世界でのメリイの父親は、穏やかな人柄で、娘をビデオカメラに記録するのが
 趣味の子煩悩な人物だったものの、事故で亡くなってしまったのだとか・・・

 それが影響しているのか、彼女はどこか上の空で生きている風でもあって、
 ハカマダくんとのエピソードでは、危うさを感じてしまいました。

 とはいえ、相手を傷つけないために気づかった結果、より傷つけることになった
 不器用さを抱えていることがわかりますし、そこからは彼女の優しさを汲み取れます。
 いずれにせよ、ランタもメリイも、父親の存在が大きかったことを感じさせますね。

 
 

●ジェシーの記憶

 メリイが視るジェシーの記憶。

 10巻でも語られていたジェシーの過去を覗き見るメリイ。
 しかし、それ以外にも、アゲハだのヤスマだの、知らない人物たちの記憶が 
 次々と浮かび上がってくるビジョンは、興味深くも不吉なものがありました。

 これらすべてが、ジェシーの中にあった記憶、これまで“生き返った”者達の記憶
 だとして、それを視たメリイが自分を見失いつつあったことが、気になります。

 また、一匹の鼠へ行きつく記憶の意味することは何なのか?
 これは完全に妄想ですが、何者かが鼠を使って、“蘇生”の実験を行なった?
 その結果、宿主を変えながら記憶を受け継ぐ、得体のしれないモノが生まれた?

 もしかすると、“不死の王”と何かしら関係のあったりするのかも?
 ジェシーは“不死の王”の本名らしきものを知っていましたし、「蘇生」と「不死」
 という生命の神秘に関する部分も共通していますし・・・

 まさか、ジェシー(だったモノ)が“不死の王”という可能性も無きにしも非ず?
 けれどジェシーは、“不死の王”の名前を呼んでいましたし、別人と考えるべきかな。
 などなど、色々と妄想してしまいます。

 
 

●ハルヒロの覚悟

 メリイの変化と周囲の反応。

・「死んだ者は、蘇らないぞ」
 セトラがハルヒロに語り掛けたその言葉は真理。
 しかし、その不可逆の現象が起きようとしているときに、
 セトラはハルヒロに1つの重大な決断を迫っていました。

 イジワルに考えると、ハルヒロの心に気付いたセトラが、メリイを邪魔に思った
 とも言えますが、やはりそれ以上に、メリイが別の何かに変わってしまうことを
 恐れての進言だったのでしょうね。

 ハルヒロが誰を想っているのか、気付いてしまったセトラにとっては、
 色々と辛いことになりそうですが・・・
 

・メリイ自身の戸惑い
 襲撃してきた敵に応戦するハルヒロたち。
 当然、メリイも参加することになりますが、この時点では
 今までと変わらない彼女で、それだけに安心感がありました。

 しかし、その後の窮地に陥った戦いでは、やはりジェシーのような行動をとり、
 大きな変化を見せていて、そのことに一同が唖然としたり、ユメがメリイから
 目をそらすなど、周囲の反応に不穏な気配が高まります。

 何より、メリイ自身がそんな自分に戸惑っていて、混乱している様子。
 この時の彼女の心中がどのようなものかは語られませんけど、
 大きな不安の中にいることは、間違いないでしょうね。

 
・ハルヒロの決意と、明日への出発
 だからこそ、ここでハルヒロが手を差しのべていたのは、救いだったのではないかと。
 彼は覚悟を決め、全てを受け容れると考えていたのが、頼もしかった。

 ジェシーから提案されたときには迷っていたハルヒロ。
 それでも心を決め、確固たる意志をもってメリイの手を引っ張っていたのは、
 とても立派なことですよね。

 メリイの変化は、ハルヒロたちに様々な影響をもたらしそうですが、
 これが物語にどう関わってゆくのか・・・ ますます今後も楽しみです!

 それにしても、あとがきで次巻は「明るく楽しい」内容になるとか書かれてますけど、
 はたして信じてもよろしいのでしょうかね? 期待してますよ!

 


★『灰と幻想のグリムガル』10巻・感想 激戦に続く激戦と、ある元義勇兵

2017年04月01日 | ★その他

『灰と幻想のグリムガル level.10 ラブソングは届かない』
 
(著:十文字青 先生/イラスト:白井鋭利 先生)

 

 作品紹介ページ(試し読みあり)

 ある義勇兵の死の間際が描かれる第10巻。
 元の世界の記憶を取り戻し、死にいく彼が見たものは・・・?
 と、ハルヒロたちとは無関係の場面から始まりつつも、引き込まれる冒頭。

 そこから、森の中でグォレラという猿型のモンスターたちと激戦を繰り返す
 ハルヒロたちの話となり、悪戦苦闘の末、ある村へとたどり着くも、一波乱・・・

 このグォレラとの戦いが、まさに死線を越える状況で大いに盛り上がりますが、
 何より重要だったのは、村で出逢うある男、そしてその後の出来事でしょうね。

 
 
 この巻では、9巻同様、ハルヒロ以外のメンバーの視点や心情も描かれており、
 これまでとは違った趣になっています。

 9巻は、群像劇的に描くための試金石のような話だったということでしょうか。
 今後はこのスタイルが続きそうですね。(次巻はハルヒロ中心になりそうですが)

 この巻では、元の世界とグリムガルについて考えをめぐらされたりもしましたけど、
 やはり、ここで起きた出来事が、次の巻でどうなってしまのか、気になります。

 

 

以下、ネタばれあります。 (未読の方はご注意ください)

 

 

 

【ネタバレ感想】

●グリムガルという世界について

 冒頭、ある義勇兵の死の間際に語られる世界の形。

 ある義勇兵さんが死の間際、元の世界の記憶を取り戻し、そこから考えを巡らせていましたが、
 彼の思い浮かべる世界の形=シミュレーション仮説は、なかなか興味深いものでした。

 とはいえ、それが真実かどうかは謎。
 私は、まずグリムガルへ来た人間は、元の世界で死んでいるのか、生きたまま来たのかが
 気になっています。 「転生」か「転移」かですね。

 BD2巻の特典小説(マナト編)で、少し気になる記述がありまして、
 そのあたりから「もしかすると死んでからグリムガルへ来たのかな?」なんて考えたりも。

 とはいえ、9巻でのクザクの回想からは、そうした気配も感じられず、やはり「転移」かな?
 と思ったり、こればかりはまだまだわからない所ですね。

 「転移」なら元の世界へ戻れますけど、「転生」だと難しいでしょうから・・・
 まあ、シミュレーション仮説にのっとった場合、これらの考えは無意味になりかねませんけど。

 

●ハルヒロたちの戦い

 オルタナへの道は遠く険しい。

 千の峡谷(サウザンバレー)を離れるも、オルタナへの道はかなり遠いらしく、途中、
 モンスターの脅威もあるため、限られたルートを進まねばならないなど、気が滅入る状況。

 そんな中、グォレラという群れで襲ってくるモンスターの襲撃は、ハルヒロたちを疲弊させます。
 この苦しい連戦が、もう勘弁してあげてほしいと思わせるほどのもので、厳しかったですね。

 さらに、ランタ不在という点も、戦力に大きな穴をあけています。
 ハルヒロなどは「あんなやつ、いないほうがいい」なんて考えていましたけど、それでも、
 なぜかランタの憎まれ口を思い出して、顔が緩んでしまうあたり、特別なものを感じさせます。

 そして、ある奇策によってグォレラから逃れた後、クザクに落命の危機があったものの、
 何とか持ち直した際、ハルヒロが涙を流していたのは、彼の心情を痛いほど思わせてくれました。

 もう、限界なんですよね、仲間の死が。
 細い糸でようやく保たれていると言ってもよいくらい、弱っているであろうハルヒロの心。
 ここで、それを支えたのはシホルであり、彼女の成長を著しく印象付けます。
 
 

●セトラの存在

 セトラをめぐるハルヒロたちの心情。

 本格的にハルヒロ一行に加わったセトラ(とエンバとキイチ・他ニャア)。
 彼女をめぐるパーティの心情が、それぞれ面白かったり。
 

・ハルヒロ ⇒ セトラ
 9巻では今一つ見えなかったハルヒロのセトラへの心情。
 メリイは、セトラがチョコに似ていることに気づいていましたが、ハルヒロは思い当っていない。
 とはいえ、誰かを思い出しそうになるなど、引っかかりはあるようです。

 そんなセトラに対して、仲間とまでは思っていないものの、信頼を置いている描写があり、
 決して心の中で無碍にしているわけでもないことが、わかります。
 

・セトラ ⇒ ハルヒロ

 逆に、セトラのハルヒロへの心情は、もはや“恋人のふり”を越えたものになりつつあるようで、
 ハルヒロがモテる(ミモリンの件)と知って激しいヤキモチを抱いたり、やたらと接触したり、
 「発情」なんて言葉を使ってアプローチをかけてきたりと、積極的でしたね。

 そんな様子を見て、シホルはむっつりでしたし、メリイさんは咳き込んでジェラシー全開だし、
 彼女たちの反応が愉快でありました(^^;
 

・メリイ ⇒ セトラ

 ハルヒロをはさんでいる関係上、反感を抱くのはやむを得ずでしょうか。
 セトラの方は、メリイがニャア好きと知ると親近感を抱いたようで、この食い違いは面白い。

 その後、落ち着いてセトラのことを考えて「好ましい」と考えるメリイも興味深かったですね。
 要するに、ハルヒロの存在があるために、セトラに反発するのだと自覚してましたが、
 そこで「ハルヒロはみんなのもの」と考えていたのには、笑ってしまいました。
 恋の自覚じゃないのかよ!
 

 他にも、シホルは「信じるに足る人」と評価したり、クザクはむしろ、どうでもよくないか?
 なんて考えたりと、それぞれのセトラへの視点には注目でしたね。

 

●とある村へ

 グォレラの群れを振り切って、たどり着くある村。

 そこで出逢う元義勇兵の男・ジェシー。
 謎めいていて、つかみどころのない彼の存在が、不気味かつ興味を引かれました。

 それはともかく、この村でのクザクとヤンニ、ユメとトゥオキのやりとりは面白かった。
 クザクは尻に敷かれる感じでしたけど、ユメはいつも通りに仲良くなっていて、彼女らしい。
 このあたりの雰囲気は、この巻の癒しでしたね。

 他にも、
 ・シホルがジェシーとの会話で気付いた魔法の「鍵」のこと。
 ・シホルのユメに対する(かつては妬ましくもあった)心情。
 ・クザクがメリイの想いに気付きつつ、それを応援しようと考える過程。
 など、面白かったり興味深かったりすることが、色々とありました。

  

●ラブソングは届かない

 この巻のサブタイトル「ラブソングは届かない」。

 はじめ私は、このタイトルを目にしたとき、不吉な予感に襲われたのですよね。
 けれど10巻を読み始めて、これは死にゆく義勇兵が抱いた想いであり、それが物語に
 何か関わって来るのかな? と思わされて、不吉さは感じなくなったのですが・・・

 そこで、あの衝撃展開ですよ、参りました。
 またも激戦・苦戦の連続と、この展開は見事でしたね、息苦しかった。
 これで終わったと思いきや、さらなる試練といった繰り返しは、精神を削り取ります。

 クザクの成長を感じさせる場面には、爽快感すら覚えたものの、その後に悲劇が・・・
 ここで来るか~と、あっけなくも不意打ちだった展開に、唸らされました。

 
・ジェシーという男
 とはいえ、次巻予告で気になる言葉があり、ここから様々なことが考えられる気がします。
 カギとなるのは、ジェシーという男の特徴。

 まず、痛みを感じていない風であること。
 致命傷になりかねないほどの傷を負いつつも、平然としていた彼は、まるで生ける屍。

 さらに、魔法使いでないと自称しつつ、驚くほど強力な魔法を使えること。
 そして、ユメの師匠イツクシマや、異世界にいるウンジョーを知っているものの、
 ウンジョーについて聞かれると不可解な返答をすることなど、妙な点がたくさんあります。

 
・妄想
 ここからは完全に妄想ですが、彼は死の間際、何らかの措置によって“蘇った”者。
 ただし、人間とは程遠い存在(アンデッドに近い?)となり、かつその体には、
 これまでの“死者”たちの記憶が共有されている・・・とか?

 そこで、この巻で起きた悲劇に対処すべく、ジェシーが何かしらの措置を施すのではないか?
 プロローグでの女性の言葉と、次巻予告の言葉が一致しているのも、妄想を後押しします。
 その結果、ジェシーのような存在を生み出す可能性を考えてしまうのですが、はてさて・・・
 
 そして、このことは、ハルヒロに大きな心境の変化をもたらすのかも。
 彼は、仲間の死を何よりも恐れていましたし、もう、その心情は限界に達しようとしていて、
 それを考えるだけでも辛くなってしまいます。

 ここから、ハルヒロはソウマと同じ思惑を抱く方向へ、物語は進むのかも?
 ソウマは大切な仲間の死をきっかけに、死者を呼び戻す方法なりを探していたはず。

 まだどうなるか(死ぬかどうかは)わかりませんが、それに等しいことが起きたとして、
 ハルヒロがソウマと同じ道を歩む可能性は、ありうるのではないでしょうか。
 妄想ではありますが、今後、“暁連隊”として動く際、この一致は大きな意味を持ちそうです。

 とはいえ、次の巻で何が起きるのか、不安は大きく、予断を許さない状況。
 それを待つだけでも、けっこうキツイものがありますが、それでも、楽しみです!

 最後に付け加えるなら、メリイさんは幸せだったんじゃないかな・・・
 少なくとも、自分の気持ちには気付けていたようですし。

  


★ 『灰と幻想のグリムガル』9巻・感想  撤退戦と、それぞれの抱く想い

2016年08月27日 | ★その他

『灰と幻想のグリムガル』9巻 (著:十文字青 先生/イラスト:白井鋭利 先生)

 

 作品紹介ページ(試し読みあり)

 千の峡谷(サウザンバレー)にて、フォルガンとの戦いに身を投じたハルヒロたち。
 仲間の身に様々な出来事がありつつ、やがて戦場からの脱出を図るも、その途中、
 それぞれバラバラになってしまい・・・・・・

 といった展開になる第9巻。
 8巻で繰り広げられた戦いの行方と、その後の顛末。

 そのあたりに引き込まれるのはもちろんとしても、この巻で注目すべきは
 チーム・ハルヒロの面々、それぞれの視点と心情が描かれる点でしょうね。
 
 

 https://twitter.com/gorimuchu67/status/768603308961378304

 Twitterでも述べたように、本作の内面描写は主人公であるハルヒロを中心に書かれており、
 他の人物に関しては、たま~にしか出てこないのですよね。

 なので、この9巻で描かれる各人の心情は貴重な内容だと感じますし、さらに言えば、
 その中で多くに共通しているのは、依存からの脱却=自律をめざす想いであり、
 このことが今後のチーム全体に、大きな影響を与える気がします。

 そうした意味では、チーム・ハルヒロにとって、何かしらの前進となるエピソード
 といえるのかもしれませんね。
 
 
 
 

以下、ネタばれあります。 (未読の方はご注意ください)

 
 
 
 
 

【ネタバレ感想】
●ハルヒロの想い

 リーダーであるハルヒロの、仲間たちへの想い。

 これについては試し読みで読めますので、そちらを参照していただくとしても、
 私は、けっこう意外だと驚いてしまったのですよねえ。

 「シホルがいてくれないと、生きていけない」とか、「ユメのことは好きだ。大好きだ」とか、
 割とストレートな心情を、内心とはいえ吐露していたのは、ハルヒロにとっては珍しいことで、
 それだけ仲間たちへの想いは深いことを感じさせてくれました。

 また、別の場面でメリイに語るランタへの想い。
 「お互いに遠慮したことなかった」、それだけに「えがたい」存在だったと述べていたのは、
 犬猿の仲でありながらも、強い絆で結ばれた2人の関係を思わせますね。

 

●クザクの想い

 パーティの盾役である、クザクの考える己の脆さ。

 ハルヒロに対して、尊敬ともいえるほどの念を抱いているクザク。
 そんな彼が、ハルヒロに比べて自分は集中力を欠く場面が多いと感じている様子。

 それを、なにかと他人任せにしがちな自分の依存心のせいだと考え、是正したいと思っている
 わけですが、その背景には立派な盾役になりたいという願いがあり、ハルヒロにかけられた言葉が
 大きな支えとなっている点に、クザクのハルヒロへの想いが感じられます。

 そして、武器も盾も失った状態で独りになり、何度もくじけそうになりながらも、
 前へ踏み出そうとする姿勢を持ち続けていていたことは、彼の成長といえるでしょうね。

 

●ユメの想い

 ユメのパーティに対する想い。

 ランタの身に起きたことを、不確実ながらも知ったユメ。
 その後、ふとした拍子に涙を流すほどであったことは、意外といえば意外でしたね。

 とはいえ、それはパーティを「家族」と捉え、その一員に何か重大なことが起きた
 かもしれないことに対して湧き上がった感情ですので、ユメらしいといえばユメらしいのかも。
 それでも、事あるごとにランタを思い出していたのは、彼への想いが強いということなのでしょうね。

 また、激しい戦いの中で、マナトの言葉が支えになっていたことには、感じ入るものがありましたし、
 さらに、その戦いの“決着”のさせ方が、ユメにふさわしいものだったことは、感動的ですらありました。
 あんな“決着”、ユメにしかできませんよ。

 

●シホルの想い

 成長著しい魔法使い、シホルの想い。

 己の生き死にを、自分だけの問題だとは捉えていないシホル。
 それは、仲間を悲しませるものだから、と考えていたのは、なるほどでしたね。

 7巻で、ハルヒロに対して自己犠牲的な行動を戒めていたのも、仲間の死がどれほど衝撃的か
 知っているからこそであり、同時に、その辛さを自分が死んだときも仲間に味わわせてしまうことを
 恐れていることがよくわかります。 聡明ですよ、シホルは。

 それにしても、ツガとの関係はなかなか面白かったですね。
 男運は相変わらず悪そうですけど、ツガさんはまだマシな方かな? 呼び捨てのやりとりは楽しかったですし。
 「何も言わなくても助けてもらえるとか期待していない」シホルだからこそ、彼も力を貸した気がします。

 

●ランタの想い

 ハルヒロへの、ランタの想い。

 自分の弱さを見つめつつ、強さを渇望するランタ。
 そして、死への忌避感などを背景に、ハルヒロに複雑な想いを抱いていることが伝わってきます。
 ここでも、ハルヒロとランタ、2人の関係の特殊性が浮き彫りになっていますね。

 さらに、8巻でとった行動についても、ランタ自身の考えが語られていて、色々と納得。
 ただ、そこにハルヒロとのすれ違いがあるわけで、この落差にもどかしさを感じずにはいられません。

 また、フォルガンに安らぎを覚えてしまうランタは、自分が皆とは“違う”のでは? と考え、
 自分の居場所について思い悩むものの、その思考の落ち込みをすんでの所で支えたのが、
 モグゾーとの記憶だったことは、何かしら感慨深いものがありましたね。

 

●メリイの想い

 ハルヒロと2人きりな、メリイの想い。

 この巻で最も充実して内面が描かれたのは、メリイでしょうね。
 しかも、他のメンバーが苦境に立たされる中、1人コメディチックな内容だったのが可笑しかったり。
 いや、本人はしごくマジメなのですけどね。

 仲間に多くのことを支えてもらっていると、ハルヒロに語るメリイ。
 そして同時に、ハルヒロのことについて考えていましたけど、第一印象と現在のギャップが大きく、
 彼の成長を実感し、いつの間にか背中を追いかけるようになったとまで、思っている様子。

 けれど、追いかけるなんていやだ、せめて横に並びたい、隣を歩きたいと考えるメリイ。
 そのために自分は変わらなければ、という想いを抱いていたのは印象的でした。

 後半、隣じゃなくていい、後ろでいいから居場所がほしいと、心情が変化しているのは、
 ハルヒロの活躍を目の前にして、自分との差を感じたからこそだと感じます。
 これがいつか、再び「隣」に意識を向ける日が来ることを、私は期待したいですね。

 それにしてもメリイさん、かわいいもの好きであることは、これまでの描写から察してましたけど、
 ニャアを目の前にして、ハルヒロの話を聞き流してしまうほどとは・・・完全に意識奪われてます。
 撫でたいとか、抱っこしたいとか、言い出せずにチャンスを逸してしまう所は、愉快でしたねえ。

 あと、名前の呼び方を考える所。
 そんなこと考えてたの・・・と、半ば驚きつつ、笑っちゃいましたよ! 本人マジメなだけに!

 
 
●メリイのハルヒロに対する想い

 思わぬ伏兵を前に、浮き彫りとなるメリイさんの心情。

 ある条件により、ハルヒロが協力を得ていたセトラさん。
 彼女が再びハルヒロの前に現れ、とんでもないことを言い出していたのは面白かった。

 このことは、メリイのハルヒロに対する感情を刺激する結果になっていて、興味深い所でしたよ。
 これまで、ハルヒロのメリイへの心情は語られてきたものの、メリイがハルヒロをどう思っているか
 については、今一つ謎のままでした。

 ハルヒロにとってよき相談相手となったり、ミモリンの彼へのアプローチに棒読みで祝福したり、
 ハルヒロの捨て身な行動を「減点」で評価したりと、そこそこプラスの感情を抱いていることは
 わかっていたのですが、では、実際にどう思っているのかは、ずっと気になっていました。

 それが、この巻で少しずつわかってきたのは、重畳。
 はっきり言ってしまえば、恋愛感情は抱いていない・・・と本人は思っているようですけども、
 所々で「ん?」と感じさせる要素が、ちらほらありましたね。

 それもこれも、セトラさんの存在があるためで、彼女の登場は、2人の関係に大きな影響をもたらしそう。
 私としては、ヒロインの嫉妬は大好物ですので、セトラさん、もっとやっちゃってくださいと、
 お願いしたいくらいです(ォィ

 真面目な話、セトラとある人物が似ていることに気付いたり、ハルヒロとの関係について尋ねられ動揺したり、
 子づくりの話題に過剰に反応したり、何やら胸が苦しかったり、彼の活躍をかっこいいと思ったりと、
 メリイのハルヒロに対する、無自覚ながらも特別な感情が感じられたことは、大きいですよ。

 あと、パーティ内恋愛禁止だとか、ハルヒロとセトラの関係にちょっと投げやりになる所とか、
 何となくメリイって、ハルヒロに思考が似てますよね・・・ 似た者夫婦ですな(ぇ

 
 
●その他

 “颱風”ロックスや、ジャンボのことなど、語りたいことは色々ありますけども、
 とくに気になったのは、ユメやランタと、フォルガンのことでしょうか。

 ランタは、フォルガンに安らぎを覚えるほど、何かしら入れ込んでいる様子でしたが、
 ユメもまた、他の面々とは異なるアプローチをフォルガンにしていて、この2人はフォルガンとの繋がりを
 作れる可能性を感じさせてくれた気がします。

 ただ、ランタがああいうことになってしまったため、今後どうなるかは未知の領域でしょうね。
 異文化交流の礎になりそうな気配はあったのですが、どうなることか・・・

 さて、これにて8巻から続いて来た戦いは、ひとまず幕となったわけですが、
 ここから帰還の話になってゆくのでしょうか? はたまた、何か別の問題が湧き上がってくるのか?
 いずれにせよ、次の巻も楽しみです! 待ち遠しい!
 
 


★ 最近読んだラノベとか色々

2012年09月26日 | ★その他

最近(と言っても、発売がずいぶん以前の作品もありますが)、

読んだライトノベルなどの1巻(?)・単巻作品などなど・・・

 

 

 

『冴えない彼女の育て方』 (丸戸史明 先生/イラスト:深崎暮人 先生

 Saenai_heroine_no_sodatekata_2

 「ある春の日に、俺は、運命と出逢った・・・・・・」 (29ページより)

 ギャルゲー大好きオタク少年による、地味な少女プロデュース物語!?

 安芸倫也が坂道で出逢った少女・加藤恵。

 彼女に惹かれるモノを感じた倫也だったが、ある日再会を果たすも・・・

 と始まるヒロイン育成コメディ!

 

 オタク少年が何らかのインスピレーションを得た少女に対し、

 「ギャルゲーのメインヒロインにならないか?」と誘いをかけて企画をたて、

 少女をヒロインにふさわしい女性に仕立て上げてゆこうとするお話なわけですが、

 この少女・加藤さんが印象に残らない目立たない系の女子で、

 倫也くんとの会話も、ギャルゲーとは程遠い、手ごたえの感じられないもの。

 まずは彼女をやる気にさせ、さらにビジュアル・シナリオ各担当の人材をそろえねば・・・と、

 てんやわんやな物語が幕を開けることになります。

 

 主人公・倫也くんをとりまくヒロインは3名。

 加藤恵さんのほかに、表紙をかざる学園の人気者である澤村・スペンサー・英梨々さんや、

 倫也たちの上級生にあたる超優等生の霞ヶ岡詩羽さんと、魅力的?ながらも

 ひとくせある少女たちのやりとりが、作品を面白おかしく彩っています。

 キャラクターという点で華やかな魅力があるのは、間違いなく英梨々や詩羽なのですが、

 恵の個性は、ほかではちょっと見られないような造形で、単純な地味系ではなく、

 このあたり、かなり特異な魅力を私は感じてしまいましたよ。

 

 本作品は、丸戸先生が作者ということで、とても楽しみにしておりました。

 私は『世界でいちばんNGな恋』『FOLKLORE JAM』(注:18歳未満は検索禁止!)

 などをプレイして、ひじょーに楽しませていただきましたもので、この作品にも期待大。

 無個性的な加藤さんと、個性の塊のような2人の少女。

 彼女たちに囲まれた倫也くんの行く末やいかに?

 はたして、ヒロイン・プロデュースは成功するのか? 今後が楽しみです!

 

 

 

『南極点のピアピア動画』 (野尻抱介 先生)

 Nankyokuten_no_piapia_douga

 「ネットと宇宙の清く正しい未来。5年ぶりのまぎれもない最新刊」 (オビ文より)

 ネット上のピアピア動画、ボーカロイド・小隅レイ。

 それらの要素を片隅に置いて、恋人が去った大学院生の宇宙への夢や、

 コンビニで働く女性とそこを訪れた男性の蜘蛛をめぐるお話、そして潜水艦とクジラ・・・

 様々な場所の様々な人々の物語が、ピアピア動画・小隅レイを軸に展開し、

 やがて大きな流れとなってゆく4編の連作集です。

 

 私としては傑作と言ってよいほどの作品でした!

 ただ一言、「すごい場所に連れて行ってもらった」。

 ネタバレなしで読んでいただきたい1作。

 無邪気に夢を描いたような物語。 本当に素晴らしかったです!

 

 

 

『ふわふわの泉』 (野尻抱介 先生)

 Fuwafuwa_no_izumi

 「ふわふわが人を自由にしてくれる、と思った。」 (105ページより)

 高校化学部の部室から始まる物語は、ふわふわをめぐり、やがて空を越えてゆくことに・・・

 「努力しないで生きること」をモットーとする化学部部長・浅倉泉。

 彼女ともう1人の部員・保科昶とが、ある実験をおこなっていたところ、

 雷が学校に落ちてしまい実験は失敗・・・と思いきや、そこには謎の物質が!?

 

 2人はこの「ふわふわ」と名付けた物質を用いて、

 正当な報酬を得るべく立ち回ることになります。 そう、努力しないで生きるために!

 しかしその願いむなしく、ふわふわをめぐる騒動は、泉にさらなる忙しさをもたらすことに。

 実務を一手に引き受ける昶くんの支えがありつつ、彼女たちの行く先にはいったい何が・・・

 

 といった内容なのですが、ある種のサクセスストーリーとしてエンタテインメントしつつ、

 自由というテーマを根底に、人と科学の往く道を指し示すような真摯さも感じられて、

 なかなか楽しく興味深く読める作品となっています。

 また、本作は復刊作品でありまして、あとがきでも指摘されているように

 『南極点のピアピア動画』との類似点もなどもあるので、そちらを楽しめた方ならば、

 感じるものもあるのではないでしょうか・・・

 

 

 

『恥知らずのパープルヘイズ ―ジョジョの奇妙な冒険より―』

 (上遠野浩平 先生  原作:荒木飛呂彦 先生)

 Purple_haze_feedback

 「これは、一歩を踏み出すことができない者たちの物語――。」 (オビ文より)

 『ジョジョの奇妙な冒険』第5部の登場人物、パンナコッタ・フーゴを主人公とする作品。

 “裏切り者”であり、“恥知らず”でもあるフーゴに組織から使命が与えられる。

 彼にあらがうすべはなく、その使命を遂行するため、仲間と共に旅立つことに・・・

 

 と物語は始まるわけですが、これが見事に「JOJO」していることに驚きました。

 正直、小説というカタチでここまで原作の雰囲気を再現しているのは、スゴイの一言。

 登場人物のセリフ、行動、そして意志。 すべてがまさに「JOJO」なのです。

 そして何よりも、原作第5部で“置き去りにされた”設定であったフーゴのキャラクターを、

 このように物語に入り込ませ、ある種の救済を与えている点に、

 私は感動を覚えずにはいられませんでした。 きわめて適切に収まっているんですよ。

 

 仲間や敵のスタンド能力を駆使したバトル。

 使命の裏にある狙い、たくらみ。

 そして、登場人物たちの先へと踏み出せない苦悩と、魂の奔流。

 あらゆる点で、素晴らしい物語となっていることに感服でありました。

 

 

この他にも、「バッカーノ!」新作や、「ビブリア古書堂」なども読んでいます。

また、「RED DRAGON」第1夜もあったのですが、読み途中なもので・・・(こちらで読めます