「お気に入り」1巻作品です。
共和政ローマ時代、2人の名将を描く物語。
『アド・アストラ -スキピオとハンニバル-』1巻 (カガノミハチ 先生)
「それは弱者に残された最後の武器・・・ 持たざる者の狂気だ あはっ」 (本編P.41より)
紀元前3世紀、共和政ローマの躍進が目立った時代。
彼らの台頭は、勝者の誇りに満ちるとともに驕りをもたらし、そのことが“怪物”を生み出す。
シチリア島北西部・アエガテス諸島沖の海戦にて、カルタゴ軍を破ったローマ軍は、
西地中海の制海権を手に入れ、その後さらなる島の割譲により、屈辱的な講和を強いる。
その講和の席にいた1人の子供。
彼こそ、のちにローマを苦しめることになる“怪物”、ハンニバルその人なのであった・・・
スキピオとハンニバル、物語はこの2人の“天才”を軸に進みます。
そしてどちらかといえば、ローマの若き貴族であるスキピオの方が主人公ポジション。
平民出身の友人・ガイウスと賭けをして遊んだり、その自由気ままな明るさがローマ的。
人としての温かみを感じられない“怪物”ハンニバルとは対照的な人物像です。
ただ、彼は「常識にとらわれる」ことを何よりも嫌っているらしく、
そのことがからむと普段の明るさが影をひそめてしまうという性格。
このあたり、背景に何があるのかということも注目でしょうね。
しかし軍事においては、カルタゴ軍の指揮を執り、
巧みな用兵でローマをかく乱することになるハンニバルの凄味が、
まずは圧倒的に描かれることになるので、ハンニバル視点で物語に入るのも悪くない。
というのも、敗者の立場であったカルタゴが「持たざる者の狂気」に突き動かされる状況は、
抑圧された感覚の解放にもつながる、やや危険な爽快感になっていたりもするからです。
ローマという「持つ者」と、カルタゴという「持たざる者」との戦いは、
そうした構造でも楽しませてくれそうな予感がします。
そして、やはり見どころは会戦シーン!
有名なアルプス越えにてローマ領内へ侵攻するハンニバル軍を、
スキピオの父を指揮官としたローマ軍が迎えうつことに・・・
ハンニバルといえば卓越した戦術眼で戦場を支配した“軍事の天才”。
そのため、軍がどう動き対処したかということをきちんと描いている様子が、かなり好感触。
当時ローマと険悪ながらも、従う者・従わぬ者に分かれていたガリア人などが、
わかりやすく劇中に登場しているのもポイント高くて、かなり楽しめました。
歴史を知っていれば、共和政ローマにおける「ポエニ戦役」は有名なので、
この物語の先行きも承知している読者が多い作品かと思います。
ゆえに、キャラクターや戦闘シーンの描き方が、本作品のキモとなるでしょうね。
あとは史実と虚構のバランスをどれだけ絶妙に取れるかによって、
歴史好きをもうならせる作品になる可能性もありそうです。
何よりも題材としているポエニ戦役は、興味深いもの。
私はハンニバルが「天才系」、スキピオはハンニバルの跡を追った「秀才系」という
イメージでとらえているので、そのあたりがどう描かれるのか・・・楽しみです!