『蒼き鋼のアルペジオ』作者であるArk performance先生(以下Ark先生)による作品です。
正確なタイトルは、『機動戦士ガンダム 光芒のア・バオア・クー』であり、
原作:富野由悠季先生、原案:矢立肇先生となっております。
Ark先生の作品には、これ以前にも『ギレン暗殺計画』(全4巻)がありまして、
こちらがかなり私好みだったこともあり、今回の新作2つを購読するに至りました。
もう1つの新作は、『ジョニー・ライデンの帰還』1巻です。
これら3作品には、「ギレン」~「ア・バオア・クー」~「ジョニー・ライデン」という連なりがあり、
この順番で読まれると、いっそう楽しめるのかと思われます。
また私は現在、安彦良和先生による『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を購読中ですが、
さほど「ガンダム」に詳しい人間ではありません。
そのあたり、無知をさらけ出すことになるかもしれませんが、ご容赦いただければ幸いです。
【あらすじ】
『機動戦士ガンダム』における地球連邦軍とジオン軍の最終決戦ア・バオア・クーの攻防を、
さまざまな場所、さまざまな人物の視点から見るオムニバス・ドキュメント形式の作品。
テレビ番組のインタビューを受けるかつての兵士やエンジニアたち。
その証言によって、「ア・バオア・クーの戦い」で何が起き、どのようなことが行われていたか、
多面的な角度から、その輪郭が浮き彫りになってゆきます。
要塞司令部で起きた大事件を目撃してしまった兵士。
激しい戦闘のさなか、“恐怖の対象”に遭遇してしまった学徒兵。
また、戦場にて希望を見る衛生兵や、“幻獣”たちの戦いに魅せられた連邦士官といった
無名の個人たちによってつむがれる「歴史」の記録であり物語です。
【感想】
まず、私がこの作品に感じた魅力は、ドキュメンタリー風に描かれるストーリーです。
ジオン公国軍の学徒兵だった人物が、インタビューを受けているシーン。
ほぼ全編こうした形式で物語は進み、多彩な人物の回想によって語られる戦場での立場や、
そこで彼らが経験した出来事などが描かれています。
この描かれ方が、何と言うかある種の臨場感のようなものを感じさせてくれて、
それが「ガンダム」世界へと、次第次第に引き込まれてゆく気分にさせてくれるのが面白い!
そこで語られていることが、まるで「歴史」の1ページのような、そんな雰囲気。
「ガンダム」を知らずとも、戦場で生きる人々の姿がしっかり感じられる物語となっています。
・見事な演出と表現
インタビューにて、MS(モビルスーツ)立体音響システムについて語るコルバド・ストルツ氏。
このシーンで私が感じた面白さは、
1.彼が搭乗していたのが「ゲルググ」という当時最新鋭の機体であるということ。
2.音響システムの良さを語るのに、胸をたたいて表現しているところ。
3.「話が脇道にそれた」と、タバコの灰を落としながら語っているところです。
まず「ガンダム」を知っている人間ならば、「ゲルググ」がどのような機体であるかを
ほぼわかっており、ゆえに「そうそう、ゲルググって良い機体なんだよ~」とか得意気分で
読み進めたりできるのが面白いのです。(ちなみに私はゲルググ・スキー)
しかも「音響システムの音が良い」なんて、細かい所で最新鋭っぷりを見せつけてくれるのが
何ともニクイじゃありませんか~!
そして、その「音が良い」ことを胸をたたいて表現しているストルツ氏。
これが読者にも「どのように音の質が良いのか」を感じさせてくれる見事な表現。
思わず自分の胸をうって体感してみたり・・・しませんでしたか? 私はしました(私だけ??)
さらに、タバコの灰を落としながら「話が脇道にそれた」ことを語っているのも
ドキュメンタリーっぽいといいますか、いかにもインタビューだなと感じさせる演出であります。
何と言うか、「会話の流れ」をイメージさせてくれる印象。
これだけの要素つめこんだこのシーン、私はかなり好きですね~。
このように、しっかりした表現・演出で描かれたシーンがあちこちで見られるので、
飽きずに楽しく読み進めることができます。 少なくとも、私はそうでした。
これは、Ark先生の描写レベルが高いことの証とも言えるかもしれません。
ちなみにストルツ氏の話からは、ゲルググという最新鋭の機体を与えられることの意味や、
新兵はザクなどを与えられる方が評価が高い証拠であるといった、ちょっとだけ興味深い
ジオン軍事情も知ることができて面白いです。
・印象深いエピソード
また、とくに印象深いエピソードだったのは、もと衛生兵をしていた人物の話。
「第67医療大隊・第4中隊」所属と語るオラース・エーメ氏。
このどこどこ所属という表明も、その世界を身近に感じさせてくれる要素になっています。
彼の仕事は衛生兵。
軍隊において医療関係の業務に従事するサポート要員であり、その役目は重要。
このエピソードでは、そうした立場での活躍が描かれています。
「資料映像」として描かれている1コマ。
これもまたドキュメンタリーっぽい上に、現場で使用されている新型の医療パックが、
なんとも「ありそう」な光景に見えてよい感じです。
このエピソードは、負傷した兵士を助ける衛生兵の職務の内容や、
そうした中で「あきらめねばならない命」があることに対する葛藤、
そして遺品の整理・死亡の記録といった作業への想いなど、
戦場での命を感じさせてくれる物語となっており、そんなところに
私は感じ入るものがありました。
連邦軍兵士を救うジオン軍の衛生兵たち。
これも感動的と言えば感動的ではあるのですが、エーメ氏は
「敵軍の負傷者に手を差し伸べる」のを友軍有利ゆえの心理的余裕と語るなど、
戦場でのリアリズムを感じさせる受け答え。
この後、エーメ氏の部隊は撤退を開始するのですが、ここでの進行がまさに「現場」を
感じさせる見事なもので、私はすっかり引き込まれてしまいましたよ。
さらにそこからエーメ氏は、ある「歴史的」出来事を目撃し、そのことによって危険な状況に
陥ることとなるのですが、このとき起こるある種の奇跡、戦場での希望を見出せるシーンは、
なかなかに感動的だったりもします。
回想するエーメ氏が淡々と、しかし思い出深げに語るところも、またよいのです。
また、本作品のラストでは歴史の闇をかいま見るような、思わず「むうっ!」と
うならされるようなシーンがありまして、なかなかに読みごたえがありました。
このように、ひとつの戦場における様々な人々、特別な地位にあるわけでも
エース級であるわけでもない名もなき個人たちが、戦い生きた軌跡を描いた本作品。
これは、まさにひとつの物語が「歴史」となる、そんな素晴らしい作品となっているように
私は感じました。
「ガンダム」を知らずとも、フィクションながら「戦場における個人」を描いた作品として
一読できる秀作でありますので、興味のある方はぜひ手に取られればと思います。
また、本来であれば『ジョニー・ライデンの帰還』1巻の感想も書きたかったのですが、
こちらの作品は、ややネタばれしながらでないと感想が書きにくいと感じたため、
今回は見送らせていただきました。
しかしながら、面白い作品であることに違いはなく、今後が楽しみな作品であります!