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迫真の警察小説

2016-01-22 04:52:19 | 


横山秀夫「64(ロクヨン)」上・下 2012年文藝春秋社刊

ハワイへゆく行き帰りの飛行機と、時差ボケで眠れない夜,結構本が読めた。その上下2冊である。

湾岸署シリーズや「相棒」など、最近多い警察署内部の対立を描いた作品。しかしこの作品を際立たせているのは、捜査現場対管理部門という図式だけでなく、主人公を地方警察広報官という立場に立たせて、苦悩させるというところにある。警務部門対刑事部門、地方対中央、キャリア対叩き上げ、マスコミ記者クラブ対広報部門、と数々の対立軸が交差する。

その上、匿名問題で記者クラブと揉めているところへ、過去の誘拐事件の現場を、警察庁長官が視察に来ることになる。記者クラブからと刑事部から共に猛反発を食らい広報官は孤立する。自身の娘の失踪事案も抱える主人公は上司に当たる警務部長と対立しながらも妥協をしなければならない苦しい立場に立っている。

こうした数々の軋轢をかいくぐりながら、幾つかの対立を解決すべく広報官として奮闘する。この著者の真骨頂は事件の謎解きというより、会話の中に潜むピースをつなぎあわせて、事件像を際立たせてゆく心理描写にある。警察現場ではこんなことが行われてゆくのかと震撼する場面が続く。数々の登場人物の描写、キャラクターの設定、は見事である。あまり現実味をなくすほど、俗な行動や真理でないところが見事だ。警察現場に一歩踏み込んだ描写である。きめ細かな警察小説といって良い。

ただこのきめ細かなところが、逆に読む方に緊張感を与えすぎて複雑感を与えるところが難と言えば難か。
いずれにしても第一級といえる警察小説である。面白かった。


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