NHKスペシャル取材班「老後破産 長寿という悪夢」新潮社2015年刊
NHKが番組編成のために行った現場のレポートを単行本にまとめたものである。これを読む限り家族社会、中流社会、老人福祉というのはもはや夢物語だと感ぜられる。
ルポをしている老人は一ヶ月3万円の生活費、月末には一束100円の冷や麦もなくなり、一日一食になることも多いという。それでも生活保護を進んで受けようとせず、必死に自力で生きてゆこうとしている。
力いっぱい働いてきて、穏やかな老後を過ごしたいと願うのは無理なことなのか。核家族化、少子化などがもたらす老人の孤独、生活の貧窮化は制度的に救わねばやがて不満が蓄積していくだろう。
誰からの援助も受けず、また受けようともせず、僅かな年金と蓄えでギリギリの極貧生活を営む老人が、病気になったら、その途端破綻が始まる。それが解っているので、病院にも行かない。こんな人達が急増しているという。
医療費、教育費は無料化を目指さないとこの破綻者は再生産される。この人たちは明日の希望がないまま毎日、毎月貧困と戦っている。戦慄すべき事態である。
制度として救わねばもうどうしようもない。アベノミクスはこういうところには全く届かない。こういうところにこそ政治はライトを当て救わねばならない。官僚、政治家の利権漁り、公私混同など、探せば財源はあるはずだ。声を上げない、我慢強い人たちにも限界はある。富の再分配をするのが政治の一つの機能だと思うのだが、現在の政治は格差をますます広げているように見えるのは、その機能を果たしていないといえる。
日本の現状を直視する鋭い問題提起の書である。