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震災体験記?

2015-12-15 00:56:16 | 


乃南アサ「いちばん長い夜に」新潮文庫

流石に安定感がある作者だ。女刑事音無◯◯シリーズや、交番勤務の若い巡査主人公の小説を手がけ、その語り口の自然さには定評がある。

今回は同じような舞台で、主人公は刑務所で知り合った二人の女性受刑者。二人共ほぼ同じ時期に刑期を務め上げ、この街で勤め口を見つけ、過去を悟られぬようにお互いに助けあってひっそりと生きている。

一人はパン屋の見習い、一人はペット屋でアルバイトをしがてらペットの洋服を仕立てるという仕事を見つけ、ほそぼそと生活を軌道に載せつつある。その年上のパン屋の見習い女性に、なんとか役に立ちたくてその子供の消息を調べに仙台に赴く。そこで大震災に遭遇する。物語の後半はほぼこの震災に関することに費やされる。

そこからの記述が実に迫力がある。臨時避難先のホテル、そこで偶然知り合った男性とタクシーを乗り継いで東京へ。そこで今まで触れずにいた自分の過去を彼に告白する。そこから物語は急展開を見せるのだが、なぜ震災経験が迫真の描写かというのは、著者の実体験だったからである。

この部分だけでも十分読みではある。繊細かつ深く感じるところがあったのだろう。著者の作家としての感性が十分に生かされている。物語の転換点としての機能も十分果たしている。読み物としても十分面白い。