自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆トランプ現象と白人層の閉塞感

2016年11月08日 | ⇒トレンド探査

   きょう(8日)からアメリカの大統領選挙の投開票が始まる。大統領選をめぐっては、民主党のクリントン氏、。共和党のトランプ氏の両候補の直接討論などを、日本のメディアもこれまでになく熱心に取り上げてきた。テレビでその様子を見ると、「大統領に不適格」「犯罪者」と非難し合う場面が多々あり、嫌悪感を感じた。日本でこんな選挙討論が放映されれば、おそらくテレビ局に視聴者からの苦情が殺到するだろう。「もっとまじめに政策論争をやれ」と。

   それにしても、FBI(連邦捜査局)に高度な政治判断があったのだろうか。6日という間際になって、FBIはクリントン氏の私用メールに再度問題ありとしていたが、一転して訴追しないと表明した。そのとたんに、トランプ氏の選挙勝利の可能性が薄まり、アメリカでも日本でもメール問題で下がり続けていた株式市場が値を戻した。これも不思議な話だ。当選すれば、株式市場を大混乱させるであろう人物を候補者に押し上げたことだ。「偉大なアメリカ」を選挙公約に掲げているのだから、株価が上がるような強い経済政策を打ち出すべきだろう。

   日本のメディアの現地アメリカに乗り込んで、大統領選挙の直前の様子を伝えている。その中でキーワードが一つ浮かんでいる。「ポリティカル・コレクトネス(political correctness)」だ。政治的、社会的に公正・公平・中立的という概念だが、広意義に「差別的な表現をなくそう」という意味合いで使われ、職業、性別、文化、宗教、人種、民族、障がい、年齢、婚姻をなどさまざまな言葉の表現から差別をなくすことがアメリカでは広く認識されている。

   これはアメリカが歴史の中で磨き上げてきた美徳だろう。奴隷の解放戦争(南北戦争、1861-65年)までやった差別との戦いの成果だ。ところが、最近になって、こうした広義のポリティカル・コレクトネスにいささか嫌気や戸惑いを覚えるが人たちが白人層に出てきた。言葉を発するにも周囲に気遣いしながら、さらに差別的な意味の発言が少しでもあると「ポリティカル・コレクトネスに欠いている」と裁判に訴えられる。白人層はある意味でポリティカル・コレクトネスに気遣いし過ぎて、閉塞感を覚えているのかもしれない。これは、トランプ支持層と言われる白人の貧困層だけでなく、「隠れトランプ支持層」と称される一部白人の中間層、富裕層にしてもしかりだ。

   そこで、トランプ氏が「メキシコとの国境に壁を築く」「イスラム教徒は入国させない」などの暴言を吐くと、白人層の一部ではスッキリする、そんな現状がアメリカを覆っている。アメリカの政治状況が衆愚化したとか、知性が劣化したという表面だけで論じることができない。心の深層にあった、ある種の「わだかり」が噴き出してきた、そんな状況ではないか。うまく表現はできない。

   ポリティカル・コレクトネスはさらに広がっている。すべてのマイノリティにだ。マジョリティを自負する白人層の寛容さが限界に来ている。これが「トランプ現象」ではないだろうか。

⇒8日(火)朝・金沢の天気   くもり


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ★今そこにある隣国の危機 | トップ | ★千載一遇のチャンス »

コメントを投稿

⇒トレンド探査」カテゴリの最新記事