自在コラム

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2006年03月02日 | ⇒メディア時評
 新聞記事には絶妙のタイミングというものがあり、時としてブラックユーモアだったり時代を見通していたりする。紙面の編集者と広告の担当者はそれぞれ違うので意識はしていないだろうが、読者にはそれが分かる。その紙面とは2日付の日経新聞11面で展開された記事と広告のことである。

 その11面のトップ。「NTT、光回線シフト加速、累計契約数1.7倍に」の記事だ。NTT東西地域会社は06年度の事業計画で光ファイバー通信回線の販売を強化し、これまでの1.7倍にあたる617万回線、中期経営戦略では2010年までに3000万回線を販売するとしている。なぜ「2010年3000万回線」か。それは、2011年7月で地上波のアナログ放送が終了する。あわせて、現在作業が進んでいるIPマルチキャスト放送に対する「著作権の緩和」をセットで考えるとよく見える。

 このニュースの理解のポイントはマルチキャストの言葉の意味だ。ブロードキャストだと受信が誰でも可能となる。ユニキャストだと特定個人が対象だ。マルチキャストはその中間、つまり契約した多数に同時に送信するものだ。いまなぜこのIPマルチキャスト放送の著作権問題が出ているのかというと、地上デジタル放送はことし中に各ローカル局が対応するので全国でデジタル放送網が出来上がる。しかし、電波の届きにくい山間地などへはブロードバンドのインターネットを使って放送を流す計画(総務省案)だ。この際にネックとなるのが、インターネットを使った放送の著作権上での扱い。従来、文化庁はこのネット経由の放送を「自動公衆送信」と呼んで現在の有線放送(CATV)と区別してきたが、それを有線放送と同じ扱いしようというのが「著作権の緩和」の狙いだ。

 結論を急げば、2010年には3000万の契約世帯を持った巨大なIPマルチキャスト放送網、つまり「光有線放送網」が出来上がる可能性があるということだ。北海道にいながら、沖縄のローカル放送局の番組が視聴できる。そんな壮大なプランなのである。

 その記事の下、同じく11面で経済誌「財界展望」(4月号)の広告が掲載されている。「NTT゛放送進出゛で『民放TV局』が全滅する」といささかショキングな見出しがついてる。同誌の中身を読んではいないが、NTTが光有線放送網を確立すれば放送インフラはNTTの手に落ちる。「全滅」は大げさな言い方にしても、そのような意味だろう。ともあれ、記事と広告がこれほどマッチした紙面はない。

 この11面を読んで、ほくそ笑んだのは「財界展望」、苦笑いしたのはNTTだろう。そして、居心地の悪い思いをしたのは民放テレビ局、苦虫を噛み潰す思いで記事を読んだのはCATV会社、そしてADSLで「ヤフーBB」を手がけるソフトバンクかもしれない。

⇒2日(木)夜・金沢の天気  ゆき

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1 コメント

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Unknown (けん)
2006-03-08 13:18:25
『財界展望』が水道水の中にはノロウイルスがいることを、連載してたけど

やっぱ、本当のようだ。

http://www.zaiten.co.jp/mag/0604/index.html



3月3日 にNHKが午後7時のニュースで「全国で初めて東京都が水道水のノロウイルス調査を行うことを報道。



翌日、朝日新聞も下記のように報道した。

水道水のノロウイルス調査へ 東京都が来年度から

2006年03月04日10時07分

 冬の「おなかのかぜ」の主犯格とされるノロウイルス。水道水に含まれていないかの実態調査に東京都水道局が来年度から乗り出す。ウイルス対象の上水道の調査は、全国的にも珍しい。

 大腸菌や重金属の監視をしている水質センター(東京都文京区)が、川から取った水や、浄水場での各処理段階での水について、ウイルスの有無や濃度を調べる。検査技術習得などを経て、年内には数カ所の浄水場で検査を始める予定だ。



 ノロウイルスは、下痢や嘔吐(おうと)などを伴う感染性胃腸炎を起こす。加熱が不十分な食品などが原因と考えられているが、人の腸内で増え、便などを介して海へ流れ、カキなど貝類に蓄積されることもわかっており、川から浄水場にまぎれ込む可能性が否定できない。





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