自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★甲府「特定少年」事件 「実名報道はしません」

2022年04月09日 | ⇒メディア時評

   この4月から施行された改正少年法では、事件当時18歳と19歳の「特定少年」が正式に起訴された場合、検察は実名を公表し、新聞・テレビなどメディアも実名報道が可能となる。ただ、日本新聞協会は少年保護を重視する法の趣旨を踏まえ、一部の場合を除き実名報道はすべきでないとの基本的な考え方は維持しており、実名報道は「各社の判断で行う」としている(2月16日付・公式ホームページ)。特定少年の実名公表の初めての事例がきのう8日、甲府地検であった。メディア各社の実名報道について対応が分かれた。

   まず事件が概要を。去年10月、甲府市の住宅で50代の夫婦がナイフで殺害され住宅が放火された。定時制の高校に通っていた19歳の少年が逮捕された。夫婦の長女と面識があり逮捕後の調べに対し「好意があったが思いどおりにならず、本人やその家族を殺害するつもりだった」などと供述した。3月、少年は家裁に送られたが、「凶器を計画的に準備し証拠を隠滅するために放火した。資質や成育過程の問題が影響を及ぼした可能性もあるが反省や謝罪の態度は見られず結果は重大で、刑事処分が相当だ」として検察に逆送された。甲府地検は、精神鑑定など行い、刑事責任を問えると判断して起訴し実名を公表した(8日付・NHKニュースWeb版)。

   けさ朝刊各紙をチェックしたが=写真=、実名報道をしていなかったのは北陸中日新聞のみだった。同系の中日新聞、東京新聞も同じだろう。その理由について、「本紙は匿名報道を続けます」の2段見出しで記載している。「中日新聞社は、事件や事故の報道で実名報道を原則としていますが、二十歳未満については健全育成を目的とした少年法の理念を尊重し、死刑が確定した後も匿名で報道してきました。少年法の改正後もこの考えを原則維持します。社会への影響が特に重大な事案については、例外的に実名での報道を検討することとし、事件の重大性や社会的影響などを慎重に判断していきます」

   一方、実名報道をした朝日新聞は「おことわり」として「改正少年法を受け、本社は甲府市で2021年に起きた放火殺人事件について、事件の重大性などを考慮し、起訴された少年を実名で報じます」としている。読売新聞も「おことわり」として、「読売新聞はこの事件について、これまで容疑者を匿名で報道してきましたが、2人の命が失われた事件の重大性や社会的影響などを検討した結果、実名で報じることが適切と判断しました」と記載している。各紙も事件の重大性を考慮して実名報道を判断したとしている。

  さらに、顔写真を掲載したのは産経新聞と北國新聞の2社。「公共の利益にかない、国民の『知る権利』に答えるものと判断した」(産経)、「実名で報じる必要性があると判断しました」と述べている。

   テレビメディアではNHKほか民放も実名での報道を行っている。ただ、顔写真を使うかどうかの判断は分かれている。NHK岐阜放送局のニュースをチェックすると顔写真は使っていないが、日本テレビ系列のNNNニュースでは顔写真を入れている報道している。判決が出たときは新聞・テレビの各社は顔写真を使うのだろうか。

   世論は実名報道に賛成が多い。共同通信Web版(3月20日付)によると、18歳以上を対象としたインターネット意識調査で、実名報道について「賛成」50%、「どちらかといえば賛成」30%を合わせ賛成は89%に上った。賛成理由は「民法上成人であり、大人と同じ扱いをするべきだ」が49%と最多だった。それにしても、中日新聞にこだわりの強さを感じる。

⇒9日(土)午前・金沢の天気      はれ


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