自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★佐渡とグアムの島旅1

2011年09月15日 | ⇒ドキュメント回廊

 きょう(15日)、新潟県佐渡市に渡った。波も穏やかで、新潟港からのジェットホイル(高速旅客船)は滑るように走った。この船は、船外から大量の水をポンプで吸い込み、高圧で水をジェット噴射して進む。時速計を見るとおよそ80㌔で走行している。滑るような感覚は、海面より浮上して航行するので、波で揺れないということらしい。船酔しやすい体質の自分にとっては快適だった。船旅は60分余り。12時30分すぎに、佐渡・両津港に着岸した。快晴、気温は30度。島に来たという、ある種の爽快感があった。引き続き17日から家人とともにグアムを旅する。グアムも島。この2つの島めぐりを「佐渡とグアムの島旅」と題して、紀行で見たこと聞いたことを記したい。

          ~ 佐渡で見た天然杉の凄み ~

 佐渡行きは、新潟大学「朱鷺の島環境再生リーダー養成ユニット」の特任助教、O氏から講義を依頼され引き受けた。同大学は佐渡に拠点を構え、社会人を対象とした人材養成にチカラを入れている。同大学にはトキの野生復帰で培った自然再生の研究と技術の蓄積があり、これを社会人教育向けにカリキュラム化し、地域で生物多様性関連の業務に従事する人材を育てることで、地元に役立ちたいと願っている。金沢大学が能登半島の先端・珠洲市を拠点に実施している「能登里山マイスター」養成プログラムと同じ文部科学省の予算(科学技術戦略推進費)なので、「兄弟プロジェクト」のようなもの。お願いされたら断れない…。

 そんな内輪の話はさておき、講義が始まる15時30分までは時間がある。O氏が気を利かせてくれて、大佐渡山脈の「石名の天然杉」に案内してくれた。大佐渡には金北山(1172㍍)や妙見山など1000㍍級の山があり、「天然杉の宝庫」とも言われる。O氏の解説で1時間ほど山歩きを楽しんだ。江戸時代に金山で栄え、幕府直轄の天領だった佐渡は、金山で精錬に使う薪炭を確保するため、山林も幕府が管理していた。明治に入って県が買い取って多くの山林が県有林となった。今回めぐった石名の天然杉の遊歩道はその中の一部。気温は低く風が強いという環境のため、建築材に適さなかった杉が切り出されることなくそのまま残っている

 標高は900㍍付近なのでもうすっかり秋の様相になっている。海辺で聞こえていたセミの鳴き声も聞こえず、辺りは静寂だった。今年5月に開通したという遊歩道を歩くと、「四天王杉」と呼ばれる巨木=写真・上=がひと際目立ち、風格を漂わせている。枝は下に向いて生え出し、幹も1本なのか4本なのかよくわからないほどに束なっている姿には、日本海の風雪に耐えて威勢を張る、ある種の凄みがある。幹周り12.6㍍、樹高は21㍍。7階建てのビルくらいの高さだ。推定樹齢は300年~500年。ほかにもマンモスの象牙のような枝をはわせる「象牙杉」=写真・下=、樹木の上の樹相が丸形の「大黒杉」があって、天然杉のミュージアムといった雰囲気だ。

 下山して、「トキ交流会館」に到着した。15時30分から、「朱鷺の島環境再生リーダー養成ユニット」の講義を始めた。市職員を4人を対象にした講義。テーマは「大学が地域と連携するということ」。そのレジュメ。1)世界農業遺産(GIAHS)認証を佐渡と能登が得た意義、2) 大学が地域と連携するということ、3) 能登の先端「サザエのしっぽの先」から何が見えるのか~ 地の利を考えると、東アジアを見渡す視点が広がる、4)まとめ:「里山と里海」の未来可能性を探る~大学と地域が連携し、半島と島から発信する持続可能な社会を、と話を進めた。

 佐渡市は、トキの野生復帰を契機として「エコアイランド佐渡」を標榜し、地域の自然再生や循環型農業、グリーンツーリズム型観光などを推進することによって先進的な循環型社会づくりを目指している。一方で、36%を超える高齢化率(人口に65歳以上が占める比率)や疎化が急速に進行している地域のひとつでもある。能登半島とよく似ている。ただ、考えようによっては天然杉のごとく、土地に根を張って生き抜いてきたしぶとさが人々にはある。流行を追わず、島や半島といった条件不利地に生きる逞しさこそ、現代人が求めているものではないか。O氏は言う。「山で採った山菜をおすそ分けしようとすると、そんなに貧乏ではありませんと断る気風が島にはあります」と。確かに、島の人々の語り口調には、淡々とした自尊の気風が漂う。

⇒15日(木)夜・新潟の天気  はれ


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