自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆テレビ的な和みのストーリ-の裏を読む

2021年12月04日 | ⇒メディア時評

   これは「メンツと利権のマッチング」なのか。このブログで何度か取り上げている中国の前の副首相から性的関係を迫られたことをSNSで告白したのち、行方が分からなくなっていたプロ女子テニスの彭帥(ペン・シュアイ)選手の問題。IOCのバッハ会長は先月21日、彭選手とテレビ電話で対話をしたとIOC公式ホームページで発表した=写真=。さらに、今月1日にもIOCチームが彭選手とテレビ電話でコンタクトを取り、「彼女と定期的に連絡を取り合い、1月に個人的な会合を持つことで合意した」との「IOC Statement」をホームページで発表している。

   バッハ会長のテレビ電話は不評だった。ロイター通信(日本語版、11月22日付)は、女子テニスのツアーを統括するWTAの広報担当者の「この動画で、彼女の性的暴行疑惑について検閲なしに完全かつ公正で透明な調査を行うという、われわれの要求が変わることはない。それがそもそもの懸念だ」とIOC批判のコメントを、BBCニュースWeb版(同22日付)もアスリートの声として「IOCが中国当局の悪意のあるプロパガンダと基本的人権と正義に対するケアの欠如に加担している」とのコメントを紹介し、不評を煽った。

   IOCはなぜ彭選手とテレビ電話にこだわったのか。IOCは北京オリンピックをぜひ開催してほしい、そのためには彭選手問題を鎮静化させたいとの思いがあるのだろう。何しろ、オリンピックの放映権料と最上位スポンサーからの協賛金がIOCに入る仕組みになっている。また、中国としては北京オリンピックを是が非でも開催したいというメンツがある。双方の思惑が絡んでのマッチングが「テレビ電話」だった。

   では、誰が仕掛けたのだろうか。最初は中国側がバッハ会長に持ち掛けたのではないかとの印象だった。ところが、IOC側はホームページで2度も彭選手とのテレビ電話での対話を掲載している。こうなると、IOC側の積極的な意図を感じる。

   以下は憶測だ。前述したようにIOCが簡単に五輪を中止しない理由は、IOCの収入は放送権料が73%、スポンサー料が18%だ。その放送権料の50%以上をアメリカの民放テレビ局、NBCが払っている。東京オリンピックと韓国・平昌冬季大会(2018年)を合算した数字だが、NBCの供出額は21億9000万㌦にも及ぶ。そのNBCが東京オリンピックの開催をめぐって、アメリカ国内では批判にさらされた。「NBC Approaches “Moral Hazard” Amid Tokyo Olympics Push During Pandemic」(週刊誌「ザ・ハリウッド・リポーター」6月23日号)、モラル・ハザード(倫理観の欠如)のレベルだ、と。さらに今回の北京オリピックではもともと新疆ウイグル自治区などでの人権問題に加え、彭選手問題が起きた。NBCに対するアメリカの世論は相当厳しいに違いない。

   ある意味でIOCと一心同体の関係にあるNBCはバッハ会長に対して、テレビ電話での対話を入れ知恵した。なぜそう勘繰ったかというと、テレビ電話を使い、会食の約束をするという和みのストーリーは実にテレビ的な発想、演出方法なのだ。ところが、バッハ会長の起用には誤算が生じた。そこで、2回目の対話ではIOC選手委員会のエマ・テルホ委員長(アイスホッケー)ら女性を起用したのではないだろうか。あくまでも憶測だ。

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