自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆能登半島地震 遺産と伝統文化の気がかりな行く末

2024年01月10日 | ⇒ドキュメント回廊

   石川県は昨夜から雨続きで、気象庁は能登の輪島市、珠洲市、七尾市、中能登町に大雨警報を発表し、きょう10日夕方にかけて雨や雪解け水により土砂災害の危険度が高まると注意を呼びかけている。メディア各社の報道によると、県は震災による死亡を203人(10日午前9時現在)、このうち地震や津波が直接的な原因でない、いわゆる災害関連死が7人と発表した。

   先日、能登町の実家に行く際、う回路の穴水町を経由した。道路はどこもかしこもヒビ割れて隆起し、傾いていまにも崩れそうな家屋も多い。のと鉄道「穴水駅」近くにある穴水大宮の前を通ると、鳥居や手水舎(てみずしゃ)が無残にも崩れ落ちていた=写真=。毎年9月に大宮などを中心に盛大なキリコ祭りが開催される。神輿やキリコ、山車などが曳き出され、提灯や奉灯で長い光の帯ができ、イヤサカヤッサイ、サカヤッサイと男衆の掛け声も勇ましく、笛と鉦、太鼓の囃子が町中に響き渡る。崩れた鳥居や周囲の家屋を眺めると、能登の伝統のキリコ祭りは今後どうなるのかと気がかりになる。

   珠洲市で木炭製造会社を経営する大野長一郎氏と連絡がつき電話で話した。伝統的な炭焼きを今も生業(なりわい)としている県内で唯一の事業所で、付加価値の高い茶道用の炭の生産に力を入れている。自宅と作業場は市内の山中にある。被害を尋ねると、「3つある(炭焼き)窯は全滅です」と。

   茶道用の炭は切り口がキクの花模様に似ていることから「菊炭」とも呼ばれ、炉や風炉で釜の湯を沸かすのに使う。クヌギの木を材料としていて、大野氏の菊炭はススが出ず、長く燃え、燃え姿がいいと評価が高く、全国から茶人が炭窯を見学に訪れている。大野氏は日本の茶道文化の一端を担えてうれしいと話していただけに、窯の全壊による落胆の様子が電話からも伝わってきた。

   能登の里山里海に伝承される農業や漁業、林業が国連食糧農業機関の世界農業遺産(GIAHS)に認定されたのは2011年6月のこと。FAOによる日本で初めての国際評価で、輪島の千枚田はそのシンボルだ。その千枚田に震災によって多くのヒビ割れができていると地元紙が伝えている(5日付・北國新聞Web版)。もともとこの地は地滑り地帯で、地元で語り継がれる「大(おお)ぬけ」と呼ばれる大規模災害が1684年(貞享元年)にあった。今でいう深層崩壊だ。その土砂崩れ現場を200年余りかけて棚田として復元したことから、「農業のレジリエンス(復興)」としてFAOは高く評価している。それが棚田に多くのヒビ割れとなると水耕栽培は当面は難しいかもしれない。

⇒10日(水)午後・金沢の天気   あめ


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