森元総理の発言がまた物議をかもしている。東京都内で18日夜に開かれた日本維新の会の鈴木宗男参院議員のパーティーであいさつした森元総理は「ロシアのプーチン大統領だけが批判され、ゼレンスキー氏は全く何も叱られないのは、どういうことか。ゼレンスキー氏は、多くのウクライナの人たちを苦しめている」と発言した。日本の報道に関しても「日本のマスコミは一方に偏る。西側の報道に動かされてしまっている。欧州や米国の報道のみを使っている感じがしてならない」と指摘し、ロシアに厳しい姿勢の岸田総理にも「米国一辺倒になってしまった」と述べた(18日付・共同通信Web版)。
ゼレンスキー氏が抗戦を続けるから国民が犠牲になっているとの趣旨の発言だろうが、ロシアによるウクライナ侵攻こそが糾弾されるべきであって、この発言に多くの人は矛盾を感じるに違いない。これまでロシアの立場を代弁するかのような発言を繰り返してきた鈴木議員のパーティーの場ということもあって、森氏はサービス精神を発揮して、ゼレンスキー批判を述べたのだろう。それにしても、元総理の発言として許されるのだろうか。
森発言は何度も物議をかもしてきた。2000年4月、森氏は脳梗塞で倒れた当時の小渕総理の後を継ぐかたちで総理に就任した。その直後の5月、神道政治連盟国会議員懇談会で森氏は「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知して戴く、そのために我々が頑張ってきた」と述べた。いわゆる「神の国」発言である。戦後、天皇は神性を否定する「人間宣言」をしているにもかかわらず、国の総理がそれを否定するような発言をしたとして大騒ぎとなった。
表現が率直過ぎて、笑える失言もある。2005年8月、参院で郵政民営化法案が否決された当時の小泉総理が衆院解散を決意する。それを思いとどまらせようと森氏が官邸を訪ねたが、「殺されてもいい」と小泉氏に拒否された。会談直後に、森氏は「寿司でも取ってくれるのかと思ったらこの干からびたチーズだ」「硬くて歯が痛くなったよ」と不平を漏らした。干からびたチーズを前総理の森氏に出したことで小泉氏は解散総選挙への本気度を示したとメディアが報じ、結果、選挙は自民大勝。その干からびたチーズはフランス産高級チーズ「ミモレット」だった。
そして、2021年2月3日、東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長だった森氏はJOC臨時評議員会で、「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。みんな発言される」と述べた。メディアはこの発言を女性差別であり、オリンピックへの女性参画の流れに逆行すると報道した。その後、森氏は自身の発言の責任を取って辞任している。
言葉は本人が込めた想いとは裏腹に誤解を生みやすい時代環境になっている。それだけ、価値観の多様化や、とくに人権には厳しい視線が注がれる。語る場にもよるが、政治家が聴衆に面白く話せば話すほど誤解を生むことにもなりかねない。今回のゼレンスキー批判発言はどのように展開していくのか。
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