自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「平成」 一場の夢~上

2019年03月05日 | ⇒ドキュメント回廊

      最近、知人から勧められて円相(えんそう)の掛け軸を購入した。円相は禅の書画の一つで、円形を一筆で描いたもの。その横に「人間万事 一場 夢(じんかんばんじ いちじょうのゆめ)」と。掛け軸と向きあって、解釈を試みる。世の中に起きる良し悪し全ては、はかない夢であり、動じることはない。そんな意味だろうか。作者は曹洞宗管長を務めた板橋興宗氏。「大乗七十世」と書いてあるので金沢市の大乗寺の住職を務めておられたころの作だ。92歳の板橋氏は今も現役で、「猫寺」で知られる御誕生寺(福井県越前市)の住職をされている。この掛け軸を眺めながら、平成の世を振り返ってみたい。

   平成を言葉で振り返ると面白い。平成という元号が始まった1989年1月8日、私は34歳の新聞記者だった。当時の小渕恵三官房長官が記者会見で「平成」のニ文字を掲げる様子をテレビ中継で見て、その意味や意義、この二文字に至った経緯について取材に回った。ある大学の国文学者は名前の由来は『史記』五帝本紀にある「内平外成」(内平かに外成る)が元ではないかと教えてくれた。国内が平和であってこそ、他国との関係も成立する。軍部の台頭から大戦を招いた昭和の経験を平成の世に活かそうという意義が二文字に込められていたに違いない。平成の言葉は毎年12月に発表される「現代用語の基礎知識」選ユーキャン新語・流行語大賞から引用させていただく。審査員は学者のほか歌人の俵万智ら7人で多彩な目線で構成されている。 

              元年の「セクハラ」から「#Me Too」まで30年

   平成元年の新語部門金賞(平成3年から年間大賞)は「セクシャル・ハラスメント」(河本和子)だった。深夜のJRホームで、酔っ払った高校の男性教師がヌードダンサーにしつこく絡んで、女性から突き飛ばされ、線路上に転落し、電車とホームの間に挟まれ即死した西船橋駅教師転落事件(1986年1月)。翌年9月の判決で、女性の行為は正当防衛とされ無罪、検察も控訴を断念した。法廷でセクハラという言葉が飛び交ったわけではないが、男性にある女性軽視の発想が問われた。この判決がきっかけで、2年後の平成元年に慰謝料などの損害賠償を求めた福岡セクハラ民事訴訟が起こされるなど、セクハラという言葉が社会的認知を得ることになった。受賞者の河本和子氏はダンサーの弁護団長だった。

   平成30年新語・流行語大賞で年間大賞には選ばれなかったが、トップテンに「#Me Too」が入った。財務次官による女性記者へのセクハラ問題がきっかけだが、男と女のセクハラに対する意識の違いは30年経っても浮き彫りになったままである。

⇒5日(火)夜・金沢の天気   あめ

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