自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★2016 ミサ・ソレニムス~下

2016年12月27日 | ⇒ドキュメント回廊
  最近、社会活動を行うNPOなど団体で「CSV」という言葉がよく用いられる。CSVCSV(Creating Shared Value)は共通価値の創造、略して「共創」とも言う。これまで、CSR (Corporate Social Responsibility)という言葉をよく耳にした。企業による社会貢献、あるいは企業の社会的責任だ。CSVは組織の枠を超えて、企業や地域、人々と新たな文化的なつながりや、道徳的な規範、政治的な価値共有などもこれに入るかもしれない。

   次なる世界史の序章が始まる

  このCSVを歴史的に、グローバルに展開してきたのはアメリカだったと言っても、それほど異論はないだろう。1862年9月、大統領のエイブラハム・リンカーンが奴隷解放宣言(Emancipation Proclamation)を発して以来、自由と平等の共通価値の創造の先頭に立った。戦後、共産圏との対立軸を構築できたのは資本主義という価値ではなく、自由と平等の共通価値の創造だった。冷戦終結後も、その後も自由と平等の価値創造は、性、人種、信仰、移動とへと進んでいく。アメリカ社会では、こうした共通価値の創造を政治・社会における規範(ポリティカル・コレクトネス=Political Correctness)と呼んで、自由と平等に基づく文化的多様性を標榜してきた。

  ところが、ここに来てポリティカル・コレクトネスを標榜し、先頭に立ってきたアメリカの白人層は疲れてきた。そして「これは偽善ではないのか」と思うようになってきた。誰もが自由と平等で、それは誰かの犠牲に上に成り立っている偽善だ、と。アメリカ社会は薬物を社会にまき散らし治安を乱している不法移民に甘い顔をして彼らを事実上受け入ている。ポリティカル・コレクトネスに我々は圧迫されている、これは偽善だ、と。そのような声なき世論の盛り上がりのタイミングにトランプ氏が大統領選挙に向けて動き出し、そしてその座を勝ち取った。

  イギリスのEU離脱をはじめ、今回のトランプ勝利をひとくくりに「ポピュリズム(Populism)の嵐」と称する向きもある。ポピュリズムは、国民の情緒的支持を基盤として、政治指導者が国益優先の政策を進める、といった解釈がマスメディアなどではされる。果たしてこんな単純な意味づけでよいのだろうか。当初、マスメディアでは「トランプを支持したのは白人労働者だ」と。もっと広く、トランプ勝利を押し上げた「声なき声」があるのではないか。それは自由と平等の共創に疲れた白人インテリ層ではなかったのか。

  2017年、トランプ大統領が始動するとおそらく世界の秩序は次なるステージに入る。自由と平等の共創ではなく、価値の分断だ。アメリカ独自の価値判断がその基準だろう。次なる世界史の序章が始まる。

⇒27日(火)朝・金沢の天気   くもり
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