自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆金沢-フィレンツェ壁画物語

2007年11月24日 | ⇒キャンパス見聞

 イタリアのフィレンツェはユネスコの世界遺産に指定されている歴史の都である。「美術のパトロン」といわれたメデイチ家が庇護した街でもある。このフィレンツェの精神的な拠りどころがサンタ・クローチェ教会。何しろ、科学者のガレリオ・ガリレイや彫刻家のミケランジェロ、政治理論家のマキアヴェッリなど世界史に燦(さん)然と名を残す偉人たちの墓がある。そのサンタ・クローチェ教会の大礼拝堂の壁画の一部が金沢大学教育学部棟で復元された=写真=。

  壁画は「聖十字架物語」という14世紀のフレスコ画。フレスコ画は、壁に漆喰(しっくい)を塗り、乾かないうちに顔料で絵を描く技法だ。復元された壁画の大きさは幅7㍍、高さ5㍍にもなる。学生、教員のほか、卒業生も加わって、32分割した壁画を1日一部分ずつ描き、今月23日までにほぼ描き終えた。顔料など多くの材料はイタリアで調達した。

  壁画復元に至る背景には金沢大学のサンタ・クローチェ教会壁画修復・調査研究プロジェクトがある。教育学部の宮下孝晴教授(イタリア美術史専攻)がNHK教育テレビ「人間講座」でルネサンス黎明期のフレスコ壁画を紹介したことがきっかけで、東京の篤志家から壁画修復のための寄付金(2億円)の申し入れがあった。金沢大学は国際貢献活動との位置づけで、大学として寄付金を管理、修復作業にあたっては国立フィレンツェ修復研究所、そしてサンタ・クローチェ教会の3者による日伊共同プロジェクトとしてスタートした。2005年から5年計画。修復の過程で、宮下教授らが復元を試みることで実践的な教育として生かせないかと昨年からプランを練ってきた。

  今回復元された壁画は、1380年代にアーニョロ・ガッティが描いた大作。実際の壁画は幅8㍍、高さ21㍍もある。7階建てのビルの壁面に絵が施されていると表現した方が分かりやすいかもしれない。そこには旧約聖書のエデンの園から始まり、7世紀の東ローマ皇帝ヘラクリウスの時代に及ぶキリスト教の黄金伝説が描かれている。今回金沢大学で復元された壁画は、キリスト教を国教として公認したコンスタンティヌス帝の母ヘレナの話。熱心なキリスト教徒であったヘレナはエルサレムを巡礼し、苦労の末にキリストがはり付けにされた十字架をゴルゴダの丘で発見する。しかし、十字架は3本あり、どれがキリストの十字架であるか分からない。そこで、通りかかった葬列に3本の十字架をかざすと、最後の一本で死者が蘇った。そこで、「真の十字架」が判明したという伝説が描かれている。

  ある意味で宗教色が強いので、論議の末、イスラム圏からの留学生が多い理系の建物を復元場所として避けるなどの細やかな配慮もなされ、実現にこぎつけた。

 ⇒24日(土)夜・金沢の天気  くもり 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする