デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

ロクさん、ぷりっぶりっ

2024-05-19 07:48:25 | 買った本・読んだ本
書名『ロクさん、ぶりっぶりっ』
著者  大島昭彦    出版年 2024   出版社  蝶夢舎

私が3歳から高校2年まで過ごし仙台市追廻を舞台にした物語である。著者が「作者より」の中で、書いているように熊谷達也の「七夕しぐれ」という小説の舞台も追廻、主人公たちも小学生と設定が似ている。熊谷の小説より前に書かれてたものだが、これを真似たものではないことを力説したかったのだろう。それは熊谷が追廻のことを差別された人たちが住むところというように設定しているからなおのこと、そんな誤解をもたせるようなことを書かれてしまったことへの疑念や憤りをこめて、どうしても先にそれを伝えなくてはという思いからだった。著者もまた追廻で暮した人間で、住んでもいなかった熊谷にはとうてい書けなかった追廻のリアリティが散らばまれている。バキュームカーのホースの震え、隣の家から聞こえるくしゃみ、落ちていた銃弾のこと、亜炭山の暗さ、洞窟のなかにいたコウモリなど、仙台の街中から遠く離れていないところにあった異界が見事にビビットに描かれている。これは暮らしていないものでないと書けないことである。そしてそこに追廻への限りない愛が感じられる。小説の大事な人物となっているロクさんも、コンノジッチもみな実在した人物である。もちろん脚色されているが、実際にいた人たちだからこその存在感がそこにあった。よく描かれていたと思う。自分の目には生き生きとあのときの前はちまきをして、リヤカーを曳いていたロクさんや、作業服をいつもガソリンだらけにしていた今野さんのことがまるで昨日のことのように浮かんできた。子どもたちも、特にモデルはいなかったのだろうが、生き生きと描かれていた。なによりも追廻は、少年たちの場であったのだ。ここでも登場するコンコン山や龍の口や射撃練習場跡や洞窟に亜炭山など、子どもたちの遊び場にはことかかなったことだけでなく、そこは秘密を宿し、それを共有するという子どもにとってはたまらない魅力をもった場に満ちていたからである。この小説にもそりすべりやすみかなど、あの頃の小学生の子どもたちがみんなやっていた遊びがうまくモチーフとなって使われていた。これは比較してはいけないことかもしれないが、「七夕しぐれ」の子どもたちよりは、ずっと生き生きとしている。それは子どもたちが本気で遊んでいるからだろう。悪者が誰もいなかったのも良かった。昔「追廻っ子がんばれ」という芝居をつくったことがあった。それは追廻への自分なりへの誇り、そしてそんな時を一緒に過ごしていた友だちが好きだったからだと思う。同じように著者も追廻で暮し仲間たちと一緒に過ごしたことへの誇りのようなものがあったのではと思う。

著者は私とは3歳違いの弟である。自分も弟にみならって、濃厚な追廻のことが書きたくなってきた。ただ自分には小説は書けないので、随想ということなるだろうが・・・
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