書名 2022年のモスクワで、反戦を訴える
著者 マリーナ・オフシャンニコワ 訳 武隈喜一・片岡静
出版社 講談社 出版年 2024
ウクライナ侵攻をし、その正当性を国民に徹底的に植えつけるため厳しいメディア統制のもと、プロパガンダを続けるロシアの中で、目に見えるかたちで反旗を翻した、あのNO WARk プラカードを放送中に掲げた女性ジャーナリストの手記。侵攻開始以来もやもやしていた気持ちが、この時はよくぞやったと久しぶりにスッキリしつつ、このあと無事でいられるのか気になっていたが、この後ロシアから脱出できたというニュースにほっとしたものである。手記を読むと、この脱出劇はかなりドラマティックで、危険に満ちたものだったことがわかった。なによりなことだと改めて思う。ただこの手記はあの行動のあとにどのような目にあったか、家族内での分断、脱出に至るまでのドラマチックな物語としてだけ見てはならないだろう。この手記から何を読み取るべきか、それはこの戦争の時代、メディアが恐ろしいほど影響力をもってしまっていることを、厳しく認識することだろう。ロシアのようにプロパガンダの武器としてメディアを徹底的に利用することを、よそ事のように思うほど、この国のメディアのありかたは立派なものではない。本書にも、日本のあるメディアが著者と一緒にロシアにある避難施設の取材を、上から入った電話で、「首がとぶ」と中止するという話が出ている。これが物語っているは、上からの圧力に対して、その前にそれを察して、手をひくことに慣れてしまっているということだ。抵抗は難しいだろう、しかし取材や報道を自らやめる、このことがすっかり身についていることが問題ではないか。プロパガンダに統制されていることも恐ろしいが、その前に自ら規制をかけてしまうこと、それはもっと恐ろしいことではないか。そしてこの国のメディアもすっかりそうしたことに毒されてしまったのではないか。ロシアだけのことではない、そう思わせた一冊であった。
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