デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

サイのクラの大旅行-幻獣、18世紀ヨーロッパを行く

2009-08-02 23:27:31 | 買った本・読んだ本
書名 「サイのクラの大旅行-幻獣、18世紀ヨーロッパを行く」
著者 グリニス・リドリー 訳 矢野真千子
出版社 東洋書林 出版年 2009
18世紀半ば、あるインド植民者の邸宅で、親をなくした子どものサイが飼われていた。名前は「クララ」。東インド会社の社員でもあったオランダ人船長のヴァン・デル・メールが、見世物にするため購入、船でオランダまで運ぶ。そしてライデン、ベルリン、ウィーン、ナポリ、パリ、ロンドンとヨーロッパ各地をおよそ二十年間興業してまわる。興業師ヴァン・デル・メールの才能にとにかく驚かされた。興業の原点を教えてもらった。
およそ三トンのこの動物をまずどう運搬するかが問題だったのだが、特注の馬車をつくり(この説明が資料もないからなのだが、ちょっと淡白だったのが残念)、また河川を利用して最大の問題であった移動方法をクリアー、ほとんど実物を見たことのない人々のために、ライデンの画家を利用してポスターをつくり、巧みな宣伝で前人気をあおるばかりか、さらにはマイセンの磁器のデザインとしてタイアップ、グッズの販売までしていたという、現代にも通用するような戦略で、この見世物興業を大成功させるのである、この男。
成功の秘訣はいくつかある、これを興行師として学習しなければならない。
まず「サイ」の魅力に目をつけたこと、これが大きい。サイは当時のヨーロッハの人々にとって、「聖書(ヨブ記)」にも出てくるビヒモスと呼ばれている動物として、またユニコーンとして、プルニウスの「博物誌」でゾウの強敵として認識されていた。つまり幻獣として認知されていたことを見抜いた。
印刷業者とのタイアップ。印刷技術では当時世界一だったライデンで盛んになっていた解剖学に便乗し、画家のアルピーヌスにクララを写生させ、『人体筋骨構造図譜』の中でサイが草をはんでいる図が掲載されるのだが、これが成功の大きな鍵を握ることになった。これをヴァン・デル・メールはポスターとして宣伝に使ったのだ。広告の基本なのだが、見事なタイアップである。
さらに彼がただ者ではないのは、巧みなキャッチコピー
「サイとゾウは強敵どうしで、サイはゾウに出会うや相手の腹をめがけて突進し、その角で突き殺すと言われている」
「彼は体を維持するために、毎日六十ポンドの干し草と二十ポンドのパンを食べ、バケツ十四杯の水を飲み干す」
「この動物が分泌した液は、多くの病を治す薬となる」などなどなのだが、それ以外にも公演する場所に応じたキャッチをつくるなど臨機応変な対応も見事である。
なによりも凄いというか、18世紀にこんなことまで考えていたのかとびっくりしたのが、クララをメディア現象にしてしまったことである。マイセンがつくる磁器製品に描かれるすべてのサイのモデルとなる他、フランスではサイ時計が生まれる。ヴァン・デル・メールはグッズ(コイン)をつくり、会場で販売している。
さらに著者によればヴァン・デル・メールは、クララが死んだという情報を流すなどメディア操作までしていたというからあっぱれである。
久々のあっぱれ興行師の、実に小気味いい成功談であった。大満足なのだが、惜しむらくは、図版の少なさ。本書で何度もこのクララの宣材のことに触れられ、当時の画家が書き残した作品の話しがでてくるのに、それがでていないというのはかなり欲求不満にさせられる。
「十七年間、ヴァン・デル・メールはこの愛すべき珍獣を旅の道連れにしたおかげで、階級の壁も国境も、らくらくと越えることができた」
興行師って、どうだ、いいだろう、それをストレートにつたえてくれる、そんな著者の思いが伝わる一文である。
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満足度 ★★★


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