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ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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韓国内の映画 Daumの人気順位 と 週末の興行成績[6月1日(金)~3日(日)]

2012-06-04 23:51:28 | 韓国内の映画の人気ランク&興行成績
 韓国映画短い記憶(ヘファ、ドン)についてこのブログ記事で紹介したのが2011年3月1日
 SARUさんによる推薦コメントもあり、その後ずっと関心をもち続けてきましたが、今日渋谷での試写会に行って観てきました。主人公の女性の私的状況&心理等を丁寧に描きつつ、広く社会の問題に通ずる視点もあり、期待通りの佳作でした。SARUさんがtwitterで「かつてのイム・グォンテク作品のような分断などの大状況が映画のテーマとなる時代」ではなくなった「現代の韓国に生きる人々をより良く、深く描いているのは、低予算ゆえに身の廻りの小さな世界を描くことになっている独立映画なのかもしれません。そしてその小さな世界は、日常の小さな世界であるがゆえに、この日本、そしていろいろな国に繋がっていくのでは」と呟いていらっしゃるのは私ヌルボも全く同感です。

       

 この作品、最初からアラと思ったのは、この主舞台も<再開発地域>なんですね。最近のいくつかの記事で書きましたが、再開発のことや消えつつある<タルトンネ>について描いた作品が実にたくさんあります。映画(「パジュ」等々)も、漫画(「神と一緒に この世編」)も、小説(草剛訳の「月の街山の街(練炭の道)」等々)も、絵本(「わたしの社稷洞(ザジクドン)」)も・・・。
 この映画の再開発地域では、捨て犬がたくさん出てきます。再開発のために、飼っていた犬を捨てて引っ越して行った人がそんなにも多いということなのかなー・・・。
 で、この再開発地域はどこかな、とエンドロールを観ている途中でミン・ヨングン監督と主演のユ・ダインさんの舞台挨拶準備のために途中で切られてしまったので確認できず・・・。その舞台挨拶の内容は<kazumiのミーハーワールド!>で、・・・って、この詳しさはkazumiさん録音されてたのか? もしかして私ヌルボの前列にいらっしゃった!? (SARUさんも。)
※「短い記憶」の公式サイトは→コチラ。首都圏でも一般公開すればいいのにねー。6 月7 日(木)・8 日(金)の2 日間、MBC の動画配信サイトでオンライン試写会も実施するそうですが・・・。詳細は→コチラ

 さて、渋谷の宮下公園方面に行ってラッキーだったのが、ちょうど今渋谷TOEIで上映中の「ロボット 完全版」。ついでに観たのではなくて、本日の2大目的でした。14:50~の回が始まる直前、場内放送の「終映は6時」という予告に、観客(約40人?)に軽いざわめきが起こりましたが、結局は大大大サービスの娯楽巨編で、3時間以上の上映時間もあっという間。SFにアクション(カーチェイス等々)に歌に踊りに、笑いにロマンスに、何でもあり! ラストの方の戦闘場面の奇想天外さには唖然。「バトルシップ」のあの巨大な車輪状の大量破壊兵器よりずっとすごい! ハリウッドの娯楽大作制作陣も真っ青です、たぶん。→コチラの記事によると、マチュピチュでのダンスシーン(!)等が完全版で追加されたとか。なんでインド映画なのにマチュピチュなのか、そんなことはどーでもよろし。
 関係ないけど、「いいえ(イルレ)」等々、タミル語ってところどころ日本語字幕と同じ音になるような・・・。大野晋先生ならずとも日本語の「タミル語起源説」を思いつきそう。また「私は」が「ナ」、「お母さん」の幼児語が「オンマ」というのは韓国語でないの! で、→コチラの記事には韓国語とタミル語の関連性について書かれていますが、「タミル語の起源が韓国語」という方向で考えるところが韓国人らしいところでしょうか。

         ★★★ Daumの人気順位(6月5日現在上映中映画) ★★★

【ネチズンによる順位】

①アンニョン、ハセヨ!(韓国)  9.7(38)
②語る建築家(韓国)  9.6(39)
③おばあさんは1年生(韓国)   9.6(38)
④タイタニック 3D 9.6(2455)
⑤ヤコブへの手紙  9.6(20)
⑥トゥレソリ (韓国)  9.0(130)
⑦ミックマック  8.9(47)
⑧建築学概論(韓国)  8.5(2152)
⑨ブルーバレンタイン  8.5(41)
⑩KOREA(韓国)  8.5(931)

 初登場は⑤と⑨の2作品。
 ⑤「ヤコブへの手紙」は日本ではすでに2011年1月に公開されています。韓国題は「야곱신부의 편지」。
 ⑨「ブルーバレンタイン」も2011年4月に日本公開。韓国題は「블루 발렌타인」。
⑤と⑨、日本で観た人の評価も決して低くはないのですが、なぜかあまり話題にならなかったようで、私ヌルボも観ていません。

【専門家による順位】

①タイタニック 3D  10.0(2)
②第七の封印  9.0(2)
③メランコリア  8.3(6)
④The Future  8.0(1)
⑤アベンジャーズ  7.7(7)
⑥よその国で(韓国)7.6(6)
⑦異邦人たち(韓国)  7.5(2)
⑦レッドマリア(韓国)  7.5(2)
⑨アルマジロ  7.3(3)
⑩建築学概論(韓国)  7.1(6)
⑩ウンギョ(韓国)  7.1(6)

 ⑥「よその国から」だけが新登場。ホン・サンス監督によるイム・サンス監督の「金の味」とともに、先月カンヌ国際映画祭コンペ部門にノミネートされた作品。若い映画学科の女学生(チョン・ユミ)とその母(ユン・ヨジョン)が借金から逃れて海辺の町モハンへ。女学生はペンションの受付で働きながらシナリオを書いているのですが、そこに3人のアンヌという女性が現れます。有名映画監督と、韓国人男性と浮気中の既婚女性と、韓国人女性のもとへ走った夫に捨てられたバツイチの女性の3人。海辺にはいつも安全監視員の男(ユ・ジュンサン)がいて、同じペンションに泊まる3人のアンヌは、彼と出会う・・・。イザベル・ユベールとかムン・ソリも出演しているんですね。しかし、海辺のペンションといい映画科の学生や監督といい、どこの国に行ってもホン・サンス作品はあいかわらずのようです。韓国題「다른 나라에서」で、「他の国で」と直訳している記事が多いようですが、ちょっと不自然な感じ。

         ★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績[6月1日(金)~3日(日)] ★★★

         1位「メン・イン・ブラック3」、2位「私の妻のすべて」は変わらず

【全体】

順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・・・・・・週末観客動員数・・・・累計観客動員数・・・・累積収入・・・上映館数
1(1)・・メン・イン・ブラック3 ・・・・・・・・・・・・5/24・・・・・・・・・・・・・・533,555・・・・・・・・・2,455,316 ・・・・・・・・20,476・・・・・・・540
2(2)・・私の妻のすべて(韓国)・・・・・・・・・5/17・・・・・・・・・・・・・・533,555・・・・・・・・・2,784,894 ・・・・・・・・20,934・・・・・・・474
3(19)・・チャ刑事(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・5/30 ・・・・・・・・・・・・・334,250・・・・・・・・・・・453,566 ・・・・・・・・・3,364・・・・・・・431
4(25)・・未確認同映像 ・・・・・・・・・・・・・・・5/30 ・・・・・・・・・・・・・295,733・・・・・・・・・・・353,034 ・・・・・・・・・2,423・・・・・・・360
      絶対クリック禁止(韓国)
5(6)・・スノーホワイト・・・・・・・・・・・・・・・・・5/30・・・・・・・・・・・・・・261,558・・・・・・・・・・・452,588 ・・・・・・・・・3,344・・・・・・・443
6(3)・・アベンジャーズ ・・・・・・・・・・・・・・・4/26 ・・・・・・・・・・・・・・・96,753・・・・・・・・・6,996,982 ・・・・・・・・58,971・・・・・・・281
7(4)・・金の味(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・・・5/17 ・・・・・・・・・・・・・・・50,357・・・・・・・・・1,131,158 ・・・・・・・・・8,533・・・・・・・248
8(31)・・マダガスカル3・・・・・・・・・・・・・・・6/06 ・・・・・・・・・・・・・・・39,738・・・・・・・・・・・・40,912 ・・・・・・・・・・・433・・・・・・・186
9(5)・・KOREA(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・・・5/03 ・・・・・・・・・・・・・・・19,625・・・・・・・・・1,856.843 ・・・・・・・・13,348・・・・・・・139
10(7)・・劇場版イナズマイレブンGO:・・・・5/24・・・・・・・・・・・・・・・10,872・・・・・・・・・・・・81,756 ・・・・・・・・・・・558・・・・・・・・96
       ※KOFIC(韓国映画振興委員会)による。順位の( )は前週の順位。累積収入の単位は100万ウォン。

 「メン・イン・ブラック3」が先週に続いて1位。「私の妻のすべて」は2位を保ち、300万人にも達する勢い。
 新登場は3・4・8位の3作品です。
 3位「チャ刑事」は、刑事物といってもコメディ。「魔性のDライン」、つまりはデブでフケツなチャ刑事(カン・ジファン)に、ファッション業界に起こった麻薬事件を捜査するため、2週間で20kgのダイエットに励み、ファッションモデルに変身しろというミッションが下されるのですが・・・。カン・ジファンとシン・テラ監督とのタッグはヒット作「7級公務員」(2009年)以来。韓国題は「차형사(車刑事」。
 4位「未確認同映像 絶対クリック禁止」、暑くなってきてぼつぼつホラーの季節。妹(カンビョル)が購入した未確認動画を、姉(「過速スキャンダル」で注目されたパク・ボヨン)は動画を見れば死ぬという妹(カンビョル=ドラマ「屋根部屋の皇太子」に出てたとか)の話をテキトーに聞き流すが、動画を見た後狂気に捕われていく妹を見て心配になり、サイバー捜査隊で仕事をしている彼氏(ドラマ「製パン王キム・タック」のチュ・ウォン)を通じて動画の謎を探るが、その間に妹は突然消してしまう・・・。うーむ、このテのホラーはなかなか元祖(「リング」)を超せないような気がするんだけどなー・・・。韓国題は「미확인 동영상:절대클릭금지」。
 8位「マダガスカル3」、私ヌルボは今日この映画の予告編を観ました。8月1日公開。韓国題「마다가스카3:이번엔 서커스다!」の副題にあるように今度はサーカスです。韓国では「ル」抜きで「マダガスカ」なのかと思ったら、国名は마다가스카르(マダガスカル)。

【多様性映画】

順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・・・・・・週末観客動員数・・・・累計観客動員数・・・・累積収入・・・上映館数
1(新)・・よその国で(韓国)・・・・・・・・・・・・・・5/31 ・・・・・・・・・・・・・・・6,680 ・・・・・・・・・・・・・・9,363 ・・・・・・・・72 ・・・・・・・・・・33
2(1)・・The Future・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5/17 ・・・・・・・・・・・・・・・・・697 ・・・・・・・・・・・・・・7,458・・・・・・・・・60・・・・・・・・・・・8
3(4)・・アンニョン、ハセヨ!(韓国) ・・・・・・5/24 ・・・・・・・・・・・・・・・・・539 ・・・・・・・・・・・・・・3,729・・・・・・・・・23・・・・・・・・・・13
4(5)・・A Dangerous Method ・・・・・・・・・・5/10・・・・・・・・・・・・・・・・・・404 ・・・・・・・・・・・・・25,750・・・・・・・・195・・・・・・・・・・・7
5(8)・・カラフル(日本) ・・・・・・・・・・・・・・・・・5/10・・・・・・・・・・・・・・・・・・302 ・・・・・・・・・・・・・・4,175・・・・・・・・・27・・・・・・・・・・・5

 初登場は1位「よその国で」のみ。上述しました。

<韓国漫画名作100選>② 専門家が選んだベスト10 

2012-06-03 15:45:50 | 韓国の漫画
 5月21日の記事「<韓国漫画名作100選>① ベスト10を紹介 ★第1位は「恐怖の外人球団」の続きです。
 ①では、「ソウル新聞」と韓国漫画映像振興院の共同企画「韓国漫画名作100選」の1~10位を紹介しました。
 今回は、4月23日付「ソウル新聞」の「[韓国漫画名作100選] 80年代をリードした「恐怖の外人球団 思い出を超えて伝説へ」に載っていた、専門家が選んだベスト10を紹介します。
 先の記事と重なる作品については説明を省略します。

    
           【この表の左の列が専門家推薦の順位。】

【専門家推薦】   

①イ・ヒョンセ(이현세.李賢世)「恐怖の外人球団(공포의 외인구단)」(1982)

②キム・スジョン(김수정)「赤ちゃん恐竜 ドゥリ(아기곡룡 둘리)」(1983)

③ホ・ヨンマン(허영만.許英萬)「おー! 漢江(ハンガン)(오! 한강)」(1987)
 「食客」等々、現在も第一線で活躍しているホ・ヨンマンですが「私が選んだ70年代最高の漫画家ベスト10」という韓国のブログ記事にはすでに彼の名前が入っています。この「おー! 漢江」は80年代民主化運動が最も高揚した1987年刊行。本ブログの過去記事「韓国の代表的漫画家15人」では、「デモ学生が正しいとした、画期的な<80年代運動圏の必読漫画>とのこと」と書きましたが、その後も未読のまま。(少し昔の漫画は相変わらず入手困難で、再刊もされていません。) 
 しかし、今回は韓国サイトをいくつか見て若干情報を得ました。中でも「ホ・ヨンマンの「おー! 漢江」を再び読む」というブログ記事によると、前半こそ主人公は革命的情熱に燃えたが、後半は懐疑的になり煩悶して、ラストではやや陳腐な反共の内容に落着してしまった、ということで、「安企部の支援を受けた反共漫画ではないか」との臆説も広まったそうです。しかし、この記事の筆者は、今読み直して、むしろその後半に深く感動したと記しています。

       
           【「おー! 漢江」第1巻】

④コ・ウヨン(고우영.高羽榮)「三国志(삼국지)」(1968)

⑤コ・ウヨン(고우영.高羽榮)「林巨正(イム・コクチョン)(임꺽정)」(1974)
 コ・ウヨンは、大人向け長編歴史劇画の先駆者。「林巨正」は洪命憙(ホンミョンヒ.홍명희)の歴史小説が原作。他に「十八史略」「一枝梅」等も描いています。

⑥ユン・スンウォン(윤승운.尹勝雲)「メンコンイ書堂(맹꽁이 서당)」(1983)
 書堂(学塾)の先生が弟子たちに歴史を教えるという形式の、歴史学習漫画の元祖。この漫画のことは、一昨年(2010年)富川のミュージアム漫画奎章閣に行って初めて知りました。(過去記事参照→コチラ。) 「メンコンイ」はアマガエルの一種のジムグリガエル。孔子(コンジャ)と孟子(メンジャ)の名から1字ずつ取った「孔孟書堂」が本来の書堂の名ですが、それをふざけて逆にしたもの。漫画雑誌の「ポムルソム(보물섬.宝島)」に25年間連載され、連載終了時には「ハンギョレ」にも記事が載りました。(→コチラ。) 
     
    【富川市・ミュージアム漫画奎章閣の「メンコンイ書堂」展示物。(2010年9月)】

⑦キル・チャンドク(길창덕.吉昌悳)「コボンイ(꺼벙이)」(1970)
 キル・チャンドクは、上記のユン・スンウォンやシン・ムンス(申文壽)等とともにいわゆる<明朗漫画>の開拓者。「コボンイ」は、1968年から14年間「少年韓国日報」に連載された「チェドンイ」と並ぶ彼の代表作。2010年81歳で亡くなりましたが、そのニュース記事によると「チェドンイ」の連載回数4800回は韓国最長連載記録だそうです。 
     
 【これもミュージアム漫画奎章閣の「コボンイ」の展示物。手前、犬に追っかけられている少年がコボンイ。】

⑧ヤン・ヨンスン(양영순)「ヌードルヌード(누들누드)」(1995)
 2001年タイガーコミックスとして日本語訳が出た韓国漫画中の1つ。私ヌルボはこの作家の「千一夜話」は表紙(→コチラ参照)に惹かれて購入しましたが、内容は今ひとつ、だっかな。「ヌードルヌード」は未読ですが、アマゾンのコメントには1件とはいえ「アイロニカルというかシュールというか、ただのエロマンガではありません。子供にはもったいない、大人のための1冊です」と★5つをつけた方がいます。

⑨キム・サンホ(김상호)「正義の使者 ライパイ(정의의 사자 라이파이)」(1959)
      
      【タイトルも図柄も時代を感じさせます。】
 この漫画については知りませんでした。→コチラの韓国ブログで、往年の漫画ファンがこの作品への思い入れを何枚もの画像とともに綴っています。

⑩ユン・テホ(윤태호)「(이끼)」(2007)
 笞(むち)ではなくて苔(こけ)ですよ。2010年日本でも公開された映画「黒く濁る村」の原作漫画です。

 先に掲げた表の2列目は「読者選好度」。一般読者による順位ですが、これは前回のものと同じなので説明は略します。

【読者選好度】

①イ・ヒョンセ(이현세.李賢世)「恐怖の外人球団(공포의 외인구단)」(1982)

②ホ・ヨンマン(허영만.許英萬)「食客(식객)」(2002)

③パク・ソヒ(박소희.朴韶希)「(궁)」(2002)
 
④カンプル(캉풀)「あなたを愛しています(그대를 사랑합니다)」(2007)

⑤チョン・ククチン(전극진)作:ヤン・ジェホン(梁載賢양재현)画「熱血江湖(열혈강호)」(1994)

⑥キム・スジョン(김수정)「赤ちゃん恐竜 ドゥリ(아기곡룡 둘리)」(1983)

⑦チョン・ゲヨン(천계영)「オーディション(오디션)」(1998)

⑧チョソク(조석)「心の声(마음의 소리)」(2006)

⑨キム・セヨン(김세영)作:ホ・ヨンマン(허영만.許英萬)画「タチャ[イカサマ師](타짜)」(1999)

⑩イ・ウォンボク(이원복.李元馥)「遠い国 隣りの国(먼나라 이웃나라)」(1987)

4月に亡くなった李進煕和光大学名誉教授と、彼の義父・関貴星さんのこと

2012-06-01 23:50:12 | 韓国・朝鮮に関係のある本
 和光大学名誉教授の李進煕(リ・ジンヒ)先生が4月15日肺がんのため亡くなりました。(「民団新聞」の関係記事は→コチラ。)
 1972年発表した「高句麗広開土王陵碑の研究」で広く(?)知られる歴史学者です。(ふつう高句麗広開土王碑改竄説として理解されてます。)

 私ヌルボ、このニュースに接して、過日彼の自伝「海峡 ある在日史学者の半生」(青丘文化社.2000年)をたまたま400円という安価で入手したままツンドクになっているのを思い出し、読んでみました。

      
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 1929年現在の釜山市広西区生まれの彼は釜山の中学校卒業後、1946年親許を離れて来日しましたが、この本ではその経緯や、それまでの少年時代のこと等は何も書かれていません。書けない「事情」があると思われます。
 土浦市の朝聯茨城中央小学校の教師時代や、49年の登呂遺跡発掘の新聞記事に触発されて50年明治大学に入学し考古学を学ぶことになった等々、「編年的」に辿って行くと長くなってしまうので、今回はとくに私ヌルボが読んでいてビックリしたことを中心に書きます。

 それは1960年、安保闘争の年で、彼が朝鮮高校の教師をしていた頃です。岸首相が退陣し、世情が鎮静化した9月、彼にとってまったく予想外のショッキングな事件がおこります。

 それは8月に日朝協会の「8.15朝鮮解放15周年」を祝う代表団の一員として平壌を訪れた義父・呉貴星(日本名・関貴星)さんが9月12、13日頃岡山から上京してきて、新橋のホテルに李進煕先生夫妻を呼び出し、そして語った北朝鮮旅行の話のことです。

 「ホテルに尋ねていくと義父は興奮していて、話の中身は私には想像を絶するものでとても信じ難い内容だった。」と彼は記しています。

 その内容を要約すると、以下のようなものです。
①北京から北の特別機で平壌入りした使節団一行は「国賓」待遇で連日のご馳走攻めだったが、行動の自由がなく、ホテルのそばの大同江畔の散歩も許されなかった。 
②平壌に住む帰国者にも会わせてくれなかった。旧友にも会えなかった。

③「義父の話は、正直いって半信半疑だったが、寺尾五郎と清津へ向かう汽車の中で、数人の帰国青年に取り囲まれたときの話はショックだった。「僕らはあなたの本を読んで、この国にやって来たんだ。書いたのと全く反対ではないか。騙されて一生を棒にふった僕たちをどうしてくれる・・・・・・」と詰め寄られたのである。寺尾の本とは、『三八度線の北』(新日本出版社.1959年)のことである。 
※③の寺尾五郎氏が帰国青年に取り囲まれて・・・というエピソードはいくつかの本で読んだ記憶がありますが、モトは関貴星さんが直接居合わせた時の話なんですね。

 さて、「帰国事業を間違いだとする主張には賛成できなかった」という彼は関貴星さんに反論し、貴星さんは「部屋から出て行け」とどなって翌日岡山に帰ってしまいます。
 その後貴星さんが北朝鮮の現状を暴く本を書くらしいという話が伝わり、李進煕先生はそれを阻止するために奔走しますが、結局貴星さんの本楽園の夢破れてが1962年3月全貌社から刊行されます。

  問題の本の刊行後間もなく、総聯中央の男が李進煕先生を呼んで出版に関与したか否か詰問したそうです。その本の及ぼす悪影響について同じ判断であることを確認したにもかかわらず、その男は「呉貴星の罪状を暴露、糾弾する文章を『朝鮮新報』に書くべきだ」と言ったそうです。(李進煕先生は無言で席を立った。)
 この間、関貴星さんのそれまでの人間関係はずたずたになってしまいますが、その中でもとくに娘の呉文子さん・その夫の李進煕先生との義絶は最たるものでした。

 61年から李進煕先生は朝鮮大学校の教員になります。しかし60年代後半になって、北朝鮮内での主体思想宣伝に乗って、朝鮮総聯内で金炳植副議長を中心として思想的締めつけが強められ、しばしば反対の主張を述べたりしていた彼は結局1971年朝鮮大学校を去ります。
※1960年から同じ朝鮮大学校の歴史地理学部教員で、65年『朝鮮人強制連行の記録』を出版して大きな反響を呼んだ朴慶植教授も、思想総括の対象とされて「さまざまな圧力と嫌がらせ」を受けて合計8ヵ月入院した末70年同校を去っています。

 このような過程を経て、1972年5月、李進煕先生は北九州市に住む呉貴星さんを訪ねて詫びをいれます。
 「十年も絶縁状態がつづいたが、義父は「そうか」と言っただけで、それ以上は言及しなかった。義父がこだわった北朝鮮への帰国者数が激減したばかりか、六八年から七〇年までの三年間は帰国船が止まるほどだった。また私が大学を辞めたことで長い間のわだかまりが氷解したようだが、十年前とは別人のように老けていた。在日朝鮮人社会で「村八分」にされたために受けた精神的苦痛が大きかったのだろう。その後は年に一度ぐらい顔を合わすようになったが、互いの気持ちが分かりあえるだけに不思議と政治の話には触れようとしなかった。」

 貴星さんは1986年世を去ります。その後97年に『楽園の夢破れて』は亜紀書房から再刊されます。
 「三五年経った今読んでも、北朝鮮の現状を直視せよという義父の警告は鋭いのである」と李進煕先生は記しています。

 この自伝には、70年代以降も「季刊三千里」のこと、1972年の『広開土王陵碑の研究』の刊行とその反響のこと、81年の金達寿・姜在彦両氏とともに韓国を訪れた時のこと等々、興味深い記述が続いています。
 それらについては、機会があれば後日記すということにします。
(李進煕先生について書くか、関貴星さんについて書くか、迷いながら書き始めましたが、結局中途半端になってしまいました。)

★付記 
 『楽園の夢破れて』については、いずれ詳述したいと思います。この本が出た時点で北朝鮮への帰国者は約3万人。その後さらに6万を超える人たちが「帰国」したわけです。
 その後北朝鮮の内実について書かれ、反響をよんだ本としては金元祚『凍土の共和国-北朝鮮幻滅紀行』(亜紀書房.1984年)があります。これに比べると『楽園の夢破れて』の反響はそれほど大きくはなかったようです。総聯の逆宣伝も大きかったようですが、当時は北朝鮮や金日成に対するイメージが今とは全然違っていた、ということが大きかったのではないでしょうか? また発行も当時は「右翼」出版社として知られた全貌社だったので、「ふつうの人」が読んだとしてもマユツバものととられたと思います。
 しかし、そんな時期に自らも尽力してきた帰国事業の成否を確認する目的で訪朝し、その責任を全うするために、強い使命感を持って見たまま考えたままを組織に抗して発表した呉貴星さんは本当に大した人だと思います。

        
  【1962年刊行のオリジナル本は、アマゾンではぬわんと2万4千円!!】

 私ヌルボは『楽園の夢破れて』とその続編の『真っ二つの祖国 続・楽園の夢破れて』を再編集した北朝鮮1960』(河出書房新社.2003年)も読んでみました。北朝鮮旅行の時の具体的な事実、総聯のさまざまな圧力や嫌がらせとともに、前述のホテルでの娘夫婦や、息子との葛藤についても書かれています。前述のホテルでの会話については・・・、
 「娘婿は男泣きに泣いて私に訴えるのであった。娘も長男も、泣いた。」
 しかし・・・、
 「私は、両瞼をとじて、じっと耐えた。その網膜には、あの北朝鮮で、しいたげられた生活をしいられている数百万の同胞が写っては消えた。あの人たちは、いま、必死になって光への窓口をもとめているのだ。私がこの役割を果たさずして、誰がこの役割を果そうとするか。」
 ・・・と考え、「親子、骨肉の情におぼれてはいけないのだ!」と決意したかれは義絶という手段を選ぶのです。

 その娘で李進煕夫人の呉文子さんは『パンソリに想い秘めるとき ある在日家族のあゆみ』(学生社.2007年)という本を書いています。これも読んでみようと思います。

 昨年(2011年)9月、呉文子さんはMXテレビ<西部ゼミナール>の中の「五十年前、こんな偉大な「在日」がいた」と題した番組に出演して父の貴星さんのことを語っています。→コチラ


[蛇足]
・「李進煕先生」と書いたからといって、私ヌルボが李進煕教授の所論をそのまま受け入れていると早合点しないで下さい。先生と記したのは、学問的&人間的な誠実さを本書から感じたからです。 
・「西部邁ゼミナール」の動画のリンクを張ったからといって、私ヌルボが西部邁氏のいろんな主張に共鳴していると誤解しないで下さい。