ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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「北朝鮮の著作物の保護義務はない」という最高裁判決に首をかしげる

2011-12-10 16:13:32 | 韓国・朝鮮と日本の間のいろいろ
 映画ファンで、とくに韓国・北朝鮮映画ファンの間でカナリオ企画という会社はどれだけ知られているのでしょうか?
 朝鮮映画輸出入社から日本国内における北朝鮮映画の独占的な上映、複製、頒布を許諾されている有限会社です。
 最近では、韓国のドキュメンタリー映画「天安艦沈没」の配給・日本語製作に携わったのがこのカナリオ企画でした。
※朝鮮映画輸出入社は、北朝鮮国内の行政機関であり、北朝鮮映画の著作権等を行使する国家映画会社です。

 諸メディアの報道によると、この朝鮮映画輸出入社とカナリオ企画が日本テレビとフジテレビを相手取って北朝鮮映画の著作権侵害に対する損害補償を求めて起こした訴訟で、一昨日(12月8日)最高裁は「国家として承認していない北朝鮮の著作物の保護義務はない」として上告を棄却しました。

 この案件の具体的な内容は次の通りです。

 日本テレビは、2003年6月30日放送の「ニュースプラス1」の番組中で、北朝鮮映画「密令027」の映像の一部を事前の許諾を得ることなく放送しました。
 またフジテレビは、2003年12月15日の「スーパーニュース」の中で、北朝鮮の映画による国民に対する洗脳教育の状況を報ずる目的で、映画の主演を務めた女優が映画の製作状況等についての思い出を語る場面と映画の一部とを組み合わせた内容の約6分間の企画を放送しましたが、そこで合計2分8秒間映画の映像を許諾を得ずに放送しました。
 そこで、朝鮮映画輸出入社とカナリオ企画は、著作権の侵害を根拠として、本件映画を含む北朝鮮映画の放送の差し止めと、著作権ないし著作物利用許諾権の侵害に基づく損害賠償金550万円の支払いを求めて、2006年東京地方裁判所へ訴訟を提起いたしました。
 2007年12月の東京地裁の判決は、北朝鮮はベルヌ条約に加盟してはいるものの、わが国は北朝鮮を国家承認していないことから、北朝鮮映画は著作権法の規定には該当しないとして請求を棄却しました。
 原告側は2008年に知的財産高等裁判所に控訴をしましたが、同年12月控訴棄却の判決が下されました。
 しかし、「著作権のある著作物と同様の損害を認めることは相当ではない」としながらも、映画を営利目的で無許諾放映をしたことは社会的相当性を欠き、カナリオ企画の利益を違法に侵害する行為であり、著作権法の保護がなくても、民法709条の保護を得る利益があるとして、上記放送局2社に損害額10万円、弁護士費用2万円の支払いを命じました

※以上の参考サイト→コチラ

 ところが今回の上告審の判決では、最高裁は原告側の請求をすべて棄却し、控訴審判決で示された12万円の支払いも否定しました。

 このニュースに接して、私ヌルボが最初に感じたのは「ホントにこれでいいの?」という疑問です。

 この問題については、ウィキの<無断放映>の項目であらましを知ることができます。

 この問題の背景として、2003年に文化庁が示した次のような見解があることがわかります。
 北朝鮮がベルヌ条約を締結したとしても、我が国は北朝鮮を国家として承認していないことから、条約上の権利義務関係は生じず、我が国において法的な効果は一切生じない。したがって、我が国は、北朝鮮の著作物についてベルヌ条約に基づき保護すべき義務を負うものではなく、北朝鮮がベルヌ条約を締結することによる我が国への影響はない。

 またウィキの説明文にはテレビ朝日とTBSは引き続き、北朝鮮作品放映時にはカナリオ企画の著作権表示を画面に明示し、無断放映をしない姿勢を明確にしている」とあります。
 このようなところにも、各メディアの<(左右の)立ち位置の違い>が反映されているんですね。
※後述のブログ記事によると、NHKは政府見解とは別に独自に北朝鮮著作物の取り扱いに関する協議を行っている旨を伝えているそうです。

 今回の判決に対するネット内の反応を見ると、2ch等々では案の定喜んでいる書き込みが目立ちます。が、わずかとはいえ懸念する人もいないではありません。

 法律の文章も法律自体も、私ヌルボの数多い苦手分野のひとつですが、この件について専門家はどう考えるのだろう、と探してみたら、<企業法務戦士の雑感>という、会社で企業法務を担当している方のブログに「将軍様の高笑いが聞こえる」「たかが12万、されど12万。」と題する2つの関係記事を見つけました。それぞれ1審・2審の判決後に書かれた記事です。
 そこでは<本件に対する疑義>として次のように記されています。

 国家承認していないことをもって、ベルヌ条約による保護が適用されない、とするのは、いわば「両刃の剣」的な結論といえる。

 原告自身も、次のように主張しているそうです。

 北朝鮮の著作物が我が国において保護されないということになると、北朝鮮映画を我が国において無断で上映しても良いという結果を招くことになると同時に、北朝鮮において日本の映画が無断で上映されたり、インターネットを通じて直接日本国民に販売されたりといった事態も生じ得る。(←これを<脅し>ととる人もいるかも・・・。)

 つまり、今回の判決の裏返しで「北朝鮮には、日本の著作物の保護義務はない」ということになってしまう、ということです。

 そして<企業法務戦士>さんの意見は・・・。

 「コンテンツ大国」を目指すわが日本国にとって、国内のみならず全世界で自国の著作物が保護される、というのは当然の前提になっていなければならないはずであり、近年の保護期間延長を目指す議論の中でも、その点はかなり強調されているはずなのに、文化庁の見解といい、テレビ局の抗弁といい、そういった流れに反しているように思えてならないのは筆者だけだろうか。
 我が国において北朝鮮の著作物を保護する必要性が生じたとしても、報道目的等の利用を除けば、アタリがでることはそんなにはないはず。
 その一方で、我が国のコンテンツがかの国で保護されない、となったとすれば、潜在的に何らかの損害が出ることは覚悟せねばなるまい。


 ヌルボも<企業法務戦士>さんに同感です。
 北朝鮮が日本の、とくに日テレやフジTVのコンテンツを大量にコピーして商売に乗り出す可能性はないでしょうか? もしそうなったら、それを否定する論理があるでしょうか?
 また利害得失以前に、日本も当然含まれる(?)人権先進国(!)が、非承認国・権先進国も含めて、他国間との商業等の場で、自らその価値ある権利を否定してはいけないでしょう。

 <企業法務戦士>さんは地裁判決後、「知財高裁で、このような憂いを払拭してくれるだけの、心地よい結論が出されることを切に願うのみである」と書いていましたが、結局こうなってしまいましたね。


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